Top > 読み物 > イベントレポート > コミックマーケット72
二人の携帯電話のアラームがほぼ同時になり、起きあがるとそこは朝の世界。時間は5時。去年より一時間ゆったりと、去年と同じホテルで目覚めます。
天気はあいにくの曇り空。しかし雨が降らないのなら、気温という点では曇り空はありがたいものがあります。ホテルから駅までは若干距離があるのですが、その距離を歩くだけでも汗が出てしまいますし、涼しいのにはこしたことがないのです。
シャワーが二つあるわけではないので、詩唄いがシャワーを浴びているうちに、私は出発の準備を整えていきます。写真のリストバンドは、イベントの時には必ずと言っていいほど身に着けている「yuki」と書かれたリストバンドです。
準備と言っても、着替えも、持っていく道具も用意して纏めてあるので、漏れがないかを確認するだけという簡単な作業。あっという間に終わってしまい、テレビを見ながら暇を潰しました。暇つぶしのテレビって、内容を覚えないですよね。
手持ち無沙汰になったのでカメラを持ったまま部屋をうろうろ。ふと、窓の外の通りに目が行ったのでシャッターを押してみました。朝早いうえに日曜日と言うこともあり、車線数が多く交通量が多いことを思わせる道路にも、車は一台も走っていません。散歩の人も居ませんでした。都会というのは、この人口の差によって生まれる風景の違いが結構面白いと思います。
シャワーを浴び、焼き魚定食を何時もの松屋で食し、一路、ビッグサイトへ。人によっては設営が終わってからおにぎりなどを食べて、それを朝ご飯にする人もいるようですけど、今のところ、そんなことをしたことがありません。朝ご飯をしっかり食べられる(人間としては普通か?)のもそうですけど、お腹が空いているとやる気も起きないのです。それに、一日を快適に過ごすためには、起床後二時間以内に朝食を取るのがよいらしいですよ。
重いカートを引きずることなく、電車を乗り継ぎ、大井町駅へ。りんかい線を使っていますけど、大崎駅から乗ると言うことはあまり考えていません。時間的には大差ないですけど、何となく大井町駅の方が安心します。これはもちろん、初めてビッグサイトに訪れたときに使った移動方法と言うこともありますけど、基本的に、山手線より京浜東北線の方が好きなんですよ。青色ですし。写真のぶれは歩きながら撮ったからです。こんなところで立ち止まったらいい迷惑ですからね。
見ろ。人がゴミのようだ。三日目にサークル入場をするときの、気持ちよさは異様です。二日目の列と三日目の列では、同じ時間でも随分と人の数が違います。と、これを見ながら、前日搬入をしておいて正解だと思いました。電車の混み具合もそうですけど、荷物を持っていたらきっと周囲から大ひんしゅくを買っていたに違いありません。
入り口前で開場を待っている人達を横目に見ながら私達はすいすいと会場へ向かいます。モザイクが適当なのは、一人ひとりやるのが面倒だったからです。
ここから先は写真を撮っていません。コミケではサークルスペースの写真は、サークルの主宰が了承さえすれば撮影可能ですし、他のサイトのレポートでもスタッフに確認した上で写真を…といった文面はよく見かけますが、今回は見送りました。結果的に枚数が少なくなったので若干後悔気味ですが………。
これから効果が無くなっていくであろうエアコンの涼しさを肌に感じながら西館へ。サークル受付が始まって間もないながらも、ちらほらと設営を始めているサークルさんがいます。私達も自分達の島へ。
今回の配置は「た列」ですが、同じ島で先に設営を始めているサークルは1サークルしかいませんでした。一般的に挨拶は両隣にするのが暗黙のルールですけど、こんな風に島に1サークルしかいないとなると、自然とそのサークルに挨拶をしたくなるのは人としての性なのか、同人作家としての性なのか。ひとまず、先に入場されていたサークルに挨拶をして、た-04bへ。
チラシの片付け。前日搬入の時に既に配られていたチラシは整理整頓したのですが、また数枚増えていましたので、それを整理しつつ、袋に纏めます。印刷所やイベントに関するチラシが大半ですけど、印刷所は使わない、イベントを取捨選択できる土地に住んでいない、と言うこともあり、殆どのチラシはただのゴミになってしまいます。(いただいたチラシは、スタッフに預け、美味しく頂いてもらいました。)
椅子をおろし、詩唄いが「それじゃあ、ディスプレイ担当者、お願いします」と、私に匙を投げたので、全力で受け止めてディスプレイ開始。
