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4月28日 (火曜日)
――― ピピピピ、ピピピピ、… ―――
意識の奥底から朝と言うことを教える音が聞こえる
――― カチッ ―――
オレは手馴れた動作で目覚し時計を止める
…う~っ。
なんだよ、もう朝か。
夕べ布団に入ってから、ほとんど時間が経っていないような気がする…
オレは頭を傾け、時計を見た
”7時30分”
ベッドを出るのは40分になってからだ
まだあと10分は眠れるな………
もう1度夢の中へ…
…
……
………
「修」
…う~ん
「修~、お~い、修ってば~」
――― ゆさゆさ… ―――
「修~、いい加減起きないと遅刻~」
――― ゆさゆさゆさ… ―――
「修ってば~っ」
「わかった、わかった…起きますよぉ~」
――― むくっ ―――
布団から起きあがって、起こしてくれた妹に挨拶をした
「…おはよう、蓮」
蓮は、わざとらしくため息をついて
「おはよう、蓮…じゃないよ、何で朝は早く起きることが出来ないかなぁ」
「…す、すまん。 昨日の夜”三国志”読んでいたから―――」
あきれたように、枕もとに散らかっている”三国志”の本を見てから妹は
「あのさ…読書もいいけど、朝起こすぼくの身にもなってよ」
いつ見ても”三国志”は面白いから、1回読むとついつい続きが読みたくなってしまうから
昨日も真夜中まで読んでしまった
だから、ここはオレが確実に悪い…
「うっ、すまん…」
「そうそう、わかればいいんだ」
こいつ―――白河 蓮、はオレの義理の妹で、オレと同い年(16歳で高校二年生)
親同士がの再婚で出会ったのが始まりだ
ちなみに、通っている高校も同じだったりする
小さい頃は、人見知りが激しくって、なかなかオレに慕ってくれなかったが
今じゃあ、一応、それなりの兄妹関係になっているはず…
「それより、早くしないと遅刻しちまうぞ」
俺に言われて、蓮が”はっ”とする
「あーっ、そうだよ!遅刻しちゃうよ!!」
「修、早く着替えて来てよ。ぼく、下で待ってるから!!」
「わかった、わかった…」
ひとしきり言い終えると蓮は部屋を出ていった
オレは寝巻き用のTシャツを脱ぎ捨てた
制服のズボンをはき、ハンガーに掛けられた新しいシャツに腕を通す
ボタンをとめて、靴下を履き、制服の上着を持って部屋を出た
――― だん、だん、だん、だんっ… ―――
一段抜かしで階段を降りていく
トイレに行った後、洗面所で洗顔と歯磨き
そして、寝癖を取る
廊下を走って、リビングに掛けこむ
蓮が用意していたトーストをくわえて玄関へ…
そこには時計を気にしている蓮がいた
「よっひゃ、ひふお(よっしゃ、行くぞ)」
「うん(通じている)」
制服の上着を羽織り、靴をはく
蓮と一緒に外に出て、玄関の鍵を閉めた
家から学校の前の坂まで、全速力でやってきた
ちなみに蓮はオレより遥かに足が速い…
「おーい、修。 早く早く~」
「はぁ、はぁ…、まっ、まてよ、蓮…、足……早過ぎ…」
「修遅すぎ。 ぼくだったら学校まで15分で行けるよ」
「…オ、オレ、無理」
蓮はオレを見て、「しょうがないなぁ…」と息を吐き、時間を確認した
「あとはこの坂を上るだけだから、歩いても大丈夫だね」
