Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 掌編・短編小説 -テーマ小説- > 文字書きさんに100のお題 -100-
絵を見せたら、やっぱりお母さんは怒り出した。そうだよね…怒りたくなるぐらい下手なんだよね、あやの絵。だから、いっぱい練習するよ。
あやはね…お母さんがいるからお母さんの絵を描くんだよ。お母さんが笑う顔が見たくて描くんだよ。
目が覚めた時は淡いクリーム色の部屋だった。気が付いたらそこは病室だった。いっそのこと、死んだ方がましだったかも知れない。でも、一つの曲が頭から離れない。
私はね…貴方の曲を糧にして、これからの人生という階段を歩いていけそうだよ。
日本から一緒に来た奴と馬鹿騒ぎしながら、現地の人と手を取り合って、着々と作業は進んでいった。ちっぽけな人間達が同じ人間どうして殺し合う為に戦っている間に、俺たちは沙漠を相手に戦っている。
なぜこんな事を続けているのかって?
それは…地平線の向こうで俺達の活動を見守り、希望を抱いている人がいるからなんだ。
パロディーマルボロのタバコを同僚に渡し、そいつの喜んでいる顔を見ると嬉しかった。単純な奴、と思ったが、その後に、一緒になって笑った。
そう、一番大切な事は…相手がいるから嘘をつくことができて、その嘘で一緒に笑いあえることなんだ。
釣り上げられて掌に乗せられて、じっくりと見つめられる。そんなに見つめたら…。ほら、もう、熱くなってきちゃった。貴方のことで頭の中がいっぱい。その眼差しが忘れられないの。
お願いだから…貴方の腕で私をさらって欲しい。貴方にだったら、釣られてもいい。
写真をカップルに渡し、笑顔の向こうに見える未来を想像する。あのカップルはもらった写真をどうするのだろうか。何時の日か、破いて捨ててしまうことがくるのだろうか。写真立てに飾られることがくるのだろうか。それは僕にはわからない。
一つ気になる事があるんだ。
それは…君達を写真に収める時、愛し合う二人の気持ちが純粋にわかるんだ。嫉妬が渦巻くはずなのに。
張り詰められた弦は何時の日か伸びきってしまうか切れてしまう。二人の関係もそうだったのかな。そうじゃないと、離婚届を叩きつけるわけ…ないよね…。私たちの関係って…その程度のものだったの?
私はね…貴方と一緒だからここまでこれたの。貴方のためなら変われるの。だからね? やり直してみましょうよ。
何時も人に転がされて…手玉に取られて…。そんなおまえがかわいそうになる。朝から晩まで…開店から閉店まで…おまえは人のいいなりになって…時には釘のいいなりになって…。
でもな…お前がいるから俺は楽しく一日を過ごせるんだ。
雷ってやっぱり怖い。いきなり大きな音と光を出すんだよ? もしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ? だから雷は怖いの。
でも、今の私には貴方がいるんだよ。
だから雷が鳴っても…貴方のぬくもりさえあれば何も怖くはないんだ。たとえ苦手な雷でもね。
貴方のせいで眠れない。貴方のことを思うだけで眠れない。貴方には恋人がいる…そのことを考えるとまた眠れなくなる。でも眠らないとお肌に悪い。貴方に顔向けできない。
だから私は…この気持ちを抑えるために薬を飲むの。貴方には彼女がいるって言い聞かせて。
まだ見ぬ貴方を捜して私は旅をする。何時の日か必ず見つかる、私を包んでくれる人、私を優しく抱きしめてくれる人。
だから私はさまよい続ける。私を…暖かく包み込んでくれる人を探すために。
彼は既に羽を広げている。そう、他人の築いた道を歩まずに自分の道を造る、それが彼の生き方だった。そんな彼がうらやましかった。だから僕も後を追った。でも…彼の飛んだ軌跡を描こうとは思わない。僕は右に旋回した。
なぁ…お前がいたおかげで俺は新しい道を見つけられそうだ。自分が本当に歩みたい道を。
テレビの向こうにいる人が、自分に身近な人よりも僕のことを理解してくれていた。そう考えると、僕は彼女とうまくやっていけるのだろうかと不安になった。物でしか愛情の形を表現できない僕たちの間柄はこれからもうまく続いていくのだろうか。
社長…貴方のおかげで愛を物で表現することが愚行と言うことに気がついたよ。これから新しい表現を見つけて行きたいな。
愛しきウィルスミスが画面の中で悪党を相手に戦っている。そんな彼を応援して、一緒になって私も楽しんで、明日を生きる活力を手に入れるの。
手に入れた活力で何時か私の隣に座って一緒に映画を見てくれる人を見つけ出すの。
それまでは…私のことを見守っていてね。貴方が見守ってくれたのなら私はきっと見つけられるから。