ディスプレイが派手な割には、使っている道具がシンプルであること、やり慣れていて練度が高いと言うこともあって、10種類という、私としては久しぶりの大量の本も手早く捌ききり、9時にはディスプレイが終わってしまいました。
開始一時間前ですけど、周りの島に比べて「た」だけは妙に集まりが悪いという印象。残り一時間で、スペースはまだ半分近く開いています。
途中、見本誌チェック(普通は局部の修正などをチェックしているため、小説系サークルは挿絵に問題なければその場では特に何もいわれない)も一冊当たり数十秒で終わり、開場を待ちます。
相変わらず時間に正確なイベント開始宣言と共に、コミケ全日程の最終日である三日目がスタート。三日目配置の影響なのか、去年の二日目配置の時に比べて随分とまったりとした出だしだなあ、と言う印象。去年は開場後すぐに西館に人が来ていたという記憶があるので、随分と驚きました。予想通りではあるので、どちらかというと「こんなものかな」と言う感じでしょうか。
混雑状況や、前半は暇になるだろうと察した詩唄いが、東館に挨拶に行くことに。開場15分で挨拶回りというのは、サークル参加特権ですね。寝落ちしないようにと踏ん張りながら、一人でスペースを守ります。スペースから西館を眺めながら思うのは、去年と風景が正反対なので、同じ西館にいるはずなのに違和感が凄くあると言うこと。なぜか同じコミケにいるという雰囲気がしませんでした。と、机の上(一般参加者が歩く通路からは見えないところ)に詩唄いの財布があることに気が付きました。
そして、詩唄いが出て行ってから5分後、案の定、財布を取りに戻ってきました。実害のない天然ボケは眺めている分には萌え要素なので少し和んでみたり。
さて、通路を挟んで向かいのスペースは開場直後に二人とも出て行ってしまい、スペースの上には布が被せられていたのですが、スタッフさんがそのスペースの前でなにやらしきりにメモを取っていました。きっと、ダミーサークルかどうかをチェックしているのでしょう。他にも、開場直後にはスペースに必ず人を立たせておかないといけない(開場直後からスペースに人が居ないと言うのは、戻ってきた瞬間から販売行為が行われるとみなされ、時限販売扱いでルール違反になってしまいます)ので、それのチェックなのかも知れません。
一人というのは何かと暇ですけど、新刊が出来上がったばかりなのに、次の原稿を書くのも大変なので、10ページに及ぶペーパーという名のReSin-ens設定資料集を眺めながら、「音瀬可愛いよ、音瀬」と頭の中で呪文のごとく繰り返していきます。いや、本当に可愛いんだって、音瀬が。
さて、二人体勢に戻ってからは他愛もない会話をしながら西館に一般参加者が来るのを待ちます。話によると、西館と東館の物理的な温度は差は凄いらしく、東館から西館に来ると本当の意味で涼しいと感じるようです。
11時も半ばに差し掛かる手前、相変わらず西館はまったりムードなので、私も東館に買い物に行くことに。この買い物が、イベントが終わった後も謎に包まれたまま迷宮入りする事件に発展するとは、この時、誰が予想したでしょうか。
サークル参加と言うこともあり、今回は巫女・メイド列への絨毯爆撃は行わず、以前本を買ったサークルの続編を購入するにとどまりました。ひとまず財布と宝の地図、買った本を入れるポリ袋だけを持ってスペースを出発。ここまで軽装で会場内を歩けるというのも、サークル参加特権ですね。
多くの人がリュックやカートで少し窮屈そうに進む人混みの中を、私は体の面積だけを確保して進めばいいので随分と楽でした。
連絡通路を通っていざ東館へ。
確かに暑い………。
と言うより、ここにいる人の半分を西館に左遷してもいいぐらいの人混みでした。地図をチェックしながら最も近い入り口から東ホールへ。
更に暑い………。
思わず、ここが男性向け(18禁)じゃないことに安堵しました。あそこは本当の意味で、「人がゴミのようだ」ですから。
あまりにも暑いのでお目当てのサークルで本を買ったらすぐに退避。精神的余裕があれば後から東館に配置されている知り合いのサークルに挨拶回りでも…と思っていたのですが、この時点でそれを諦めました。
自分のスペースに戻ると、詩唄いから来客があったことを知らされます。どうやらその方はある方の代理で新刊をチェックしに来たようで、「三巻程度で完結する長編小説はありますか?」と言ったことを訪ねてきたようです。その後、留守番をしていた詩唄いとの何回かのやり取りの後、「それでは後で本人(私のこと)に確認してみますね」と言い、詩唄いが「一時間もあれば戻ってくると思います」と告げ、やり取りを終えたようです。
それが大体、11時40分頃のお話。
