丘の上の物語 -白川蓮ストーリー-

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白河蓮ストーリー 第六章

5月7日(金曜日)

その日の放課後。
オレは、薫に誘われて一緒に帰る事になった。
「うん、お母さんが、映画の券を二枚もらってきたんだ。それでね、しーくん、どうかなぁ」
「映画か…」
映画なんて、何年ぶりだろうな…。
「まあ、それはいいが、何の映画なんだ?」
ラブストーリーものは、さすがに勘弁だなぁ。
オレの考えが分かったのか、
「映画は向こうで選べるから、しーくんの好きな映画見ようよ」
俺の好きな映画か…。
最近はどんなものをやってるのか、まったく知らないからな…。
あとで、蓮にでもきいてみるか。
「わかった。それで、いつにするんだ?」
「うん。明日の放課後はどうかな?しーくん、大丈夫?」
「ああ。しかし、時間が問題だな…。どの映画を見るのか決めないと」
「うん、そうだね」
う~ん…。
「まぁ、何の映画を見るかは、オレのほうで決めとくよ。楽しみにしとけ」
「うん。楽しみだよ」
「それじゃな」
「うんそれじゃ」

その夜
明日は、薫と映画を見に行くのか…。
しかし、どの映画を見たもんか…。
「ねぇ?」
そんなオレに、興味深そうに蓮が声を掛けて来た。
「なに考えてるの?」
「いや、なに、今、注目の映画って、蓮はなにか知ってるか?」
「今、注目の映画?」
「ああ。学園でそんな話、全くしないからな」
蓮が人差し指を口に当て、
「う~~~~~ん…」
考え込む蓮。
そして、
「あっ!!そういえば、こんなのはどうかな。『どら○モン』」
『ズガッ!!』
一応突っ込みを入れておく。
「にゃにゅ」
「それは、某アニメだろうが…。ほかには?」
うるうると半分涙目になりながら蓮はまた何か思いついたようだ。
「それなら、こんなのはどうかな!『極上の男たち』は?」
「『極上の男たち』?あきらさまに極道系なんだが…、それでどんな内容なんだ?」
「うん、知らない」
はぁ!?
「しらないって…」
蓮が肩をすくめて、
「だってみんな内容話してくれないんだ、人気があるのに」
「そうなのか」
「うん。映画見たいんなら、朝早く行かないと、座れないかも知んないよ?」
オレは意外な顔をして、
「そんなに混んでるのか」
「うん。友達は立ち見で観たって言ってたから」
「そんな混むのか…」
「うん、そうみたい。…それはそうとなんで映画の話なんてしたの?」
うぐっ!
痛いとこ付くな蓮。
オレは頭を掻きながら、
「あのな、薫が…そう!薫がどんな映画が人気あるのか聞いてきたからな。あいつも結構こーいうのにうといからな、だからさ」
「ふ~ん…そっか」
「あぁ、そいうことだ。じゃ、オレは寝るから、おやすみ」
「うん、おやすみ」

オレはそそくさとと部屋に入っていった。
しかし…なんでオレ、蓮にあんな嘘いったんだろう。
素直に「薫に誘われた」って言えばよかったのに…。
う~ん、なんか変な気持ちだ。
…こ~ゆ~ときは、寝るのが一番、お休み。

 

5月8日 (土曜日)

放課後
サッ、サッ、サッ…。
「結構、ゴミがあるよね」
「…そーだな」
オレと蓮は今、教室の掃除をしてるんだが…。
「なんで、オレ達しかいないんだ」
蓮は苦笑しながら、
「だって、それはジャンケンに負けたからだし」
俺は肩をがっくり落とし、
「そ~なんだよなぁ。…ついてないな、今日」
「そんな、文句ばっか言ってないで、早く終わらせよ」
…そ~だな。

