最新の短編作品を六話詰め込んで、お送りする短編集第二巻。
二重影と鈴響雪冬による短編作品を収めます。
私はジャングルジムに登った。だって、此処から見る風景が好きだから。一番上まで登り、辺りを見回す。…静かだ。
本当に静かだった。いつもなら皆がいて、騒いでて五月蝿かったのに。
私は空を見上げた。満月だった。
暫く満月を見てるとなんだか寂しくなってきた。
「…お母さん……」
そう呟くと…。
「何してんの?」
突然下の方から声が聞こえてきた。
「…空を見てたの」
「そうなんだ。…ねぇ、そっちに行ってもいい?」
私は頷いた。
「ねぇ、薫? どうしてこの場所が好きなの?」
「えっ? 私がこの場所を好きな理由と同じ………そう…」
「聞かせて欲しい…? そう………ね…。笑わないで下さいね」
「私がこの場所を好きな理由………」
「ここは…風が見えるから………ここなら風を見ることが出来るから………たとえ目が見えなくても…目を閉じていても………風を見ることが出来るから」
「ん? もっとあるでしょ?って? そうね………」
「全てを見ることが出来るから………暗闇の向こう側に…全てを見ることが出来るから。いつもは見えない物が…ここなら見えるから………」
「お前が生きていた証はここにいるからな」
いつのまにか眠ってしまったかえでを『おぶひも』から降ろし、腕に抱く。
「ほら…ね」
大切に育ててやるさ。
お前と、俺の子供だからな。
きっと美人になるよ、お前の子供だから。
どっちに似るんだろうな、楽しみだよな?
っと…やべ…泣きそうになってるじゃねぇか。
「心配すんじゃねぇ、俺は元気さ」
そう――此処が俺の凶暴な幼なじみの知夏が住んで居る銭湯。
いや、今は住んでいたかな。
俺がこの町を出て行ってから、何年かして知夏は死んだそう だ。
それを知ったとき、俺は何も感じなかった。
いや、何か感じたのかも知れない。
俺は涙を流していた。
姉さんが言うまでそれが判らなかったのだ。
俺たちは知夏の位牌を見せてもらった。
しかし、これが知夏の位牌です。と言われてもピンと来なかった。
俺には木に文字が書いてある。
そう、思ってしまった。
だって、小指の痛みがあるから――。
今でも忘れてはいないんだよね、好きっていう感情はないんだけど。
だからね、こうしてここに来てるんだから。
ばっさり髪も切ってスッキリして…。
私は今は元気。
一人になってから一人で出かけることが多くなった。
何時も後ろだった自転車だって、今は自分でこぐ。
そのときに何時も思い出すんだ。
一人なんだ…。
昔は君とだったって。
わかっている。この生活が『いつもと同じ』で『変化が無く』て『平凡』で、『つまらない』ものだってぐらい…。
何も変わらないのが一番幸せという人がいる。でも私はそう思わない。変化があるのが自然の動きだし、だからこそ、楽しいのではないか? と、頭の中でわかっていても、いざ動こうと思うと、だるくてしょうがない。どうしてだろうか。
水滴が水面ではねる音で私は意識を現実に戻し、体を拭き、バスタオルで包み込むと、浴室から出た。
いつものような体の交わりをふくめ、私の今の生活は変化が乏しい。近所の人だって同じようなものだと言うことも知っている。何度もこのことを友達に愚痴った事だってある。
だから、私は突然言い出したのかもしれない。
『旅行に行こう』って…。
最新の短編作品を六話詰め込んで、お送りする短編集第二巻。相変わらず作品のテーマはありません。二重影と鈴響雪冬による短編作品を収めます。2千文字シリーズといった、わずか二千文字で作品を表現するシリーズなどを初めとし、比較的短い作品が集まっています。
収録作品は、『二人』、『二人』、『いつだって俺は元気さ』、『Thaw』、『フられたけど私は元気です』、『運命の出会いと初恋』の6作品です。
(1万8000文字相当)