5年後には黒歴史「地方公務員の仕事とメールの署名」

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地方公務員の仕事とメールの署名

署名

 先日、以前住んでいた町に用事があったため、その町の市役所にメールを送信しました。その際、何度かやりとりしているさなか、一つ気になる事があったので、文章にまとめてみたいと思います。

 メールの末尾には署名(シグネチャ)をつけるのが習わしになっていますが、もちろん、その時やりとりしたメールにも付いていました。

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ABC市役所 市民税課
012-345-6789
担当者 DE
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 署名としての要件は全て具備していると考えられますし、非常にシンプルで、わかりやすい署名でした。普通に使う分には全く問題ないでしょう。

地方自治体の役割って何だろう

 さて、地方自治体の役割は、単純に税金を集めて社会基盤や福祉事業を整備するだけではなく、他にも幾つかあると考えられます。

 例えば、市内産業の育成。
 何かと批判の多い公共工事ですが、公共工事を発注し、地元の会社がそれを請け負い、それを繰り返している間に成長する。大きくなった会社は他の地域にも支店や営業所を持つようになり、それらの地域で工事を請け負うようになる。社員が足りなければ雇用し、材料が足りなければ購入する。売上が伸びれば税収は増え、最終的には市政が潤う。
 この様に、公共工事にはインフラ整備以外にもちゃんとした役割が存在します。

 ただ、一つ問題点を挙げるなら、自治体の投資が公共工事に片寄っていることでしょう。箱物とは言いますが、箱物は成果が見えやすく、故に評価もしやすいという側面もあるため、自然と公共工事にお金が使われるのかもしれません。
 しかし、自治体と民間がパートナーを組んでインフラを整備するPFIといったシステムも既にできあがりつつあり、インフラにたいして100%の出資をすると言う時代は終わりつつあるのです。

 自治体の重要な役目の一つに、民間では採算が取れずにやれないことを、税収というシステムで資金を集め、そう言った事業にお金を配分することにあります。言い方を変えるなら、未成熟な産業にお金を投資し、産業を成長させ、自立ができるように促すのです。
 その産業が成長し、独立し、全国・全世界に発信できるようになったなら、「○○業といえばABC市」と言われるようになり、自治体としての競争力も向上するでしょう。
 つまり、公共工事ではなく、公共事業にお金をつぎ込むべきなのです。

 閑話休題。
 「○○業と言えばABC市!」という目標。これはすなわち、自治体を有名にすることに他なりません。産業、観光、環境、何でもいいのです。○○と言えばあそこ。そう言われることが自治体の強みになるのです。実際、子育てに対する支援が手厚い自治体は若い人達が流入し、そこで子供を産み育てるというのが当たり前になっている所もあります。
 自治体ごとに投資する物が変われば、伸びる産業も変わり、それがその自治体の個性になるでしょう。

 「温泉と言えば草津」、「リンゴと言えば青森」、「液晶と言えば亀山」。
 有名どころを書き連ねましたが、どんな自治体でも、多かれ少なかれアピールできる物はあるはずです(その土地に住まう人が気づいている・いないに関わらず)。

 別に日本トップじゃなくてもいい。県下トップじゃなくてもいい。
 でも、自分の町の誇れること、一つはあるでしょう。逆説的ではありますが、その地方の行政を司る地方公務員が、自分の町の魅力を語れないとしたら、それは人事課の失態です。

自治体の仕事とメールの署名

 地方公務員の仕事が仮に、「自分たちの自治体の個性を伸ばし、自治体をアピールし、最終的に自治体を成長に導くことである」と仮定した上で、先ほどの署名を見てみましょう。

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ABC市役所 市民税課
012-345-6789
担当者 DE
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 要件は全て揃っています。
 しかし、仕事を全うしているとは言えません。つまり「アピール」という観点が抜けていて、非常に寂しいのです。

 そこで、一つ工夫を凝らしてみます。

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豚肉出荷量関東1位 あなたの食べる肉もABC産 ABC市役所 市民税課
012-345-6789
担当者 DE
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 例がへたで申し訳ないのですが…。

 人間というのは知識欲がある動物だそうです。たった一行ですが、ABC市ってそんなことをやっているんだと、気づいてもらえるかもしれません。雑誌や新聞の隅にあるミニコラム、そんな位置づけだと思います。これを例えば10パターンぐらい用意して、人によってそれぞれ違っていたら、すごく楽しいと思いませんか?

自治体は稼ぐべき

 自治体のアピールと言うと、真っ先にパンフレットのような冊子を思い浮かべますが、配布できる範囲が限られています。よくても同じ県内や隣接自治体が限度でしょう。都内のアンテナショップもその範囲にはいるかもしれません。しかし、アピールする冊子のライバルは「るるぶ」です。全国で販売され、ギネスに売上部数最大の観光冊子と認定されている「るるぶ」に、自治体が配るパンフレットは敵うわけがありません。
 しかし、パンフレット以外にこういった署名という場所で、しかも、るるぶに載らないような情報を提供する事ができる。これを利用しない手はないでしょう。

 自治体はその地域の総合窓口です。その総合窓口が何の情報も提供せず、ひたすら維持することだけを考えていては、成長できる街も成長できなくなってしまう、そのように考えます。


 この文章を読んでいる人の中には「自治体は滅私奉公の精神で、儲ける事なんてもってのほか!」なんて思っている人もいるかもしれません。しかし、病院ですら赤字になる時代。福祉を維持するために病院にお金を充填したくとも自治体が赤字ではそれも叶いません。
 自治体は儲ける。たくさん黒字が出たら将来の赤字に備えて貯蓄してもいいし、遅れている社会資本を整備してもいい(そしてまたその地域の価値が上がると考えることもできる)。地方税の税率を下げて市民に還元してもいいし、賛同が得られたら職員の給料に反映してもいいでしょう。
 黒字は悪いことではないのです。

初出: 2011年9月21日
更新: 2011年9月21日
著作: 鈴響雪冬
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