Top > 読み物 > 副産物 - コラム > おでかけライブin前橋・高崎におけるサークル参加状況に関する研究
今から100年ほど前、1910年に文芸同人誌「白樺」が発行された。それ以前からも小さな活動は行われていたが、この「白樺」が「同人」という言葉を明確に定義したと考えられる。そのため、歴史的にも社会的にも「同人」とは文芸の世界でよく使われる言葉である。
その一方、アニメ、特撮、フィギュア、模型、マンガ、SFといった現代的に「サブカルチャー」としてまとめられる独特の文化も、学校の中や友人同士といったなかで制作者(もちろんプロも)やファン、ファン活動などが育っていた。戦後、これらの文化はテレビの普及と同時に全国に広がりを見せ始める。ゴジラ(1954年)、月刊リボン創刊(1955年)、マガジン・サンデー創刊(1959年)、鉄腕アトム(1963年)、ウルトラマン(1966年)こういった歴史を振り返るまでもなく、サブカルチャーは着々と日本に根付いていく。これらを元にした同人誌が生まれ、肉筆回覧誌というかたちでやりとりをされるような文化が脈々と受け継がれてきました。
そして、1975年、第一回目のコミックマーケットが開催されるにいたる。その後、コミックマーケットに類似する同人誌即売会が全国各地で開催されるようになる。それは、Cレヴォリューション、COMIC1、コミティア、おでかけライブ(コミックライブ)などに代表されるものであり、今日において日曜日・祝日のほとんどは全国のどこかで同人誌即売会が行われているとされている。
このようにして活気あるかのように思われる「同人活動」は、2000年代に入ってから特に地方において衰退化していると言われている。一般的にその衰退とは、
といった項目で表現される。これらの項目は多くのイベントにおいて同時に発生するものであり、密接に関わっていると考えられている。たとえば、グッズを売るサークルが増えると、本を目当てに来る人が減り、本を売っているサークルがこのイベントでは売れないと見切りをつけて東京にだけ本を売りに行くようになるといった悪循環である。
参加サークル数の減少は、イベント開催回数の減少、募集サークル数の減少につながり、日本全国でイベントを開催しているスタジオYOUにおいても、開催地の減少や開催間隔、募集サークル数の減少が如実に表れている。大手イベンターの撤退した地方では個人が主催する同人誌即売会が同人活動を受け止める場として機能しているが、運営者層の低年齢化(東京への一極集中)や、会場との折衝との問題もあり、規模の縮小化が目立っている。
こういった状況の中、「参加サークル数が減った」といった発言をするのは多くの場合一般参加者やサークル参加者側であり、そのほとんどが「個人の感想」にとどまっている。すなわち、定量的な観測を行った結果を伴った「明らかな減少傾向」という発言がなされることは少なく、そのほとんどが懐古という言葉に集約されてしまう。
そこで本研究は、地方で開催されている同人誌即売会に着目し、一般的に減少していると言われる「参加サークル数」を「実参加サークル数」という形でデータを取得し、過去数年の同人誌即売会の動向を探る。そのうえで、一般的に言われている「衰退」が、現実に発生しているかを探り、今後の同人誌即売会運営の基礎的資料、サークル参加者・一般参加者に対する同人誌即売会への見解と現実の差異を是正することを目的とする。
本研究では以下の手順に従って研究を行う。
本研究における用語を、以下のように独自に定義する
本研究における調査対象地を群馬県前橋市・高崎市と定め、両市で開催される「おでかけライブ」を調査対象とする。
両市におけるおでかけライブは、隣接市町村での開催であり、高崎・前橋・高崎・前橋といったように交互に開催されることから、得られるデータの密度が高いと推測される。
また、一般的に言われる大規模イベントへの一極集中という方面において、東京から100キロ圏内にあり都心で開催される大規模即売会へ人材への流出が激しいことが予想されるため、この傾向が顕著に表れると考えられる。
これらのことから、本調査では前述したイベントを調査対象とする。
2002年9月22日以降に開催された、おでかけライブin高崎、おでかけライブin前橋、合計83回。
イベント名 | 開催回数 | サークル数を入手できたイベントの数 (実データー数) |
---|---|---|
おでかけライブin高崎(70~112) | 42回 | 15回 |
おでかけライブin前橋(45~86) | 41回 | 25回 |
合計 | 83回 | 40回 |
同人誌即売会において発行される「パンフレット」を入手し、そこから参加サークル数、イベント開催日などを調べる。
開催日などはパンフレット、インターネットで公開されているイベントレポートなどを元に調査し、曜日・開催間隔日数などはエクセルの関数を用いて計算した。表2-3-1にその一部を例として提示する。