30分後
「なんでこんなに時間がかかったんだ?」
「それは、修がサボったりしてたからだよ」
…そ~なんですけどね。
オレは時計を見て、
「まだ12時半か。余裕だな」
オレの言葉に蓮は時計を見て、
「何言ってるの修。12時55分だよ」

「なにっ!!!時計の電池がきれたのか!?」
俺は急いで鞄を持った。
「修、このあとひまだったら…」
「それじゃな。蓮!!」
「あっ…」
薫との待ち合わせ時間が1時。ここから待ち合わせの場所までは、カール・ルイスでもないかぎり、走って15分はかかる。
完全に遅刻だ。
どうしてこんな日に限って、掃除なんかしなきゃいけないんだ…。
オレは一段飛ばしで階段を降り、靴を履き替え昇降口を出る。
商店街の前の駅前に着き、息を切らして、周りを見た。
しかし、薫らしき人物は駅前にいなかった。
おこって帰ったのか…。
…薫に限って、それはないはず…たぶん。
と、オレは、ベンチに腰掛けてる女の子に気が付いた。
かお…る?
その女の子も、こっちを観て。
「し~くん」
嬉しそうにベンチから腰を上げた。
「薫か?」
「うん、そだよ」
「いつの間に、髪変えたんだ」
いつもは、髪を流してるのに。
結んでいるし。
…なにか悪いモンでも飲んだか。
「うん。ちょっとね…」
そういって薫は、頬を赤らめて、結ったかみに触れて。
「…変?」
「いや。似合ってるよ」
ていうーか似合いすぎ、激萌えだ。
「へへ~」
薫は、うつむいて笑った。
「って、そうだ!遅れてごめんっ!。学校の掃除がなかなか終わらなくてな」
「そんなことないよ。周りの風景とか見てるの楽しかったし」
「そうか」
「うん」
へへ~と笑う薫だった。
そこがまた、かわいすぎ…。
「それじゃ、いくか!」
オレは照れ隠しに、商店街の方を見た。
「レッツゴ~ゴ~」

こうして、薫とのデート?が始まった。
映画館は、駅の近くにある。
土曜日の午後と言うこともあって、なかなか人でいっぱいだ。
もちろん、映画館も人で、いっぱいいっぱいなのだ。
「…すごいな」
「そ~だね」
何の映画に並んでいるのかは、…観なくてもわかるか。
なんでこんなに人気があるんだ。
世の中わからねぇ。
これじゃ、座れるかどうか心配だ。
「ならぼうか」
「ゴ~ゴ~」
オレのあとに付いて来る薫。
なんとなく、今日の薫は学校と雰囲気が違う…というかいつもと違う…。
オレと薫は、並んだのだった。
映画館内は、混みまくっていたが、オレ達はなんとか隣同士の席を確保できた。
まぁ…多少強引だったがな。
俺たちが座ってすぐ映画がはじまった。
…いや、これは始まったというのか。
なんつ~か…説明できん。
途中薫の顔を見たが、
『はにゅ~ん』
って感じで見てた。
『はにゅーん』がどんな感じかは説明できない。
とにかくそんな感じだ。
………。
「泣けたよ~~!!」
「…そうか?」
うるうる涙目の薫がいった。
夕方、オレ達は映画館から出た。
時間は5時少し前。
始まった時間が2時だから…さ、3時間!!?
…あんな映画で3時間、それでも時間を忘れられる内容、おそるべし『極上の男たち~本マグロの復讐~』
「よかったねぇ~。とくに最後の主人公が…」
「まてぇい!!」
「はぇ」
不思議な顔をする薫。
「それ以上、何も話すな。知ってるだろ?誰にも内容は教えていけないって」
「う、うん」
…それにしても、薫のやつ、あんな極道!!?映画で感動するなんて。
ちょっち以外。
「さて、小腹が減ってきたし、なんか食べるか?」
「そ~だね」
「なんか食べたいものでもあるか?」
「なんだっていいよ」
にこにこ薫。
「そ~だな」
オレたちは、ぶらぶらと商店街を歩いていると。
「し~~~~~くんっ!!!」
突然の、薫の声。
「なんだ?」
「あれだよっ!!」
薫の指差した先。
そこを見ると…。
『蕎麦』と書かれた看板が大きく出ている店があった。
…なぜ蕎麦が売ってるんだ、しかも持ち帰り可能な。
「蕎麦だよっ!!月見だよっ!!!」
キラキラ目を輝かせる薫。いや、蕎麦はいいんだが、月見って…。
「天ぷら~~~~っ!!!」
グッと拳を握り締めて叫ぶ薫。
なんでそんなに気合はいってるんすか…。
しかも、そこから技が出てきそうなぐらい…。
「しーくん、ゲッチュ~だよっ!!(はぁと」
ゲッチュ~って、あんた。