元々西館での買い物はもっと遅くにする予定だったので、後で確認すると言い残してスペースを立ち去った謎の人Xを待ちつつ、お昼ご飯をスペースの中で済ませます。
まったりペースだった西館にも午後になるとちらほら………というよりは、わらわらと人が集まり始めました。正直、その差に驚いたぐらいです。
創作文芸が三日目配置になったという知名度が低いのか、西2の半分近くが文芸スペースであることをご存じないと思われる方が沢山見受けられました。所々で発生する「小説か…」と、言いながら本を戻す人を見ながら、「ここは小説エリアなんだから当たり前なのになあ…」と思っていました。地元の即売会では見慣れた光景ですが、コミケでも見ることになるとは、と言う感じでした。
12時30分。謎の人Xさんは未だ訪れず、この辺りから希望風内に動揺が広がり始めます。詩唄いに当時の会話を詳しく再現してもらったり、自分の発行物や販売履歴を眺めながら、どんな人が訪ねてきたんだろうと想像を巡らせます。
イベントも後半戦になると、東館での買い物を済ませたと思われる方がさっきよりも大分増えてきました。もしかしたら、12時頃から西館に来ている人というのは、列が無くなった頃を見計らって西館目当ての人も大分含まれていたのかも知れません。この時間帯の人達はその前の時間帯の人に比べ、幾分、バックが膨らんでいるような気がします。
13時30分。謎の人Xさんは未だ訪れず。もしかして「後で本人に確認してみる」と言うのは、イベント会場でではなく、ウェブで、なのかもしれないなあ、と思うように。
おっと、ここに来て取り置き分の配布が終了。取り置きを申し込んだ方、どうも有り難う御座いました。
15時になるとサークルの撤退作業が始まるので、それを見越して14時頃から西館内での買い出しをスタート。こちらもスペースをゆっくり回る余裕がないので(と言うより、出来るだけ自分のスペースにいて読者の相手をしていたい)私の中で評価の定まっているサークルの本を重点的に購入。具体的な冊数は数えていませんけど、たぶん20冊ぐらいは買ったと思います。これだけ買っても4000円を超えていないはずなので、創作文芸の本の安さには驚かされます。それでいて小説だから24ページでも読むのに時間が掛かるという、二重のお得感。
途中、地元の即売会には参加していないけれども、同じ群馬県を拠点に活動している方のスペースに。去年の夏コミで買った本にたまたま住所が書いてあって、同じ街に住んでいることが分かり、「こんな身近に創作文芸の同人作家が!」と驚いたものですが、作品自体が好きだと言うこともあり、新刊を買いつつ少し自己紹介をしてきました。
会話の途中、「群馬県のどの辺りですか?」と訪ねられる場面があり、住んでいる町の名前を言うと「本当に同じですね」と、会話が盛り上がりました。これで同じ街に住んでいる創作文芸系同人作家が私を含めて三人になりました。
気になっているサークルの殆どが自分達のスペースの周りにあるので、あっという間に買い物は終了。スペースに戻って、謎の人Xについて訪ねると、やはりスペースには来ていないようです。
たぶん、故米澤さんの奥さんによるアナウンスで、コミケ72の全日程が終了。マンレポで噂通りの凄く言い声です。あまりの優しい声に、思わず心が和んでしまいます。
そして、謎の人Xさんは謎の人Xさんのままでした。ドラマで言う紫の薔薇の人って、こんな感じの不思議さなのでしょうか。
荷物を整理し、カートや鞄に残った本を詰め込み、「初めての同人誌即売会は設営で参加した」と言う謎の意地で少しばかり撤収作業を手伝い、開場を後にします。思わず後ろを振り返ったビッグサイトはあまりに大きく、来年もまた、サークル参加できればいいな、と気が付いたら祈ってしまいました。
あれほどまで、大井町で切符を買うときは往復の切符を買いなさいと言われているのにもかかわらず、駅の券売機は信じられないほどの列。Suicaを持っている私達はそんな人達を横目に見ながらすいすいと電車に乗り込みます。
去年よりは幾分楽かなと言う混雑状況の中、カートと鞄の体積が大きいことを頭の中で周りに謝りつつ、大井町まで。このまま大崎まで行って山手線でと思って居たのですが、意外に大井町で降りる人が少なかったので、急遽大井町で降りることに。
大井町のりんかい線改札を降りるとき、初めて「夏が終わったな」と言う安堵感に包まれました。帰るまでイベントだよ! ところで、この出口表示、つや消しブラックが格好いいですね。
