Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > 丘の上の物語 > 白川蓮 -第二章-
オレは、先生の話なんてぜんぜん聞いていなかった。
聞いていられなかった…。
「薫…か」
オレは、その名前を言ってみた。
なんだろう…懐かしいような、懐かしくないような変な気持ちだ。
まぁ、懐かしいのが当然だと思うのだが…。
「よし、それじゃ一之瀬の席なんだが…」
意識の遠くで先生の声が聞こえる
「…よし。そこで窓を見てぼーっとしてる白河の隣だ」
そっか、オレの隣か………。
…なんですとー!
まぁ、この教室で開いている席は俺の隣しかないし…。
なにしろ昨日までこんな席は無かったはずだ。
薫がオレの隣に来た。
「よろしく」
「あ、ああ…」
オレはなるべく無反応に答えた。
「それじゃ、これでホームルームは終わりだ」
先生が教室を出て行く。
それが合図のようにクラスのみんなが薫のほうによってきて、質問をしていた。
うーむ、転入生の宿命ってヤツかな。
そんなことを考えていると、蓮と晶がこっちにやってきた。
晶が、にこにこしながらオレに―――
「どう、修司。びっくりした?」
「ああ、びっくりだ」
オレは当然と言える回答を晶にした。
蓮も驚いたらしく…。
「ぼくも、驚いたよ。まさか転入生が薫さんだったなんて」
「どうする、修司。会いに行く?」
「会う…」
会ったほうがいいと思う。
それに…。
オレ達は、薫の方へ行った。
ま、はっきり言えば隣が薫の席なんだが…。
始めに、晶から声をかけた。
「久しぶり~、薫ちゃん」
「…?」
薫のほうは、わけがわからない顔をしていた。
う~む、誰だっていきなりちゃんづけで呼ばれるとわけわからんだろう。
蓮がフォローして…
「久しぶりだね。わかんないかな、蓮だよ。ほら、昔近所にすんでいた―――」
そこで、薫の顔が変わって
「あっ、れーちゃん??れーちゃんなの?」
蓮がうなずいて。
「うん、そーだよ」
「じゃぁ、さっきの、あーくんだったんだね」
薫が晶の方を見て言った。
晶が笑って。
「あははは…やっと気がついてくれたね」
「ということは…」
薫がオレの方を見て。
「…しーくん?」
「…ああ、ひさしぶりだな。薫」
オレは、片手を上げて返事をした。
「蓮ちゃん?知り合い」
人だかりの中にいた加奈が、蓮に当たり前と言える質問をした
「うん。 小学校…もっと前かな…そのあたりからずっと知り合いだったよ」
「そうだね~。 こうして四人が再会するなんてすごいよ」
晶もその質問に答えている
しかし、いまだに「しーくん」って呼ばれるとは思ってもいなかったな…。
するとオレの思考を遮ることが起きた。
「会いたかったよ、しーくん!!」
と、言いながらオレに抱きついてきた。
「ぐはっ!?」
突然の行動で、オレは反応しきれなかった。
「しーくんっ!」
薫が、オレの体を締め付けていく。
周りにいるやつらも反応に困っている。
「がはぁっ!!」
薫、締めすぎだ。
とゆーか、こいつにこんな力があったなんて…
オレは蓮に助けを求めるような視線を送ったが、
なぜか、蓮は怒ったような顔をしていて、オレと目を合わせると。
「よかったね、修」
ち、ちがう、ちがうんだ。蓮!!
しょうがない、晶を頼るしかないか。
オレは晶の方を見ると。
…ニコニコしていた。
だめだ、こいつに助けてもらおうとしたオレが馬鹿だった。
こんなのんびりなやつにはオレの状態がわかるわけはないか…
こうしている間にも、薫がオレを締め上げていく………
や、やばい。い、意識が…
ちょうどそのとき、チャイムが鳴ってくれた。
チャイムが聞こえたのか、薫がやっと離してくれた。
ふぅ~、死ぬかと思った。
薫の方を見るとなんだか名残惜しそうだったが、あえて無視しておこう。
さて、これから1時間目、クラスのみんなはお勉強だ。
だが、オレはお休みの時間だ。
そんじゃ、おやすみ~。
ぐう…
…
……
………
――― ゆらゆら ―――
だれだよ。
「しーくん、ねぇしーくん」
この言い方は、確か…。
オレは、仕方が無く顔を上げて。
「なんだよ、薫…」
「あのさ、教科書見せて」
「なぜ?」
あまりにも単純過ぎる質問だったらしく薫はあきれながら言った。
「こっちの学校の教科書、明日届くんだよね」
ふむ、なるほどそーゆーことか。
オレは、机の上の教科書を出して。
「貸してやる」
薫は驚いた顔をして聞いてきた
「しーくんは、必要ないの?」
まぁ、当然驚くだろう。
だがオレにとってはいつものことだ。
「オレは寝るから」
「えー、何で寝るの?」
驚いたようにさらに問い掛けてくる。
「眠いから」
「寝ちゃだめだよ、と言う事で、授業を真面目にうけなさい」
「はぁ~!?」
「…だめ?」
薫が目をうるうるさせて聞いてくる。
やめてくれ、オレをそんな目で見るな!!
