Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > 丘の上の物語 > 白川蓮 -第三章-
4月31日 土曜日
なんとなく、早めに目が覚めた。
昨日早めに寝たのが良い感じだ。
オレは、着替えをして、下に降りてった。
階段を降りていくと蓮が朝ご飯の準備をしているのだろう、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「ふぅ~っ、カスタードクリームコロッケじゃあないみたいだな。
居間に行くと、蓮が朝食の準備をしていた。
蓮が、オレに気づいて、
「修、今日は早かったね」
「じゃぁ、もう少し寝る」
そう言うとオレは自分の部屋へ戻っていった
制服のまま横になる。
…
……
………
「修~時間だよ」
蓮の呼ぶ声にオレは目覚め、朝食をとり学校へ向かった
…
……
………
相変わらずの退屈な授業が進んでいく。
―――キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン―――
ふぁ~、やっと終わった。
おっ、そういや今日は午前授業か。
晶でも誘って、どっか遊びに行くかな。
「おーい、晶」
オレの声に気がついて、晶がこっちに来た。
「なに?修司」
「なぁ、今日暇か?」
「う~ん、まぁ今日は部活も珍しくないしいいか」
「おっ、ナイスタイミング。だったら、これからゲーセンいこうぜ?」
「いいよ」
「よし、そうこなくちゃ」
オレは、晶の肩を叩いた。
「蓮ちゃんや薫ちゃんも誘おうか?」
晶がオレに提案してきた。
「…そうだな」
「じゃあ、声かけてくるよ」
「おい、薫はオレの隣だぜ?」
「えっ、いないよ~」
オレは隣を見た。
確かにいない。
教室を見渡すと真中のあたりに薫はいた。
あそこは蓮の席か…。
しかし、なじむのが早いな~。
まぁ、幼馴染だし、蓮と友達というのもあるんだろう。
というわけで、その日は久しぶりにみんなでぶらつくことになった。
坂道を下り、ゲーセンにやってきた。
さ~て、今日はどれからやろうかな。
「修、提案がありま~す」
蓮がいきなりそんな声をあげた。
「ん?なんだ提案って」
「全員参加のバトルをしない?」
「う~ん、まあいいんだが、晶はともかく薫はやるのか?」
オレは薫の方を向いた。
「しーくんがやるんだったら、いいよ」
オレがやるんだったらいいんかい。
「それじゃ、決まりだね」
オレは辺りを見ながら、
「しかし、なにをやるんだ」
蓮が指を指して、
「もちろん、DDRだよ」
薫がオレの背中を突っついて、
「ねぇ、DDRってなに?」
なに!?こいつはDDRもしらないのか。
「DDRってのはな…まあ、とりあえず見てろ」
「うん」
そうしてオレがDDRの台に近づいてお金を入れようとしたとき、突然蓮がいった。
「一番点数が低い人が、みんなにジュースおごることね」
「ええ~」
それまで黙っていた晶がそんな声を上げた。
「あったりまえだよ、これがないとみんなでやる意味な~し」
「まあ、いいけどね」
ということで、さっそくオレ達はDDRをやることになった。
先にオレが見本を見せると薫が「わかった」といった
順番は、最初は蓮、次にオレ、その次に晶、最後に薫になった。
…
……
………
「悪いね、修」
「運がわるかったね、修司」
「ごめんね、しーくん」
そ、そんなばかな。
蓮や晶ならともかく、始めてやる薫にまでやられるんなんて…。
蓮はもともとこういうの得意だし…晶も運動神経はかなりある…。
しかし薫にまで負けてしまった………。
しかも、しかも圧倒的に…
無茶苦茶プライド傷ついた。
この屈辱、忘れん!!
結局3人分のジュースをおごる羽目になった…。
「はぁ~」
「修は飲まないの?」
蓮がジュースを片手に聞いてきた。
「オレ…貧乏だから…」
「わるいね」
晶~そう言うなら援助を…
結局ゲームの金と予想外のジュース3人分の出費が出た。
その日の夜、三国志を読んだ。
「うし、今日はどこまで読もうかな~」
ベッドの近くに積み重ねてあった三国志を取り出す。
「今日は良いところなんだよな~。赤壁の戦い…はたしてどうなるのか…」
…
……
………
気がついたらかなり時間が経っていた。
まぁ、明日は休みだからいいか。
オレは本を置くと電気を消した。
5月1日 日曜日
う~、せっかくの休日だ。
ゆっくり寝かせてくれ…。
結局その日は昼過ぎに起きた。
着替えをして、下に行ってみると蓮が、
「う~ん」
唸っていた。
オレは、蓮に近づいてみると、
「う~ん…たぁっ!」
蓮の目の前にあるせんべえが空中に舞ったかと思うと、なんと二つに割れた。
「お~」
ぱちぱちぱち…
オレはおもわず拍手をした。
蓮は拍手に気がついたのか、こっちを振り向いた。
「修、いつからいたの?」
いままで、気がつかなかったらしい。
「せんべいが空中に舞ったときから」
「そっか」
蓮がうなずいた。