途中の電車で多くの同志に別れを告げながらホテルに帰ってきました。プラスティックのケースに入っているとはいえ、カートに本を載せたままというのはあまりよろしくないのですぐさま荷を解きます。写真のダンボールに付いている内容物を示すラベルは行くときの物なのであてになりません。この時の中身は殆ど買ってきた同人誌だったと記憶しています。
ところでこのダンボール。見て分かるとおりソフマップのダンボールですが、B5サイズの同人誌が綺麗に収まる上に、高さも5センチと、沢山の種類の同人誌を少部数で搬入する私のような人間にとっては非常に使い勝手のいいダンボールだと言うことを今回のイベントで思い知りました。A4サイズのこのぐらいのダンボールも欲しいなあ。
秋葉原に行って少し街を見た後、去年もお世話になった某そば屋に移動して、夏コミの打ち上げ、ではなく、反省会を開きます。
席に座るなり「とりあえず、生ビール2本」と注文すると「今、大ジョッキがお得ですが如何しましょうか」と訪ねられました。しかし、長期の修羅場明けで酒を飲むと、あっという間によってしまうというのは去年の夏コミで体験したので、中ジョッキで。いや、あれは本当に凄いですよ。一杯目の酒を飲んでいる途中で、「酔ったかも…」と呟いてしまうほど、酔いが回るのが早いですから。ということで、マゾな皆さんは、10ヶ月に及ぶ修羅場を乗り切った後、お酒を一杯飲んでみてください。天国に行けます。いい意味で。
しかし、ここの蕎麦は本当に美味しい。十割蕎麦さまさまです。その割に値段もそれなりに安くて(二人で飲み食いしたのに1万円を割った)、店の雰囲気も結構好きなんです。いわゆる現代和風という感じですね。
二人でテーブルの上に並ぶ食べ物をつつきながら、今回のイベントの問題点を幾つも抽出。一つひとつに考察を加えながら、それを踏まえ今後どうやって活動していくべきかを、酒の席に似合わないぐらい真面目に話し合います。打ち上げではなく反省会としている辺りに今回のイベントの結果を伺えるかと思いますが、今年の夏コミというのは、色々と考えることが多くなってしまったイベントでした。
本来なら酔える美酒のはずなのに、真面目な話ばかりをしていたからか全く酔うことなく店を出ます。途中のコンビニで夜食を買い、ホテルに戻りました。
それぞれが買った物を飲み食いしながらやはりここでも反省会。さっきの店で出た行動方針を、どうやって具体的な形で実現していくか、と言うことを話し合いました。またそれに合わせて、それぞれが考えている次回作についての若干の話し合いもしました。
次回作はお互いに個人誌なので本来なら話し合いなんて言うのは必要ないのですが、お互いがどういう作品を書こうとしているのか、だとか、それぞれの構想に文句や感想を付けるために、割とこういった機会を多く取っているような気がします。
もちろん、話の核心には触れませんけど、大枠を伝えておくことによって、相手が大体どの時期に本を出すのか、だとか、来年のイベントでReSin-ensを含んだ作品がどのように展開されているかを分かっている範囲で具体的にすることは悪いことではないでしょう。
とまあ、こんな感じで、私達は通常半年、一年先ぐらいまで見込んで新刊の話をしています。物語や登場人物をしっかり練り込む必要がある、少なくとも私達はそう考えている創作というジャンルにおいて、降って湧いた話をそのまま完成まで持っていくというのは怖くて出来ません。多くの考察や、物語を綿密に考察すると言う行動を取るため、短編だとしても数ヶ月の時間を完成までに要します。となると、自然と同人活動の日程というのは、数ヶ月先という短い見方ではなく、半年、一年、またはそれ以上というスパンで見ざるを得なくなります。例えば、ReSin-ensは私の中では四年程度先まで見越して三巻、四巻について執筆スケジュールを考えています。
だからこそ、他の同人作家が「イベントに受かってから本の内容を考える」だとか、「新刊の構想は出来てないけど、来月までに本は出来上がるよ」と言った趣旨の発言をしているのを見ると、「凄いなあ」と思う一方で、「本当にそれで本が出来上がるの?」と、自分の尺度で推し量ってしまいます。
閑話休題。
新刊の構想に加え、参加する予定のイベントスケジュールや、今後のオンラインでの活動にある程度の方向性を見出したところで、私達の電池も残量がついにゼロになったようです。東京に宿泊した三泊四日の中で初めてシンデレラタイムになる前に二人仲良く就寝。これにて、私達の夏は終わりを告げたのです。
長い文章、最後までお読みいただき、どうも有り難う御座いました。
また、この場を借りて、夏コミの全ての参加者と、その中でもスペースに訪れて下さった方に、最大限の感謝を。どうもありがとうございました。またどこかでお会いできることを祈っております。