「はぁ…分かったよ。みりゃいいんだろ、みりゃ」
オレは半ば開き直りながら言った。
そうすると、薫の態度が急変した。
「それでこそ学生さんだね」
と言うことでオレは結局1日いっぱい起きていなきゃいけなかった。
あ~ぁ、寝ておけばよかった…。
まぁ、後悔先に立たずっていうしな…
――― キーンコーンカーンコーン ―――
ふぅ、ようやく長い授業が終わった。
生徒たちも帰り始め、まばらになっていく。
きょうも1日終わったか。
オレは教室を出るなり、大きなあくびをした。
と、そこで、トントンと誰かに肩を叩かれる感覚。
振り向くと―――
「修」
蓮がいた。
「なんだ、蓮か」
「一緒に帰らない?」
蓮と一緒にか。
まぁ、同じ家なんだしな。
むしろ、部活に入ってない二人が同じ家で別々に帰るのはちょっとおかしいか…。
そう考えると一緒に帰るのが当たり前だよな。
「いいぜ」
オレはうなずいていった。
「うん、それじゃ」
蓮は嬉しそうに微笑んだ。
オレと蓮は並んで歩く。
春の風が吹きぬけ空気を新しいものに変えていく
全ては、新しく入れ替わる。
心も…。
桜のつぼみもだいぶ増えもうすぐそこら中はピンクに染まるだろう
オレ達の人より、少し速いペース。
たしか小さい頃はそうじゃなかった。
ずんずん歩くオレに、必死になって追っかけてきたもんだ。
いつごろだろう、蓮がオレに追いついてきたのは…。
そんな考えを遮るように蓮がオレに話しかける
「それにしても、今日はびっくりしたよ。転校生が薫さんだったなんて」
「あぁ、たしかにびっくりした」
「ねぇ、修…薫さんに会って、うれしい?」
うれしい…か。
実際どうなんだろう、たしかに薫に会えたのは嬉しいと思う。
でも、なんて言うんだろう…う~ん…
オレは散々悩んだあげく、
「わからん!!」
と叫んだ。
蓮があきれた顔をして。
「はぁ~わからんって、修~」
「わからんものはわからん」
「でも、しゅ―――」
「あー!この話は終わりだ、お・わ・り!!」
蓮がなにかふに落ちないのか不満な顔をして。
「は~い」
と返事をした。
まったく、なんでこんなに蓮は薫のことを、気にしてるんだ。
う~む…
などと考えながら家に帰ってきた。
――― カチャ ―――
いつものように家のドアを開ける
「ただいま~」
オレは先に玄関に入ると第一声を発した
と言ったってだれもいないんだよな…
「はぁ~メイドでも雇うかな」
「はぁ~!?そんなお金どこにあるの」
ごもっとも…です…
時間は流れ、夜になった。
あたりはすっかり暗くなり、夕ご飯を食べ終わって自分の部屋に行く。
それにしても蓮のやつ…
「もう少し料理、うまくなれー!!」
思わず大声で叫んでしまった…
いや、今でもそれなりに美味しいんだが、
なんか、こう…口では言い表せない…独特の味があるというか…
まぁ、もうちょっとうまくなってほしい物だな
――― ガチャ!! ―――
叫んだ直後、オレの考えを遮るかのように乱暴にドアが開けられた
「…何か言ったかな、修…」
――― キュピーン!! ―――
鋭い音が部屋に響く
「い、いえ何も言っておりません!!というかその空中に浮いている包丁はいったいなんですか!?」
「それならいいや…早く寝てね。修」
――― ガチャン… ―――
ふぅ~、何とかことは過ぎ去ったか…
今のって、超能力の無駄使いじゃないのか?今の包丁…
まぁいい…
さっさと寝よ。
今日の朝みたいになるとシャレになん
4月29日 木曜日
今日はバッチリ目が覚めた。
また寝坊して、蓮や晶にあーだこーだと言われんのがいやだからな。
不純な動機だが、ちゃんと起きたことには変わりないしな。
仕方がなく良いところで終わってた『三国志』も読まなかったし…。
よし、じゃあ、準備して…と。
――― ガチャ ―――
「今日はちゃんと起きれたみたいだね」
蓮がオレの部屋を覗いて言った。