「それにしても、気がつかなかったのか」
「うん、力を使う時って集中力が必要だからね」
「ふ~ん」
しかし、あの時の包丁は集中してたようには見えなかったな…。
感情が関わると人間の能力は通常出せる能力を超えると言うからな…。
それにしても…
オレは割れた煎餅を手にとって見た。
「すごいな、おまえのその力は」
蓮は照れる様子もなく。
「そーかな…」
「あぁ」
「ぼくはそう思わないけどね…」
「え?」
オレは、おもわず蓮の顔を見た。
蓮は暗い影を顔に浮かべていたが、すぐにいつもの顔に戻ると、
「それに、こうやってときどき使わないと力がたまって暴走するしね」
と笑顔でいった。
「…そうか」
突然蓮が立ち上がって、
「さて、掃除しなきゃいけなかったんだ。修、手伝ってね」
「おう」
それからオレ達は、家の掃除をした。
ふう…けっこう汚れてたな。
自分の部屋の片づけをはじめる。
はぁ~昨日読んだ三国志は本棚に戻しておこう。
さすがに六十巻あるとかなりの量だな
掃除も終わったその日の夜、オレは昼間のことについて考えた。
『ぼくはそうおもわないけどね…』
あの時蓮が見せたくらい顔。
あまりに一瞬だったが明らかにいつもと違った…。
蓮のやつ、まだ力のこと気にしてたのか。
そこまで気にすることかよ。
それに、オレはあの力けっこう好きなんでけどな…。
べ、べつにだからって、蓮のことスキってことないぞ…たぶん。
オレは1人でうなったり赤くなったりしていた。
人に見られてたらかなり笑える光景だ。
…ったく、また夜更かししちまった。
あした蓮に起こされそうだな。
5月2日(月曜日)
もう朝かよ。
かろうじて蓮が来る前に起きた。
「さて蓮が来ないうちに、起きるか」
オレは着替えをして、下におりてった。
「おはよう、修」
「おう」
「眠そうだね」
「…まあな」
オレの頭を見て蓮が、
「修、寝癖がついてるよ」
「あっ?」
どれどれ…。
オレは洗面所に行って、鏡を覗き込んだ。
「…あった。…うわ、こりゃひどいな」
見た感じ、派手に跳ね上がっていた。
蓮が後ろから、
「直りそう?」
「…無理っぽい」
「…」
「…」
二人して洗面所で考え込んでると、
蓮が、
「そうだ、いい案があるよ」
とニコニコしながら言った。
「ほぅ、どーすんだ?」
「ちょっと、まってて」
そういって、蓮はオレの頭に手を当てた。
「う~ん…」
なんだか頭があったかい気がする。
「…」
「…はい、おわり」
「お~」
寝癖が直っていた。
「すっげー技持ってんな。どこで得たんだ」
「ううん、今思いついたんだ」
オレは実験台だったんですか…
まぁ、とりあえず寝癖が直ったしいいか。
放課後。
まるで眠りから目覚めたように、学校中がにぎやかになる。
もっともオレは本当に寝ていたが…。
その中で、オレは鞄を手にとった。
「修」
「よう」
階段を降りていくと1階のほうから蓮がやってきた。
ちょうど帰るとこらしい。
「いっしょに帰るか」
「ほんと?じゃ、ちょっと待ってて」
そう言うと蓮は今来た廊下を戻り、教室に入っていった。
しばらくして、また戻ってくる。
「おまたせー」
「なにしてたんだ?」
「友達に、バイバーイって」
「あ、そう」
ということで、蓮と帰ることになった。
二人並んで坂道を歩く。
行きも帰りもいっしょ。
だから会話も少なくなる。
話す事があれば話すし、なければしゃべらない。
それだけだ。
だからと言って、気まずくなる関係でもない。
「ねえ、修」
「なんだ?」
「最近なんか、おもしろい本ない?」
歩きながら蓮が聞いてきた。
オレは少し考えると…
「三国志だな」
蓮がため息をついて、
「やっぱり…」
「で、なんで本なんか急に読んでみたくなったんだ?」
蓮がうつむきながら、
「きょう、加奈がね面白い本があったら貸してって言われたんだ」
「ほぅ、そんで」
「それでね、ぼく、運動ばっかりして本なんてあまり読まないからさ。修ならなにか面白い本、読んでるかなぁって」
「そうだなぁ…推理小説ならあるけど、貸すか?」
蓮がこっちを向いて、
「どんなの?」
とさっきより期待を込めて聞いてくる。
「たしか、本の厚さが凄くてな、どのページも字がびっしりで、幅が3センチもあるやつ」、
「それ、おもしろいの?」
オレは首を横に振って、
「オレ、読んだことないし」
「じゃぁ何で持ってるの?」
「親父の忘れもん」
「あっ、なるほど~」
「どうする?」
蓮は少し悩んで、
「いいや」
「ふむ、そうか」
「加奈が読みそうじゃないもん」
う~む、本棚が開くとおもったのにな。
あの本のせいで一部の本がは入らないんだ。
昨日掃除してもまだ入らない本があるし…。
夜。
隣の家から夫婦喧嘩が聞こえてくる。
まぁ、あそこは喧嘩するほど仲がいい、
の典型的な夫婦だから心配ないが、少しは近所迷惑も考えてほしいものだ。
「喧嘩するほど仲がいい…か」
そこまで考えるとオレは眠りにつくことにした。
まだ1週間は始まったばかりだ。