Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > 丘の上の物語 > 白川蓮 -第七章-
なんでここに蓮がいるんだ。
…なんか、声掛けづらいんですけど…
オレは、心を落ち着かせる。
動揺を隠せない。
悪い事をしているのを見られてしまったような嫌悪感がオレを襲っている。
まぁ、とりあえず…。
「よ、よぉ…。蓮」
慎重に言葉を選んで、蓮に話しかける。
オレが片手を上げたとき、
「しゅ…………」
なんだ!?
なんか周りの空気が、重く感じてきたぞ…。
周囲の空気…いや…気配…というものが大きく変化している。
これは…心理的に感じているのではないとオレは悟った。
明らかに物理的に変化している。
鼓膜の辺りに痛みを感じ始める。
これは…まずい!!!
「修の…」
蓮のかすかな声。
くっ!!間に合うか!!!
オレは蓮に向かって走り出した!
「修の、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
『ピキィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!』
いつもの蓮からは想像できないほどの声。
蓮になにかのエネルギーが集まり始める
「やばいっ!!」
オレは、とっさに踵を返すと、薫に覆い被さった。
『キィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーン!』
耳が張り裂けるような高周波。
何かが起きる気がしていた。
本能で何かを感じた。
周囲で何かがざわめく。
オレの背後で光が収束していく。
耳が聞こえなくなる。
回りが光で見えなくなる。
感覚が薄らいでくる。
光は明るさを増し、周囲のざわめきは大きくなる。
『シュパァァァァァァァァァン!!』
その瞬間に、蓮を中心になにかが弾けた。
刹那、オレ達を怒涛のような空気の流れが襲う。
「くっ!」
「きゃっ!!」
薫をかばっているオレの背中に、いろんなものが当たって来た。
その辺にあるもの全てが…。
これでもかっ、と言うほど当たった。
これじゃ痛いどころではない。
体のいたるところが悲鳴を上げる。
オレの体がもたない。
オレの意識が遠のきそうになり、限界を感じ始めたとき―――
やっと収まった。
オレは振り向いて、
「蓮っ!!やりすぎっ!」
この力の張本人の蓮に対して叫ぶ。
しかし―――
さきほどまで蓮がいたはずの場所には―――
誰もいなかった。
いや…何もなかった。
蓮がいた場所を中心に、隕石が振って来たのではないかと思うくらいに、その辺は根こそぎなくなっている。
本当に隕石が落ちてきた後のようだ。
クレーター…そう表現するのが相応しいきがする。
クレーターになっていない部分も激しいエネルギーと風の影響で樹が傾いている。
…あらためて蓮の凄さがわかった気がする。
オレは、そんな子に育てた覚えはないぞ。
ってそんなこと考えている場合じゃない!。
オレは、薫の方を振り返って、
「大丈夫か?どこも痛くないか?薫」
薫は首を振って、
「大丈夫だよ。しーくんがかばってくれたから」
オレは胸を撫で下ろして、
「よかった…それはそうと、蓮のやつ………派手にやったなぁ」
薫も周りを見て、
「そう………だね。それで、れーちゃんはどこにいるの?」
「わからん…」
オレはもう一度周りを見たが蓮の姿はどこにもなかった。
…どこいったんだ。
薫がオレの背中を引っ張って、
「探したほうがいいんじゃない?」
寂しそうな顔で言った。
「あぁ…そうだな。とりあえずこの公園にはいないみたいだし、オレ、一回、家に帰るわ」
そうてオレが公園から立ち去ろうとした、その時―――
「待って!!」
薫が立ち上がって、オレの胸に飛び込んできた。
そして―――
「しーくんは、れーちゃんのことが好き?」
公園は、虫の声が無く(これは、当たり前だが)、
ただ、風だけが、やさしく吹いていた。
さっきまでの事が嘘の様にいつも通りの時間が流れている。
「私…しーくん。ううん、修司君のことが好きなの…、子供の頃から、ずっと好きだったの。あのときの事、覚えてるかな…」
そう言って、薫はオレの背中辺りに手をまわしてきた。
そこには、…傷痕があった。
「…あぁ」
「あのときからかな…こんな気持ちになったのは、初恋なんだもん。大好きになっちゃったもん…。そう簡単に、忘れられないよ」
オレの胸で、薫が泣いていた。
オレだって、分かっていた。
薫の気持ち。
でも…。
「ねぇ、答えて…。どんな答えでも私、受け入れるから…」
薫の腕に力がこもって、
「私、ずるい女だね。れーちゃんがいないってときに、こんなこと聞いて…。でも、こんな時だからこそ、修司君に答えてほしいの」
オレは、上を向いた。
薫はオレのこと好きだと言ってくれた。
でも…。
オレは薫を体から放して、
「オレは、蓮が好き…だと思う。あいつがいないとオレ、なんか安心できないんだ
もちろん…薫の事も好きだけど…やっぱり………」
薫が、手をギュッと握った。
その手がわずかに震えている。
長い沈黙。
そして、薫はオレに背を向けて、
「うん、わかった。…私、れーちゃんだったら、あきらめられる」
薫はオレの方に振りかえる。
その時、輝く何かが空気中に舞った。
「私達………、ずっと友達………ううん、親友…だよね」
オレは親指を立てて、
「ああ」
「それじゃ、親友からの一言」
薫はもう、泣いてはいなかった。
「早くれーちゃんのとこに行って上げて、れーちゃん安心させて」
「おう」
そう言ってオレは薫に手を振って、公園の後にした。