愛なんてよくわからない。感情なのか運命なのか偶然なのか。何時の世界でも永遠のテーマで、何時までも答えを導き出せない愛。むしろ、それが愛なんだろう。
難しい事なんて考えるのをやめてしまえ。
僕には…君がいれば十分だ。感情とかニューロンとか心とかそんなことは関係ないから。ただ、君のことが愛しいだけだから。
エコーの向こう側に映る姿はシャム双生児。また私は選択を迫られるのだろう。そして、選択を親に求めるのだろう。人間には選択権なんて無いのに。
でも…やっぱり君たちの限りある命を選択する事なんて私にはできない。私は人間だから。
乙女心を数学で計算できないと知った彼は色々と頑張っているみたい。何時か「数学が全てじゃないでしょ?」って聞いたら「お前が全てだ」なんて上手く言い返されて、逆にうつむいてしまった私が居た。それほど彼は私のことを見ていてくれる。
でもね…いい加減、数字で考えようとするその癖、どうにかならない? でも、私だから貴方について行けるよ。
吹きすさむ風の中、僕はハーモニカに息を吹き入れた。空気がふるえ、音が飛び散る。その音を君が聞いた時、きっと君は僕を振り返ってくれるだろう。
だから…君の為に僕は吹き続ける。この銀色のハーモニカを。
今日も一番しか存在しない恋を求めてさまよい続ける。でも、まだ、1番が決まらない。普通の恋はもう10を超えたかも知れないのに、運命の恋は未だに0番。
何時の日かこの数字が進む時が来る。
きっと…運命の恋の一番はまだ見ぬ貴方。だからこそ、私は貴方を捜し続けます。
春は気分を明るくしてくれる。だんだんと暗くなっていく合わせ鏡と違って、だんだんと明るくなっていく。だから私は春が好き。去年と変わらないのは制服だけ。私の心は新しい気持ちだし、ちょっと髪型も変えてみた。それはきっと、合わせ鏡からの脱出。
今年こそは…彼氏のいないスパイラルを抜け出して、新しい道を歩き出したいな。
本物の赤い糸は切れないけど、偽物の赤い糸は簡単に切る事が出来る。貴方との関係は、本物なの? それとも、嘘なの? 振り向いてくれない貴方のことなんて忘れてしまって、極太の赤い糸を探してさまよった方がいいのかな?
何時まで考えても見つからない答えのはずだった。
だけど、私は見つけちゃった。
絶対に切れる事のない物質で作られた赤い糸で繋がれた…貴方を。
いっそのこと、このMDを処分しようと思った事があった。でも、そのたびに思いとどまった。これは彼女が俺に残してくれたメッセージだと思ったからだ。
人は何時か死ぬ。そして、現世にメッセージを残す。MDには彼女の思いが込められている。
だからこそ…死ぬまで共にしていこうと思う。貴方のメッセージと共に。
目を開けると、手にはパステルエナメル色の絵の具を持っていた。これは絵の具達が俺に使ってくれと望んだ色なんだ。
ここは俺たちしかいない世界、誰にも邪魔されない世界。
今なら…君達とだけで語り合う事が出来る。ねぇ、次は何の絵を描く? ………そう、なら、それにしよう。僕は君を信じるよ。
玄関を開けて入ってきた彼は、いつものように私を怒鳴り散らし自分の部屋へと入っていった。私は彼に相手にされていないのかも知れない。でも、別れを告げることなんて出来なかった。
貼り合わせたガムテープのように、私達は離れられない。なら、いっそのこと…彼の事だけを想って生きてみよう。私達は離れられないのだから。お互い深く愛し合っているのだから。
今日もいつものお店であめ玉を物色。カンロの飴もいいし、UHA味覚糖の飴も捨てがたい。正道を進んで、サクマ式ドロップスというのもいい。でもやっぱり今日は、黒砂糖飴の気分。黒い袋を手にとって、かごに入れると気分は軽やか。
あめ玉がパートナーというのもおかしいと思われるかもしれないけど、私には君が必要。
だからね…これからもよろしくね、私のパートナー♪
「世界中で君の事が一番好き。」
なんて言うちっぽけな言葉だろう。身の程を知れ人間ども、と、自分自身に言いたくなってしまう。でも、これが一番素直な言葉。
手を繋いで歩き出せば、君と二人の明るい未来が待っている。
だからもう一度言うよ… I love you most in the world.
コマーシャルが突如として終わり、電光掲示板には僕から君へのメッセージが表示された。その意味が分かった瞬間、君は泣き出して、道行く人の注目の的になってしまった。見知らぬ人から拍手が起こり、それにつられるように拍手をくれる人生の中のエキストラ。
その拍手を聞いて、君はやっぱり泣き出した。
ポケットから小箱を広げ、それを君にかざし…電光掲示板に表示された文字と同じ言葉をつぶやいた。
菜の花をバックに君の横顔にピントを合わせる。君は菜の花を見ている。そして俺は君の横顔を見ている。君は菜の花を見ているのかな? それとも、菜の花の奥に見える何か別のものを見ているのかな?
