丘の上の物語 -水瀬千夏ストーリー-

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水瀬千夏 第一章

坂道を登り終え、目の前には俺達が通っている学校が迫ってきた
オレはすこしいきを切らしながら言った 

「なんとか、間に合いそうだな」
「うんそうみたいだね」 

相槌を打ったのはオレの義理の妹 白河 蓮
白河 蓮、はオレの義理の妹で、オレと同い年(16歳で高校二年生)
親同士がの再婚で出会ったのが始まりだ
ちなみに、通っている高校も同じだったりする
小さい頃は、人見知りが激しくって、なかなかオレに慕ってくれなかったが
今じゃあ、一応、それなりの兄妹関係になっているはず…
 
今日はちょっとオレが遅く起きてしまったから、坂の手前まで走ってきたのだ
さすがに、坂道を走る体力はオレには無くゆっくりと歩いてきた
まぁ、蓮にとってはこの位の距離なら全力疾走でも大丈夫そうだが… 

「ねぇ、修、あそこにいるの七瀬くんじゃない?」 

蓮が、前を歩く背中を指差して言った。
前を見ると確かに晶だ
小学校からの腐れ縁だ、見間違うはずもない
オレは早足で近づき、肩を叩いた 

「おっす、晶」
「あ、おはよ~修司、蓮ちゃん」
「おはよう七瀬くん」 

晶の返事に蓮も挨拶をする
…う~ん…つ見てもこののんびりとした口調で、剣道部はいまだに信じられん
端から見ると”のほほ~ん”としていて、運動神経がいいとは思えないんだが…
 「修司がいるということは…遅刻決定かな~」
 オレは晶を睨んで言った
 
「…おい、待てこら…」
 
いくらオレがいつも遅刻ギリギリで来ているからって
 
「大丈夫だって、七瀬くん。 まだ20分あるから」
「あ…本当だ」
 
晶は自分の時計を確認しながら言った
 
「オマエなぁ~…」
「…」
 
(遅刻寸前とか言っていた割にはずいぶんと時間があるな…)
(…まぁ、あれだけ走れば…)
 
この”のほほ~ん”としている男は、”七瀬 晶”
オレとはガキの頃からの腐れ縁である
 
「それにしても、蓮ちゃんはすごいよね。 ちゃんとあのネボスケ修司を、起こすんだもん」
「そんなことないよ。 それに修だって、ちゃんと起きることがあるんだよこれが」
「まったくだ。 オレもずっと寝ているわけではない」
 
さすがオレの妹だ
オレのことをちゃんと見ているなぁ
 
「へ~…でもそれって…」
「うん。 自分に都合の良いときだけ」
 
ガクッ
 
「やっぱりな~そうだと思ったよ」
 
オレはなんだかムカついてきて
 
「お前ら言いたい放題言いやがって、俺だってなぁ―――」
 
すると蓮が
 
「じゃぁ、明日から起こさなくても良いんだよね?」
「…ごめんなさい…」
 
オレ弱すぎ
 
「修司も蓮ちゃん相手だとよわよわだよね~」
「う、う、うるさ~い!!」
 
チクショー、晶も蓮もオレをからかいやがって
今に見てろよ、オレだって…
すると、二人ともオレの考えが解ったのか
 
「修、無駄なことは考えないほうがいいと思うよ」
「そうだよ、修司」
 
…さいですか。

そんなことを話しているうちに学校に着いてしまった
学校の中に入ってすぐ晶が
 
「あ、そうだ~。 僕これから顧問のところにいかなくちゃいけなかったけ」
「へぇ~…もしかして晶…なんか悪いことでもしたんじゃないのか~」
「晶先輩がそんなことをするはずありません!!!」
 