「また寝坊して時間ギリギリに家を出るのが嫌だから、今日はちょっと早めに起こそうと思ったんだけど」
「そりゃどうもご苦労様」
「うん、それじゃ準備が終わったら下に来てね」
蓮がニッコリ笑って言った。
――― ガチャ ―――
蓮がドアを閉めて部屋から出て行く。
オレはまずカーテンを開けた。
陽射しが眩しい。
思わず眩しさに目を細めた。
う~ん、だんだん春が近づいて来たって感じだな。
オレは部屋を出て、階段を降り、居間に向かった。
蓮はオレが来るのを待っていたかのように、
「じゃ~ん!」
といって、蓮がオレに差し出したのは、
…サンドイッチだ。
「今日のは、自信作なんだ。食べてみてよ」
「………」
『自信作なんだ…』という発言に引っかかるものを感じたが、まぁ、うまそうだったので、口にすることにした。
「…どう?」
「………」
「おう、まずい」
素直な感想を言うと、
「えっ~!!なんで~!?」
蓮は不満げにいった。
「なんでだって!?それなら言いますけどね、なんなんだ、サンドイッチの中に入っているものは」
蓮は自慢げに微笑んで、
「カスタードクリームコロッケ!」
『カスタードクリームコロッケ』オレはその一言に絶句した。
『コロッケ』を挟むならともかく、『クリームコロッケ』でしかも、『カスタードクリーム』とは…
やはり、蓮の料理はたまに恐ろしい物が出来あがる。
『食べ物を粗末にするな』という先人の言葉もあるが…オレはこれを食べ物として見とめたくなかった。
「………」
「やっぱり朝はちゃんとたべないとね」
蓮は笑顔で言う。
「…トイレ」
学校へ向かう途中オレは思ったことを聞いた。
「なぁ、蓮…あれ…味見したか?」
「とうぜんだよ」
「…」
「あんなに美味しいのに…どうして残しちゃうかな~」
「おまえの味覚…どうにかしてる…」
「何か言った?」
聞こえないふりをしているが明らかに聞こえたという顔をしている。
「何でも無いです」
「そう、ならいいんだ」
結局、早く起きたのに校門に着いたのは5分前だった。
「今日も結局ギリギリだな」
「修がサンドイッチ作り直したからだよ…、素直に食べれば良いのに」
「悪うございやしたね」
などと言いながらオレたちは学校の中に入っていった。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
う~む、この音を聞くと眠くなるんだよな~
…お休み~
………
キ~ン~コ~ンカ~ン~コ~ン
よし、今日の授業はこれでおわり…っと。
ようやく自由の身になったぜ。
蓮は今日買いだしに行くっていってたし…。
教室を見まわしても既に蓮の姿は無かった。
オレは教室を出る。
午後の陽射しが校舎の窓を通りぬけ、廊下を明るく照らす。
体育館の近くで晶を見かけた。
「よっ、晶」
「あっ、修司。帰るの?」
「あぁ…、お前は?」
「これから部活だよ」
そう、晶は剣道部だ。
放課後は遅くまで練習している。
「大変だな」
「好きでやっているからね、そんなことは思わないよ」
「へぇ~」
相変わらず『さわやか』だねぇ。
いつもは『のほほ~ん』としてるのに。
部活になると切り返しが速いと言うのか…。
「それよりも、どう?修司も――」
「あきらめろ」
オレは晶の言葉をさえぎった。
これから先は読めている。
どうせまたオレを剣道部に誘うきだろう。
「…でも、せっかく才能があるのに」
「ねーよ」
それでも晶はあきらめないでさらに勧誘してくる。
「そんなことないよ、小さい頃に見てたし、先生だって―――」
「そんなことはない、それにオレにはみんなとやるより一人でやってるほうがいいし」
「…しょうがなか」
やっと晶はあきらめたようだ。
「気長に待つよ」
でもね~か。
「期待すんなんって、じゃな」
俺は背を向けた。
「じゃあ、また」
晶はにっこり笑っていった。