年 | 開催日 | 曜日 | 募集数 | 開催回 | 開催間隔 | サークル数 | SP満了率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2007 | 01月21日 | (日) | 250 | 78 | 28 | 127 | 51% |
03月25日 | (日) | 250 | 79 | 63 | 189 | 76% | |
07月29日 | (日) | 250 | 80 | 126 | 188 | 75% | |
09月30日 | (日) | 250 | 81 | 63 | 150 | 60% | |
12月23日 | (日) | 250 | 82 | 84 | 178 | 71% | |
2008 | 03月30日 | (日) | 250 | 83 | 98 | 187 | 75% |
07月27日 | (日) | 250 | 84 | 119 | 149 | 60% | |
09月23日 | (火) | 250 | 85 | 58 | 128 | 51% | |
12月23日 | (火) | 250 | 86 | 91 |
たとえば、本論なら必要かもしれないですけど、あくまで調査のまとめとしての論文なので、実データの紹介は省略します。スクロール長くなっちゃうし。
開催間隔日数 | サークル数 | SP満了率 | |
---|---|---|---|
平均 | 55.71 | 159.36 | 57% |
標準偏差 | 28.05 | 32.14 | 12.27 |
図4-1はおでかけライブin前橋におけるイベント開催回ごとの参加サークル数と、募集スペース数に対する参加サークル数の割合(SP満了率)である。SP満了率には正への誤差10%を加味している。これはサークル数=使用SP数ではないためであり、サークル数<使用SP数の関係にあることからである。また表4-1に各データの平均値・標準偏差を求めた結果を示す。
これらの図・表から、おでかけライブin前橋においては、ほぼ毎回、参加サークル数は160サークル、SP満了率は57%前後で推移していることがわかり、参加サークル数の減少傾向を見いだすことはできない。
図4-2はSP満了率の出現頻度をグラフ化したものである。SP満了率の平均は57%だが、中央値もほぼ同じで、57%を中心としてほぼ左右対称であることがわかる。
図4-3は開催回毎との、前のイベントからの開催間隔日数を求めた分散図である。第70回から74回まではほぼ一月に一度の開催だが、76回以降は二ヶ月から三ヶ月間隔で開催されることが多くなっている。
近似直線は若干右肩上がりで開催間隔が延びていることを示しているが、相関係数は0.2254で、相関があるとは言い難い。それでも、75回以降は70回から74回までのそれと比べ開催間隔が開くことが多いと読み取れる。
しかし、おでかけライブin前橋は会場の都合により開催間隔が開くことがあるため、これがイベンターによるものか、会場の都合によるものかは明確にできない。
4-1ではサークル数に増減の傾向を見いだすのは難しいと結論づけている。その一方で、4-3では開催間隔が少しではあるがまばらになっていることを見いだしている。そこで、参加サークル数とイベント開催間隔の関係を求めることにした。
図4-4は開催間隔日数とSP満了率で作成した分散図である。近似曲線の傾きは緩く、また相関係数も若干低いが、開催間隔が開くとスペースが埋まりやすいという傾向が見いだせる。しかし、開催間隔が開けば開くほど、確実にサークル数が増えると結論づけるのは難しい。
図4-5は参加サークル数と開催間隔日数で作成した分散図である。SP満了率との同様の分散図よりさらに傾きが緩くなり、ほぼ横ばいと言える。相関係数も0.15ポイント以上減少し、0.13となった。
これらの結果は、開催間隔日数が開いても、参加するサークル数に大きな変化がないことを示している(本当に僅かに増加する程度)。
このことから、イベントそのものの集客力が落ちている、参加するサークルが固定化しているといったことが考えられる。
開催間隔日数 | サークル数 | SP満了率 | |
---|---|---|---|
平均 | 46.61 | 83.79 | 68% |
標準偏差 | 18.81 | 14.92 | 15.68 |
図4-6はおでかけライブin高崎における、参加サークル数とスペース満了率である。また表4-2はおでかけライブin高崎における開催間隔日数などの平均値と標準偏差である。
これらの図・表から、高崎も前橋と同じく、参加サークル数・SP満了率ともにほぼ横ばいで、参加サークル数の減少傾向を見いだすことはできない。
また、高崎の方が前橋よりSP満了率が1割程度高いことから、募集規模と開催規模がより釣り合っていると言える。