「…ああ、そうしよ」
オレは苦しそうに肩を上下させていった
オレ経ちは歩みを遅め、坂を上っていく
ようやく一息ついたのをみて、蓮がたずねた
「…ねぇ、お母さんたち、まだ仕事忙しいの?」
「…まあな」
「じゃ、当分は今みたいな生活が続くんだ」
「そーだな」
うちの両親は共働きで、同じ職場で同じ仕事をしている
昨年から、運が良いのか悪いのか二人とも出張でいない
そうゆうわけで、現在オレ達は、蓮と一緒にあの家に住んでいる
「なんだかんだと、忙しいらしいからな…それまでは今の状態が続くらしい」
「ふ~ん、そっか」
蓮がそう言うと
「それまでぼくが修の面倒を見なきゃいけないのか…」
…相変わらず、世話好きなヤツだ
小さい頃からそうだった…
なにかとオレの世話を焼きたがる
そんなことを考えながら、学校の近くまでやって来た時
「ねぇ、修、あそこにいるの七瀬くんじゃない?」
蓮が、前を歩く背中を指差して言った。
前を見ると確かに晶だ
小学校からの腐れ縁だ、見間違うはずもない
オレは早足で近づき、肩を叩いた
「おっす、晶」
「あ、おはよ~修司、蓮ちゃん」
「おはよう七瀬くん」
晶の返事に蓮も挨拶をする
…う~ん…いつ見てもこののんびりとした口調で、剣道部はいまだに信じられん…
端から見ると”のほほ~ん”としていて、運動神経がいいとは思えないんだが…
「修司がいるということは…遅刻決定かな~」
オレは晶を睨んで言った
「…おい、待てこら…」
いくらオレがいつも遅刻ギリギリで来ているからって
「大丈夫だって、七瀬くん。 まだ20分あるから」
「あ…本当だ」
晶は自分の時計を確認しながら言った
「オマエなぁ~…」
「…」
(遅刻寸前とか言っていた割にはずいぶんと時間があるな…)
(…まぁ、あれだけ走れば…)
そう結論を出すと、オレは考えることをやめた
この”のほほ~ん”としている男は、”七瀬 晶”
オレとはガキの頃からの腐れ縁である
「それにしても、蓮ちゃんはすごいよね。 ちゃんとあのネボスケ修司を、起こすんだもん」
「そんなことないよ。 それに修だって、ちゃんと起きることがあるんだよ、これが」
「まったくだ。 オレもずっと寝ているわけではない」
さすがオレの妹だ
オレのことをちゃんと見ているなぁ
「へ~…でもそれって…」
「うん。 自分に都合の良いときだけ」
ガクッ
「やっぱりな~そうだと思ったよ」
オレはなんだかムカついてきて
「お前ら言いたい放題言いやがって、俺だってなぁ―――」
すると蓮が
「じゃぁ、明日から起こさなくても良いんだよね?」
「…ごめんなさい…」
オレ弱すぎ
「修司も蓮ちゃん相手だとよわよわだよね~」
「う、う、うるさ~い!!」
チクショー、晶も蓮もオレをからかいやがって
今に見てろよ、オレだって…
すると、二人ともオレの考えが解ったのか
「修、無駄なことは考えないほうがいいと思うよ」
「そうだよ、修司」
…さいですか。
そんなことを話しているうちに学校に着いてしまった
学校の中に入ってすぐ晶が
「あ、そうだ~。 僕これから顧問のところにいかなくちゃいけなかったけ」
「へぇ~…もしかして晶…なんか悪いことでもしたんじゃないのか~」
「晶先輩がそんなことをするはずありません!!!」
ん?…なんだ?