ん?…なんだ?
オレは隣を歩いている蓮の方を向くと
 
「蓮。 いつから晶に先輩をつけるようになったんだ?」
 
蓮が”?”マークを浮かべて
 
「修。 なんでぼくが七瀬くんを先輩って呼ばなきゃいけないんだよ」
 
それもそうだ…。う~ん、では誰だろう
 
「う~む」
 
俺がうなっていると
 
「修司先輩、無視するなんてひどすぎます!!」
 
おや?まただ
オレが周りを見渡していると
晶がオレの肩を叩いて
 
「修司、そこだよ、そこ」
 
晶が指を刺したので、オレがその方向を見ると…
…いた。
 
「…ごめん若菜ちゃん。 気がつかなかった」
「ひどいです!」
 
こいつ―――若菜は、晶の部活の後輩で、藤崎 若菜という
いつも木刀を持ち歩いているのでちょっと怖い
こんかいは叩かれずにすんだが…
 
オレは、頭をかきながら
 
「本当に、ごめん」
 
しかし、まぁ、許してくれるはずはない
若菜は、ぷいっと晶の方に向きかえると
 
「もぅ知りません!晶先輩、先生が呼んでいます。 一緒に行きましょう」
「あぁ…わかったよ、藤崎。 修司、蓮ちゃんそれじゃね~」
「あぁ…」
「うん、また」
 
晶は、若菜と一緒にに職員室に向かっていった
オレは蓮の方に向き直ると
 
「それじゃ、教室に行くか」
「うん」
 
オレ達は、2階にある教室の2-Bへむかった
 
「なぁ、蓮」
「なに?」
「なんで、2階に教室があるんだ?」
「さぁ、なんでだろ?」
 
などと、下らないことを言いながら教室に入っていく
オレと蓮は、いったん自分の席に着くため別れた
ちなみに、この教室は列が6つありオレは1番後ろの窓側で、蓮は真中の左側の席だ
オレが席につき、カバンから道具を出し終わったときに
蓮が少し驚いた顔をしてやって来た
 
「ねぁ、修。 さっき加奈に聞いたんだけど、転入生が来るんだって」
 
オレは驚いて
 
「マジかよ!?」
 
と思わず叫んでしまった
高校で転校生と言うのも珍しいのがあったかもしれない
そういえば、高校の場合は”転入生”っていうのか…
ちなみに、加奈とは、蓮の後ろにいる友達の女の子だ
 
「うん、そうらしいんだよ。 ぼくもはじめて知った」
「そうなのか…」
 
うーむ、転入生かぁ…
…女の子だと良いなぁ…
転入生と言えば美人と言う相場だし…
そんな考えを悟ったのか蓮が怒った顔をして
 
「修…何か変なこと考えているだろ」
「そ、そんなことはないぞ」
 
オレは首を振って否定したが
蓮はなおも追求してくる
 
「ほんとうに!?~」
「ほ…ほんとうだって」
 
う~む…何とかしないと
このままだと負けてしまう
 
――― ガラガラ… ―――
 
「あっ!修司~!!」
 
む、ナイスタイミングだ、晶
さすが、腐れ縁だけあって出所を心得ている
 
「おう、なんだ晶」
 
晶がオレのほうに駆け寄ってくる
 
「どうしたの?七瀬くん」
 
蓮は晶に気を取られている
 
「大ニュース、大ニュースだんだよ~」
 
晶が両手を大げさに振って、必死に訴えかける
オレは半ばあきれながら
 
「んで、なにが大変なんだよ」
「それがさ、今日転入生が来るんだって。 さっき職員室で先生が言ってたよ」
 
な~んだ、その話しか…
 
「その話しだったら、さっき蓮に聞いたぞ。 なぁ?」
 
オレはその場にいた蓮に同意を求めた
 
「うん」
 
蓮はうなずき同意する
しかし、晶はまだ必死になっていて
 
「だから、その転入生が修司のよく知っている―――」
 
――― キーンコーンカーンコーン… ―――
 
――― ガラガラ… ―――
 
「ほら、おまえら。 さっさと席に着け」
 
チャイムの音と同時に担任の蒼月が、入ってきた
 
「おっ…蒼月だ。 ほら、おまえら早く席に戻れ」
「またね、修」
「あ…うん」
 
蓮は素直に席に言ったが晶はなんだかそわそわしながら席に着いた
ふ~っ、なんとか話しを蓮の追求は間逃れたな
皆が席に着いたのを確認した蒼月が
 
「ホームルームをはじめるがその前にこのクラスに新しく転入してくる子がいる」
「お~い、入って来い」
 
蒼月がそういうと、少しにぎやかになったクラスの扉が開く
男か、それとも女か…
 
――― ガラガラガラ… ―――
 
ゆっくりと扉が開く
う~む、女の子か…
それも…かわいい………
 
「みなさん、初めまして。 私は一之瀬―――」
 
ふむふむ、苗字が一之瀬っと
 
「薫です。 どうぞよろしくお願いします」
 
なるほど、名前が薫と…

……
なんだって!? 
か・お・る…だって…
オレの脳裏を1人の女の子が通りすぎた…
遠い昔の彼女の姿…
いまでも忘れることのない昔の幼馴染
家の事情で確か引っ越したはず…
それが帰ってきた…
 