夜。
朝の残りのカスタードクリームコロッケをおかずに、ご飯を食った。
蓮が『食べ物は粗末にしないでね』っていってオレのおかずはこれだけだった。
はぁ~。
…蓮のやつなんであんなもん作ったんだ。
それを食べたオレもすごいと思うのだが…。
いまだに蓮の料理は発展途上…というか、未知数だ。
やばい、またトイレに…
明日、起きるのつらいぞ。
オレは明日の自分がどうなってるか想像もしたくなかった。
さすがに、朝と夕が『カスタードクリームコロッケ』はなぁ~。
そこまで考えてオレは寝ることにした。
こういう時は早く寝た方が言い。
4月30日 金曜日
なんだもう朝か。
うーん、まだ腹の調子が思わしくないな。
―――ガチャ―――
「おっはよー!…ってあれ?修、なんだか眠たそうだね」
「ん、ああ…」
オレは、ふぁ~と、あくびをした。
眠いというのもあるが、やはり腹の調子がヤバイ気がする。
蓮が腰に手を当てて、
「ほら、さっさと顔を洗って、目覚ましてきなよ」
と朝から元気の良い声でオレをせかす。
「う~」
眠くて、足元がふらふらする。
そんなオレの姿を見て、蓮があきれたように言った。
「そんなことしてると、頭ぶつけちゃうぞ」
「はいはい…」
―――ゴン―――
案の定、オレは二回ほど頭をぶつけてしまったことはいうまでもない。
…
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
はあ~あ。
終わった、終わった。
今日は朝からの記憶が無い気がする。
朝はカスタードクリームコロッケの影響で食欲は無かったし、授業中はその弊害で眠ってたし…。
恐るべし蓮の料理。その料理を作った本人はもういない。
オレは改めて蓮の料理について考えさせられた。
まぁ、オレが考えても仕方が無いことか…。
オレはそこで考えを打ちきると、大きなあくびをした。
オレは学校を出て、何気なく河の辺りをうろついていた。
たまには、道草するのも悪くないな。
などと考えながら、ゆっくり歩いていると、
「おーい、修」
むっこの呼び方は…、オレは呼ばれたほうに振り向くと、
蓮がこっちに向かって走ってきていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…はぁー、修って歩くのって本当に速いよね」
「そうか?ってなんでこっちまで来てるんだ」
蓮は照れたふうに微笑んで、
「一緒に帰ろうと思って、だめ?」
「まぁ、いいぜ」
オレと蓮は肩を並べて歩き出した。
蓮が河の土手に植えられている木を見ながら、
「あれって、桜の木だったよね」
「ああ、そういえばそうだな」
オレの記憶がたしかだったら、去年ここでは花見客でいっぱいだったはずだ。
「ここ数年、お花見にいってないよね」
「花見…か」
たしか最後に花見に行ったのは、小学校の頃だったはずだ。
風流な夜の桜吹雪を見に行ったつもりが、親父のやつ蓮に甘酒を飲ませて蓮が甘酒に酔って、力が暴走しちまって風流もなにもあったもんじゃなかった。
その後自治体の人と、花見の主催者にかなりきつく怒られたし。
「あの時は大変だったんだぜ、おまえの力は暴走するし、親父はそれを見て笑ってたし」
「ええ~ぜんぜん覚えてないよ」
ということは、あの時のことも覚えてないのか…
「でも、今年は行ってみたいなー」
う~んそうだな~。
「まぁ、いいか」
「うん、やろう。七瀬くんや薫さんもよんでさ」
う~む、晶はいいんだが薫はこわいな…
首しめられないように背後には気をつけよう。
そうしている間に、オレ達は家に帰ってきた。
4月30日のよる。
早めにベットにもぐりこむ。
あったかい布団のなかが一番落ち着くのは、オレだけじゃないはずだ。
う~ん、心地いいなぁ…
明日もまた大変な一日になりそうだ…。
オレはそこまで考えると闇の中へと落ちていった………。