オレは隣を歩いている蓮の方を向くと
「蓮。 いつから晶に先輩をつけるようになったんだ?」
蓮が”?”マークを浮かべて
「修。 なんでぼくが七瀬くんを”先輩”って呼ばなきゃいけないんだよ」
それもそうだ…。う~ん、では誰だろう
「う~む」
俺がうなっていると
「修司先輩、無視するなんてひどすぎます!!」
おや?まただ
オレが周りを見渡していると
晶がオレの肩を叩いて
「修司、そこだよ、そこ」
晶が指を刺したので、オレがその方向を見ると…
…いた。
「…ごめん若菜ちゃん。 気がつかなかった」
「ひどいです!」
こいつ―――若菜は、晶の部活の後輩で、藤崎 若菜という
いつも木刀を持ち歩いているのでちょっと怖い
こんかいは叩かれずにすんだが…
オレは、頭をかきながら
「本当に、ごめん」
しかし、まぁ、許してくれるはずはない
若菜は、ぷいっと晶の方に向きかえると
「もぅ知りません!晶先輩、先生が呼んでいます。 一緒に行きましょう」
「あぁ…わかったよ、藤崎。 修司、蓮ちゃんそれじゃね~」
「あぁ…」
「うん、また」
晶は、若菜と一緒にに職員室に向かっていった
オレは蓮の方に向き直ると
「それじゃ、教室に行くか」
「うん」
オレ達は、2階にある教室の2-Bへむかった
「なぁ、蓮」
「なに?」
「なんで、2階に教室があるんだ?」
「さぁ、なんでだろ?」
などと、下らないことを言いながら教室に入っていく
オレと蓮は、いったん自分の席に着くため別れた
ちなみに、この教室は列が6つありオレは1番後ろの窓側で、蓮は真中の左側の席だ
オレが席につき、カバンから道具を出し終わったときに
蓮が少し驚いた顔をしてやって来た
「ねぁ、修。 さっき加奈に聞いたんだけど、転入生が来るんだって」
オレは驚いて
「マジかよ!?」
と思わず叫んでしまった
高校で転校生と言うのも珍しいのがあったかもしれない
そういえば、高校の場合は”転入生”っていうのか…
ちなみに、加奈とは、蓮の後ろにいる友達の女の子だ
「うん、そうらしいんだよ。 ぼくもはじめて知った」
「そうなのか…」
うーむ、転入生かぁ…
…女の子だと良いなぁ…
転入生と言えば美人と言う相場だし…
そんな考えを悟ったのか蓮が怒った顔をして
「修…何か変なこと考えているだろ」
「そ、そんなことはないぞ」
オレは首を振って否定したが
蓮はなおも追求してくる
「ほんとうに!?~」
「ほ…ほんとうだって」
う~む…何とかしないと
このままだと負けてしまう
――― ガラガラ… ―――
「あっ!修司~!!」
む、ナイスタイミングだ、晶
さすが、腐れ縁だけあって出所を心得ている
「おう、なんだ晶」
晶がオレのほうに駆け寄ってくる
「どうしたの?七瀬君」
蓮は晶に気を取られている
「大ニュース、大ニュースだんだよ~」
晶が両手を大げさに振って、必死に訴えかける
オレは半ばあきれながら
「んで、なにが大変なんだよ」
「それがさ、今日転入生が来るんだって。 さっき職員室で先生が言ってたよ」
な~んだ、その話しか…
「その話しだったら、さっき蓮に聞いたぞ。 なぁ?」
オレはその場にいた蓮に同意を求めた
「うん」
蓮はうなずき同意する
しかし、晶はまだ必死になっていて
「だから、その転入生が修司のよく知っている―――」
――― キーンコーンカーンコーン… ―――
――― ガラガラ… ―――
「ほら、おまえら。 さっさと席に着け」
チャイムの音と同時に担任の蒼月が、入ってきた
「おっ…蒼月だ。 ほら、おまえら早く席に戻れ」
「またね、修」
「あ…うん」
蓮は素直に席に言ったが晶はなんだかそわそわしながら席に着いた
ふ~っ、なんとか話しを蓮の追求は間逃れたな
皆が席に着いたのを確認した蒼月が
「ホームルームをはじめるがその前にこのクラスに新しく転入してくる子がいる」
「お~い、入って来い」
蒼月がそういうと、少しにぎやかになったクラスの扉が開く
男か、それとも女か…
――― ガラガラガラ… ―――
ゆっくりと扉が開く
う~む、女の子か…
それも…かわいい………
「みなさん、初めまして。 私は一之瀬―――」
ふむふむ、苗字が一之瀬っと
「薫です。 どうぞよろしくお願いします」
なるほど、名前が薫と…
…
……
なんだって!?
か・お・る…だって…
オレの脳裏を1人の女の子が通りすぎた…
遠い昔の彼女の姿…
いまでも忘れることのない昔の幼馴染
すべてが、この春から変わろうとしていた…