「それじゃあ、一之瀬の席は白河の隣だな…」
 
オレの隣ですか…
まぁ、ここしか席が空いてないし、昨日までこんな席はなかったはずだ
 
「こんにちは」
 
オレはあえて普通に声をかけた
 
「たしか、白河君ですよね? 初めまして、これからよろしくね」
「おいおい、忘れたのか…。 オレ達の幼馴染四人組」
「あっ…それじゃあ………おひさしぶり…って言うべきだね、しーくん」
 
薫はいたずらっぽく笑いながら言った
そうそう、昔からオレは”しーくん”蓮は”れーちゃん”晶は”あーくん”って呼ばれてたな…
でも、昔より性格がきつくなった気が…
まぁ、気のせいか
 
「それにしても、その呼び方…懐かしいな」
「さすがに高校生になってからは恥ずかしい?」
「どっちでもかまわない。 それにしても、どうしたんだ?」
「おい、白河。 さっそくお喋りか?」
 
「すみません」
「よし、ならホームルームの続きをはじめるぞ」


……
………
 
「それにしても驚いたね」
「あぁ…」
 
休み時間になって蓮がやってくる
 
「僕も驚いたよ~」
 
そして、”のんびり”なヤツも
どうやら、薫はクラスの奴らに囲まれているらしい
 
「ところで、修?」
「ん?なんだ蓮」
 
オレの様子を探るような視線で蓮が話しかけてくる
 
「さっき、何考えてたの?」
「さっき?」
「ほら、教室に入って、転入生の話しをしたとき…」
 
まだ、根に持っていやがる
1つの物事に納得がいくまではまりこむのはいいのだが…
このことは勘弁してくれ。
さすがに転入生が来るって聞いてはじめに考えたことが”女のこかな?”とは言えないだろう
 
「それで、何なの?」
「あっ、そうだ」
 
またもやナイスタイミングだ晶
 
「どうした」
 
すかさず相槌をうつ
 
「朝の事まだ終わってないから先生のところに行かなきゃ」
 
逃げるのか晶
 
「いってらっしゃい」
「うん」
 
蓮が見送る
やばい…このままでは…オレが一人になってしまう
つまり敗北を意味する
教室のドアを開け廊下に出そうになったところでオレは名案を思いついた
さっそく実行に移す
 
「晶、オレもいっしょにいってやる」
「あっ、ありがとう~」
 
ドアを閉めかけていた晶が反応する
 
――― ガタッ ―――
 
椅子を引くとオレはすばやく立ち上がる
あとは、このまま逃げるだけ…
 
「修~。 逃げるのかな~?」
「そっ、そういうわけではないぞ」
 
はやくこの場を切り上げなくては…
 
「んじゃ、いってくる」
 
オレはすばやくそう言うと、廊下に早足で向かった
 
「まって」
 
蓮が追いかけてくる
ヤバイ
本能的にオレは走り出していた
廊下の先を既に歩いている晶を追い越し、階段を折り始める
 
「まちなさ~い」
 
蓮の声がコンクリートの階段に反響する
さすがに足が速い
オレはもう少しペースを上げ踊り場を通過しようとした…
 
――― キュッ ―――
 
足元からいやな音が響く
 
「あっ…」
 
――― スルッ ―――
 
踊り場を回りきりさらに下へと行こうとしたとき、手すりをつかんでいた手が離れる
遠心力にオレの体は流され、勢い余って階段から滑り落ちていく
一瞬の出来事
オレの視界は階段から天井へと移っていた
 
――― キャッ!! ―――
 
蓮の叫び声?
いや、違う
 
「うわっ」
「修!!」
 
蓮の声が確実に俺の耳に入ってくる
階段にからだが叩き付けられる
このままだと下に落ちてしまう
 
――― ドスッ ―――
 
身構えていたオレを予想外の感触が包み込む
 
「キャッ!」
 
下の方から聞こえてくる誰かの声
 
「…」
 
オレはいたんでいる体を強引に動かして周りを把握する
 
「修~ 大丈夫」
 
階段の上のほうから蓮の声が聞こえる
 
「お~い、大丈夫か?」
 
晶の声も聞こえる。
オレはさっきの声を確かめるために、下の方に目を向ける
 
「!?」
 
そこには見なれない人が倒れていた…

初出: 2002年
更新: 2005年8月20日
企画: 二重影
原作: 鈴響 雪冬
著作: 鈴響 雪冬
制作: 鈴響 雪冬
Copyright © 2002-2005 Suzuhibiki Yuki

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