Webサイトで紹介されている短編二作品に書き下ろし作品を含めた合計六作品を載せた、短編集第一巻。
少し…柔らかい気持ちになって見ませんか?
五年前の夏…俺はこの街に別れを告げた…。いま…こうして戻ってきた。…七海はどうしているだろうか…。
ゆっくりとしたテンポで、短く語られる二人の再会のお話です。
食事が終わって杉山がまったりとしていると七海が、
「ねぇ、あの場所に行ってみない?」
杉山に聞いた。
「…あぁ、いいぜ」
それに対して杉山も二つ返事で返す。
駆け落ちでもしようかとはじめは思っていた。
しかし、お互いに家族を捨てることは出来ないと分かっていた。だからせめて大好きな場所で出来るだけ共に過ごそうと思った。
何時までたっても進展の無い俺達…。いいかげん俺もしっかりしないと…。
見せ付けられるような二人のバカップル(死後)に、だんだんと応援したくなってくるような…。
「…みんな、見てるわよ…」
周りの人々が、僕達をいろんな目で見ているのがわかる。
ここは多くの人が待ち合わせのスポットとして利用する場所。それに、今は夏休み。
「いいよ。見せ付ければいいんだよ」
「…馬鹿だわ」
「そんなに馬鹿かな?」
「ええ…大馬鹿だわ」
夏の暑い日、オレは蓮に誘われて外に出ることにした。蓮はいい場所があるというんだが…ほんとかどうか…。
『丘の上の物語』の外伝。わざわざ暑い日に外に出かけた白河兄妹…一体蓮は何処に修司を連れて行くことか…。
相変わらず、『力』の無駄使いだと思うんだ。
いくら力が体内に蓄積されると危ないからって、人を脅すのに包丁を飛ばしたりするのは止めてください。
はぁ~。
「大丈夫、もうすぐ涼しくなるよ」
オレの心のため息を読み取ったのか、蓮が言った。
「ほんとか?」
オレはかなりの疑いの目線を蓮に向ける。
「多分ね♪」
「おいおい…」
だめだ…浮かばない…。俺は歌詞を書いた紙を破り捨てた…。どうして…なにも出てこないんだ…? 五年前の出来事…。
詩を書くのが好きだったのに…書けなくなってしまった少年。彼はどうやって思い出すのでしょうか。
そんなことを思い出した今。
あれから俺は詞を書かなくなったんだな。
既に五年と言う歳月が流れていた。
何も見つけることもなく、大学に入学し、当たり前のように普通の人生を送っている。
そんな自分に存在価値はあるのか…。
大学に入って既に二年が経つ。
講義を受けノートにメモを取る日々の繰り返し。
何も考えることのない無機質な自分。
いつもの温泉…ここは小さい温泉だ。誰もお客さんはいない…だけど…今日は…隣から歌が聞こえる。
温泉を舞台にしたちょっとだけほのぼのするお話です。
「あれ? 直哉じゃん」
「ん?」
俺が後ろを向くと萌さんが立っていた。
湯上りで髪をタオルで纏めていた。
「奇遇だね。直哉もここ来てたんだ」
「あぁ…」
「そっか、…ってもしかして聞こえてた?」
「あぁ…バッチリ」
「あちゃ~、やっちった」
そう言って萌さんは片目を瞑って舌を出した。
そんなところが可愛かったりする。
このどことなく茶目っ気のある先輩は…一体…といいつつ俺はもう長い間、お友達として付き合ってきた。
足が弱い先輩と繰り広げる、ちょっとだけドタバダなストーリー。でも…恋愛小説…(笑)
自動ドアの開く音と共に俺達は中に入る。
先輩の後をゆっくりとついていく。
自動ドアが閉まるのを防ぐため。
エレベーターだって俺がボタンを押し、先に入り、先輩を待つ。
もう、これが当たり前になってきた。
そう言えば…エレベーターとフロアの隙間に杖が挟まって抜けなくなったときがあったっけ。
あのときは唖然としたな。
二重影と鈴響雪冬の短編を集めた作品集。活動をはじめた初期のころの作品を六つ集めています。
Webサイトで紹介されている短編二作品に書き下ろし作品を含めた合計六作品を載せた、短編集第一巻。少し…柔らかい気持ちになって見ませんか?
収録作品は、『夏の日の出来事』、『新たなる始まり』、『風のある場所』、『Melody of the wind ~歌は風に乗って何処までも進む~』、『あたたかい時間』、『大切なもの』の6作品。
(1万6000文字相当)
実際の表紙には、紺色の製本テープがついています。