図4-7は高崎におけるSP満了率の出現頻度をグラフ化したものである。前橋のようにある一点を中心にした分布ではなく、61~90%の間に集中し、高水準を保っている。このことから高崎は前橋に比べて、サークル数が満員御礼になる確率が高いと言える。
図4-8は開催回毎との、前のイベントからの開催間隔日数を求めた分散図である。近似直線は明らかな右肩上がりであり、相関係数も0.53と相関性が見いだせる数値を示している。
このことから、おでかけライブin高崎の開催間隔は昔に比べて明らかに広がっているといえる。
図4-9はSP満了率と開催間隔の分散図である。近似直線は明らかな右肩上がりであり、相関係数も0.51を示し、両者に相関性があるといえる。このことから開催間隔が開けば開くほどSP満了率が高くなる傾向があることがわかる。
図4-10は参加サークル数と開催間隔日数の分散図である。近似曲線や相関係数を見る限り両者に相関性があるとは言い難いが、点の分布を見る限りでは、やはり開催間隔が開くほど参加サークル数が増える傾向があることがわかる。
これらの結果は、前橋と違い高崎では、開催間隔日数が開けば開くほど、参加するサークル数・SP満了率ともに上昇することが示している。
高崎においてこのような現象が発生する理由を推察した。
高崎は前橋とは違い新幹線の駅が存在し、交通の便がよい。そのほかにも、多くの電車は高崎が終電であること、また、会場そのものも駅からのバス移動を強いられる前橋と違い、歩いていける距離にあることからも、交通の便がよいといえる。特に高崎は埼玉からの集客が見込める地域であり、年に数度の東京のイベントに参加する合間に、高崎のイベントに参加するといった流れを見いだすことができる。
前橋・高崎におけるSP満了率を積み重ねグラフで表現した。
このグラフからも明らかなとおり、前橋のSP満了率は低く、高崎のSP満了率が高いことがわかる。ただし、募集数において、高崎は前橋の半分の規模であり、スペースが埋まりやすいという現状を考慮しなければならない。
その上で言えることは、同じイベントを開催する上で、高崎のほうが前橋より収益を上げられる可能性が高いという点である。仮に、スタジオYOUが使う会場と同じ会場・同じ募集数のイベントを開催し、参加サークル数が募集数の8割を超えた段階で黒字になるように調整した場合、高崎の方が前橋より黒字になる率が高いことを意味する。
前橋・高崎を合わせて、SP満了率と開催間隔日数で相関を求めた結果、相関係数が0.41となり、相関があると言える結果になった。
前橋のみ、高崎のみといった集計方法では、SP満了率と開催間隔日数の間に明確な相関性は出現しなかったが、前橋と高崎を組み合わせた場合において相関係数が高くなったことから、サークル参加者は、前橋だから・高崎だからといった考えもある程度はあるが、多くの場合、「前回のイベント」というようにとらえている可能性がある。極端な例を挙げれば、先々週高崎のイベントに参加したから、前橋は半年ぶりだけど参加しなくてもいいかな、といった思考が出現する可能性があるといえる。
これは、前橋と高崎はそれほど距離が離れておらず、また交通の便が良いためと考えられる。
調査対象である全83の前橋・高崎のイベントを、開催日を横軸に、開催間隔日数を縦軸にとって分散図を作成した。相関係数は0.18と、明確に相関があるとは言い難いが、やはり右肩上がりに開催間隔が開いていることがわかる。
たとえば、前橋は2002年から2008年の間に、1年に1回のペースでイベント開催数が減少している。このことからも、開催間隔が開いていることは明らかである。
本研究によって次のことが明らかになった。
本調査を実際のイベント運用に展開する場合、次のような方策が考えられる。
本文にはあまり関係ありませんが、近い話題というところで、10月に取り扱った「高崎地域医療センター」の行く末について、日記の文章をそのまま引用しておきます。
小耳に挟んだ噂では、近い将来この高崎地域医療センターを取り壊す予定があるようです。
ということで、噂を確認するという意味も含め、高崎市の市役所で公開されている都市計画関係の文章を斜め読み(このあたりの作業は専門と言うこともあって得意なのですよ)したところ、どうやら、本当のようです。
簡単にまとめてみました。以下、「高崎市医療保健センター(仮称)・新図書館建設事業について」を参考
ちなみに、高崎地域医療センターは群馬県高崎市高松町6番です。Google MAPで確認したところ、隣近所とまでは行かないものの、割と近いところにあります(地図は5番地。厳密には5-28なので、同地区の道路よりの土地と推察されます)ね。
この全体構想では、場所を移して図書館と、地域医療センターの機能を取り込んだ複合施設を建てるとしています。ふつう、新しい建物を造ったら、同じ機能を持つもう一方の建物は取り壊しますから、高崎地域医療センター取り壊しの話は、かなり信憑性が高そうですね。
なお、資料によると、平成23年4月から使用開始とありますから、あと2年強で取り壊しになるでしょう。