Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > 丘の上の物語 > 白川蓮 -第五章-
5月6日 木曜日
「ふぁぁ~」
オレはベッドから起き上がる。
時間は既に昼を回りそうになっていた。
「まぁ…昨日も結構大変だったし」
独り言をつぶやくと勝手に結論を出す。
心配していた筋肉痛もほとんど残っていない。
「筋肉痛が2日後とかに出たら…いやだよなぁ~」
また訳のわからない独り言を言ってしまった。
居間に行く
「おはよ~」
蓮の元気のいい声。
いつものやり取り。
いつもと変わらない休日のすごし方。
三連休の最後の日…いつもより浮かれている蓮を見ながら昼間を過ごす。
その夜、オレと蓮はいつものメンバーを誘って、みんなで花見に出かけた。
昨日見つけた公園…。
相変わらず人は誰もいないが、一面に広がる桜の花。
人が沢山いるのも楽しいと思うが、オレ達にはこっちの方があってるとおもう。
そして、沢山…というか5、6個の電灯がサクラを照らし、蒼い夜空にきれいなピンクを浮かび上がらせていた。
昨日の雨に負けず、サクラは満開だった。
「修司、よくこんな場所見つけられたよね」
晶がビニールシートを持ちながら言った。
オレは腰に手を当てて、
「まぁ、とーぜんだ」
と胸を張って言う。
蓮が横で、
「偶然だけどね」
と間髪いれずに突っ込む。
「なーんだ、やっぱり」
蓮、ひどい…。
こんなやり取りがオレ達らしくて楽しいと思える。
蓮のさっきの突っ込みでオレが落ち込んでると、薫が肩を叩いたのでそっちを向くと…
指があった。
ぷにっ。
…
ほっぺに薫の指があたる。
「わーい、しーくん、ひっかかった、ひっかかった」
「…泣いてやる」
オレが公園の隅の木の影でうずくまっていると…、
「修~、準備できたよー!!」
という蓮の声。
「おぅ!!」
オレはすぐに蓮達のいる場所へと向かう。
「修、立ち直り早いね」
「と~ぜん」
そんなこんなで、お花見が始まった。
オレは、ビニールシートに座って蓮に定番とも言える一言を発する。
「早速弁当だ」
蓮は『はいはい…』と言いながら、弁当箱を取り出しふたを開けた。
「おぉ~~~!!」
歓声を上げる晶。
オレ達の前の広げられた、2つの大きなお弁当。
その中身はどれも、とても豪華なものだった。
それを見て、オレも驚いてしまう。
「へへっ、こっちは僕のお弁当だよ」
嬉しそうに言う蓮。
そこには、あの蓮が作ったものとは思えないほど、きちんと作りこまれたおかずが広がっていた。
いつもの夕食からは到底想像が出来ない物ばかりだ。
「これ本当に、お前が作ったのか…」
オレは蓮の方を向いて恐る恐る聞いてみる。
「うん!!」
まぁ、当然だよな…。
嬉しそうに言う蓮。
何度も思ってしまうが、今までの蓮からは想像が出来ないできないほど、おいしそうなお弁当だった。
「そっちもおいしそうだね」
晶が薫の方を見ながら言う。
それは、薫が用意したお弁当だった。
薫はとても料理が上手いらしく、蓮の弁当に負けないくらい手の込んだ豪華なものだった。
「ありがとー!」
満面の笑みで応える薫。
しかし、こうして2つも豪華なお弁当が並ぶと、なんだか凄いもんがあるな…。
グゥ。
オレの腹の虫がなった。
「あっ、修のお腹がグゥッて鳴った」
ズゲシッ!!
物理的突っ込みを一応蓮にいれておく。
「あうっ」
「わざわざ、言わんでいい。わざわざ…」
それを見て、一同に笑うみんな。
「それじゃ、たべよー」
「うん、そうだね」
「おう」
「うん」
薫の言葉とともに、オレ達は一斉に、2つの弁当箱に手をつけたのだった。
蓮と薫が弁当、オレと晶は食べる専門…って感じか…。
「このアスパラのベーコン巻き、おいしいな~」
「おりがと、あーくん」
「しかし、蓮の肉じゃがも、凄く美味しいぞ」
「本当?修」
「ああ。今までからは考えられない上達ぶりだな」
「うん、ありがとう」
「それにしても、薫も料理がうまいな」
オレは薫の弁当に手をつけながら言う。
「本当だよ~」
蓮も賛同する。
「そうでもないよ」
と謙遜しつつ皆と楽しんでいる薫。
「蓮もこんなに料理が上手だったとな」
「ありがとう♪」
薫の満面の笑みに負けないぐらいの笑顔で答える蓮。
そんなことを言いながらオレ達は弁当を食べた。
それから30分後。
オレと蓮は晶達と離れた所で2人並んでいる…。
側にはサクラの木。
サクラは空に静かに、そして、美しく舞っている。
それは、幻想的な光景だった。
蓮は、そんな光景に見とれていた。
「満開だね」
蓮はサクラの木を見あげながら言った。
「そうだな」
「…来てよかった」
つぶやくように、蓮がいった。
「……」
なんだろう…。
そんな蓮を見ていると、なんだか少し、胸の辺りが熱くなった。
一面に広がるサクラの花。
風になびく髪を軽く押さえ、目を細める蓮。
オレはゆっくりと、蓮に近づいた。
手を伸ばし、そっと髪に触れる。
「…修?」
呼ばれた瞬間、はっと我に帰る。
なにやってんだオレ。
「どうかしたの?」
微笑みながら蓮が聴いた。
「あ…。いや、髪に花びらがついてたんだ」
「え」
オレは蓮の頭を払ってやった。
「とれた」
「あっ、ありがとぉ」
目の前に蓮の顔がある。
「…」
「どうしたの?」
「なにがだ」
「なんだか………、ちょっと変な感じ」
「…気のせいだろ」
オレはコホンと咳払いをした。
「来年も…また、来ようね」
微笑む蓮。
オレは、
「そうだな…」
と、頷いて返事した。
頭で両手を組んで、サクラを見る蓮。
なんだかオレの知っている蓮じゃないような気がした。
「きれい…だな」
ぼそりとつぶやくと、
「――え?」
蓮がこっちを振り向いた。
珍しく恥ずかしい言葉を言ってしまった気がする…。
「なに、修?よく聞こえなかった」
「なんでもない。 それより、そろそろみんなのとこに帰るか」
…
……
………
こうして、俺たちの花見は終わった。