Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > 丘の上の物語 > 水瀬千夏 -プロローグ-
春がすぐそこまで来ていた。
街を覆っていた雪も解け、
辺りは新緑の緑に包まれ、
桜の木にもつぼみが芽吹きはじめている。
すべては春の訪れを感じさせている。
そんな毎年のように繰り返す日々―――
でも、そんな日常が好きだった。
友達と交わす会話―――
そんな学校での日々が好きだった。
「おはよぉ~」
晶の声。
「おはよう」
「おはよう」
オレと蓮の声。
教室での朝のやり取り。
「修、それにしてもやっと暖かくなってきたね」
「あぁ。もうそろそろ花見の季節だな」
「うん♪」
蓮が笑顔で頷く。
屋上での昼ご飯。
「だいぶ人が増えてきたね」
ここは学食から繋がっている屋上。
室内にも食べる所はあるが、暖かくなるとほとんどの生徒は屋上で食べる。
オレ達もそいつらと同じだ。
「?」
オレはふとフェンスに寄りかかって、街を見下ろしている人を見つけた。
そこだけ空気が違う気がする。
だけど、すぐ見知らぬ二人がやってくる。
その人は、後から来た二人とご飯を食べはじめた。
「どうしたの?」
晶が聞いてくる。
「ん? なんでもない」
「それじゃあ、早く食べよう~」
「おう」
突拍子のない出来事など…小説でしかありえない。
でも、今年の春は、
そんな突拍子のない出来事が起こりそうな気がする。
なぜだって?
そんなのはオレにもわからない…。