Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > 丘の上の物語 > 水瀬千夏 -第六章-
11:30
「う~」
「昼頃まで寝ていたのに目覚めは最悪だった」
「…」
オレは着替えを済ませてリビングへ向かった。
静かなリビング…。
書置きもないところを見ると蓮は部屋にいるらしい。
1:00
いい加減なにも食べてないと辛くなってくる。
蓮もこうなっているはずだ。
オレは蓮を呼びにいくことにした。
ドアの前
『トントン』
ノックをする。
…
……
………
「どうぞ」
しばらくして蓮の声が聞こえた。
「入るぞ」
『ガチャ』
リビングからここまで来る間にオレは昨日聞こうと思っていたことがあったことを思い出した。
色々あって忘れていた。
机の椅子に座っている蓮。
机の上の写真立にはオレ達4人が勢ぞろいしている写真が飾られている。
…
……
………
沈黙
…
空気が話し掛けづらい雰囲気を醸し出している。
…
このままだとなにも解決しないな…。
オレは軽くため息をつくと蓮に声をかける。
「なぁ、蓮」
「ねぇ、修」
二人の声が重なる。
「…」
「…」
「お前から話してくれ」
オレは話したいこともあったが、蓮が進んで話しかけようとしたことに進展する気配を感じて、促す。
「…」
…
……
………
さらに沈黙。
「修…」
「どうした?」
オレはなるべくやさしく返した。
「………。修は水瀬先輩のことが好き?」
!?
予想外の質問にオレは驚く。
そして―――
「あぁ…好きだと思う」
はっきりという。
昨日オレはそのことに気がついた。
「そう…」
机に体を向けたまま蓮はつづける。
「だったら…、自分の思うがままに行動してよ」
「え?」
オレは思わず聞き返す。
「自分の信じるまま行動して」
「…わかった」
蓮のいいたいことはわかった。
だけど、それが何を意味するかはわからなかった。
「それじゃあ、僕のいう事はもう無いから」
「…」
「ごめん、昼ご飯だけはカップ麺で我慢してくれる?」
「わかった」
「夜はちゃんと作るから」
オレは何も言わずに部屋を出る。
最後の蓮の言葉が震えていたのは何故だろう。
夜
「こんばんはー!!」
「のわっ。びっくりさせるなよ」
「ごめんねっ。所でお腹空いたでしょ?」
「あっ…あぁ」
「ちょっと待っててね。今作るから」
「おっ、おう」
リビングでテレビを見ていたら突然ドアが開き蓮が飛びこんできた。
少なくともいつもの蓮がそこにいた。
ちょっと…元気がよすぎるけど…。
…
これで…解決したんだよな。
…
……
………
久しぶりにご飯が美味しく感じた。
厳密に言えば、いままで考え事をして味を感じていなかったとも言うが。
「ふーっ」
窓を開けていたからだろう、部屋が涼しい。
疲れの影響の眠気が次第に収まっていく。
いまなら、全てを冷静に考えられそうだ。
11日の事から考えよう。
あまりにも落ち着いている自分にもどかしさすら感じる。
昼にデート(?)に誘われたのが全ての始まりかもしれない。
その後…買い物をしてプレゼントを貰って家に帰った。
12日の昼
この辺りから水瀬先輩は何かよそよそしいというか、何かを考えていたそぶりを見せていた。
13日朝
久川の話によると、用事があったらしく3人で登校した。
昼
初めて一言も水瀬先輩と喋らなかった。
夜
蓮の何かを考えている…というか思いつめている顔・
蓮は大丈夫だといっていた。
14日
朝と昼
会うことも話すこともなかった。
久川が言うには『一人になりたい』らしい。
夜
オレの心に気がついたとき…。
15日
先輩に会おうとして拒絶された日。
『これ以上私に関わらないで』
全てを拒絶されたとき。
…
……
………
やっぱりわからない…。
…
……
………
もう一度会おう。
これで終りでいい。
このまま終わるよりはきちんと片をつけよう。
17日 (月曜日)
オレは水瀬先輩に全てを聞くことにした。
何も話してくれないなら俺から聞くしかない。
もう一度昨日の階段を登る。
「無駄よ」
低く、けどはっきりと聞こえた。
「誰だ」
声のしたほうを振り向く。
踊り場の隅に声の主はいた。
「久川…」
「千夏ならもう帰ったわ。そしてあなたはもう会うことも出来ない」
「どういうことだ?」
「来て。そこで全てを教えてあげる」
屋上
「稔…」
「やぁ、修司君」
離れて会話を交わす。
「さて、それじゃあ教えてあげる」
久かはオレの視線を避けるかのようにフェンスに寄りかかり街のほうへ体を向けた。
稔は対角線上のフェンスの方にいる。
…
「千夏は…いってしまえばお嬢様よ」
少しの間を空け、久川は淡々と喋り始める。
そこまではオレもうすうす感づいていた。
話し方、入院したときの花の数、知識、見聞…。
全てはそれでつながる。
「そして………」
久川はそこで間を空けた。
「おい、そして…なんだよ」
「…千夏には許嫁がいる」
!?
許嫁。
お互いに結婚しあうことを前提として付き合っている。
そして…お互いの両親が結婚をすることを見とめている間柄…。
婚約者ともいえる。
「だから、あなたとの繋がりもただのお遊びということ。千夏はあなたになんて興味はないのよ」
小さな声で、そして重い声で久川は間を空けることなく言いきった。
全ての時間が止まる。
水瀬先輩とのことが頭の中を走馬灯のように駆け巡る。
「本当なのか?本当に興味なんてなかったのか?」
「えぇ」
「嘘だ!」
「なっ!?」
「オレの慢心かもしれないけど…興味がないなんて嘘だ。オレに向けていた言葉や行動の全てが偽りなんてありえない!水瀬先輩に限ってそんなこと」
全てを言いきったとき、久川は振り返った。
「…」
久川が微かに笑った。
…
久川が口を開く。
…
「もうだめね。己の自惚れに浸るなんて」
さらに低く全てを凍らせるように久川はいった。
「あきらめなさい」
久川は優しくいった。
「それじゃあ、私の言いたいことはそれだけ」
『じゃあね』といいながら久川は重い扉を開け、屋上を立ち去った。