夕方の公園
『ずるずる…』
「おまえ、そんなに食うのか…」
公園のベンチに座っている俺達。
そしてオレの隣で、天ぷら蕎麦(大盛り)を食っている薫。
さっきから蕎麦を食べる二人の音が公園内に響く。
はっきり言ってムードのかけらも無い。
「おまえ、太るぞ…」
「お蕎麦は、別腹だよっ」
そういって、ズルズルと蕎麦を食べていく薫。
別腹でも同じ腹の中だと思ったが、突っ込まないでおく。
「これぞ、日本の味って感じだよね」
つゆをすすりながら言う薫。
しかし、薫がこれほど、蕎麦が好きだなんて…。
「はいっ」
薫がオレに、海老天を差し出してきた。
「しーくん。美味しいから食べてみて」
嬉しそうな顔をして言う薫。
オレの目の前には、薫の海老天…。
…これ、食べなきゃいけないんだよなぁ。
辺りの見るオレ。
誰もいないよな。
こんなとこ誰かに見られたら、たまったもんじゃないからな…。
特に蓮とか…。
オレは薫の顔をなるべく見ないようにして、海老天をぱくりとくわえた。
「どう?」
にこにこ薫。
「…うまい」
海老天を口の中でモゴモゴさせながら、顔を赤くさせて言うオレだった。
たしかに美味しい海老天だった。
オレの月見蕎麦も美味しいが、海老天の味も絶品だった。

やがて、蕎麦も食べ終わり、オレ達はなにもすることもなく、夕日を眺めていた。
「綺麗だね、しーくん」
つぶやくように言う薫。
オレも夕日を見ながら、
「…そーだな」
…ほんときれいだな。

……
………
「あの…」
「なぁ…」
オレと薫の声が重なる。
「なんだよ、薫」
「しーくんこそ、なに?」
…なんかぁ。
「薫から言えよ」
「うん…あのね、しーくん…」

オレの方を見る薫。
つられて見るオレ。
…こーしてみると、かわいいよなぁ。
幼かった頃の顔はほとんど思い浮かばないけど、あの時から比べればだいぶ変わった気がする。
かおる・・・かぁ。
薫は頬を染めていた。
いや、オレの間違いかな。
薫の顔を夕日が彩っているだけかもしれない。
…微妙~………わからない…。
緊張感ないな、オレ。
そう思いながら薫の顔を見ていると、
薫が目を閉じた。
これってキス!?
…やべ、ドキドキしてきた。
ここで引いたら、男じゃない…か。
でも、オレは薫のことが好きなんだろうか…。
たしかに薫は可愛いと思う。
しかし、それは………。
ええい!考えたって仕方がないじゃないか。
ここはやるしかない。
オレが薫の希望に答えようと思ったその時―――
『ガシャン!!』
公園内に響く大きな音。
オレ達は驚いて音の鳴った方を振り向いた。
そこにいたのは―――

蓮!!?

初出: 2002年6月2日
更新: 2005年8月20日
企画: 二重影
原作: 二重影
著作: 二重影
制作: 鈴響 雪冬
Copyright © 2002-2005 Nijyue

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