「私ばっかり見ないでよ。はずかしいなぁ~」と言った君の顔をやっぱり俺は見てしまう。
あぁ…これが君に惚れているってことなのかな。
想いを文字に託し、私はただただ書き続ける。永遠に終わらないかも知れないし、すぐにあきらめてしまうかも知れない。だけど…今はまだ好きだから…だから貴方のことを思って手紙を書き続けます。
いま、私には貴方の事しか見えません。ねぇ…きちんと責任を取ってよ。私は貴方の事しかみられなくなったんだから。
ゆらゆらと揺れる満員電車に、ゆらゆらと漂う香水の匂い。付けている本人の鼻を心配したくなるほどの匂い。似合わないという事を分かっていない、他の人に迷惑だという事を分かっていない。そんな見た目だけを着飾る女にはうんざりした。何時までも進化しない女にうんざりした。
だから僕は…僕はパソコンを閉じて、席を立った。貴方の香水には付き合っていられません。
何となく頭に来る店員の声に見送られ、俺は店を出た。交流がない世界、か。果たしてそれはどういう世界なんだろうか。そう、丁度、自動販売機に囲まれた世界だ。近所づきあいもないし、授業はパソコンを利用した遠隔授業。
そんな世界になったらどんなに交流が嫌いな人間でも頭が痛くなるだろう。
なぜならば…人は一人では生きていられないから。人は誰かと一緒じゃないと生きていけないから。
叫んでも、誰も助けてはくれなかった。私の人生、私の迷宮…。この迷宮から出る為の鍵は、私の中にある。でも、その鍵が見つからない。
だれか…一緒に探してとは言わない。でも、一緒になって考えてくれる人に私は巡り会いたい。
結局、いつまで経っても、人間は“生きる”事が出来ない。だから、大空を力強く“生きる”鳥にあこがれる。自分の姿を撮りに重ね合わせる。かつて人が飛行機を開発したように、人は空と鳥にあこがれる。青さ、尊さ、力強さ。全てが人間にかけているからだ。
そして…僕も鳥にあこがれる。でも、あこがれるだけじゃなくて、一緒に羽ばたいていこうと思う。君たちと。
二人で手を取り合って歩き出した。彼の笑った顔は不思議と温かかった。そう。ちょうど、私の手を握ってくれている手のように。心が冷たい人ほど手が温かだ、なんて言うけど、私は嘘だと思う。それは、彼が証明してくれる。
聖夜の夜の下…二人で手を繋いで、クリスマスに見守られながら、二人だけの時間を過ごそうよ。
僕は君に追いつけたんだろうか。何時も後ろ姿しか見る事が出来ない君の前に立つ事が出来たんだろうか。それとも、まだ、後ろから君を見ているだけなんだろうか。何時だって僕は君を後ろからしか見る事が出来なかった。
でも…今なら、君の前に立って、後ろを振り返って、君の笑顔を見る事が出来る。
俺の隣に座って笑いながら「お兄ちゃんの宿題は流石に無理だよ」と言う弟。こいつは確かに俺より出来がいい。親も弟に期待している。だから俺は弟に期待していなかった。もし俺が弟に期待したら、弟同じ高さにいる人が居なくなるからだ。
おまえは…プレッシャーに弱い奴だ。だから俺の隣にいる時ぐらいリラックスしろよ。
スカートの裾は彼女のテリトリーを示すエッジだった。たとえ彼女が回っても、重しが仕込んであるかのように、喜望峰を望む事は出来なかった。でも、何時か、その先をかいま見る時が来るだろう。
だから今は…今の君を見つめていようと思う。
多くの人の運命が交錯し、多くの人の交流が交錯しない空間、地下鉄。そんな相反する空間にいて君は唯一の赤色だった。生活にリズムを刻み、僕に夢を与えてくれた。君は僕を知らない、僕は君を知らない。運命すらも言葉すらも交わる事はないだろう。
でも…そこにいるだけで十分だった。たとえそれが叶わぬ片思いだとしても。
オムライスを食べて元気に笑う子供の笑顔が好きだった。もし自分に子供が出来たら、オムライスを食べさせて、その笑顔を見て僕も笑うに違いない。まさに絵に描いた子煩悩な親になるだろう。
でも、まだ、僕に子供は居ないから…今は見知らぬ子供の笑顔を見て、自分の未来の子供をその奥に見る事にするよ。
一瞬でも二人の時が重なったのなら、それは“貴方”として構築されるだろう。私の人生の片隅に座り込み、私を確定する一つの要素になる。たとえ記憶が風化し、ちっぽけな存在になったとしても、必ず何処かで私と貴方は繋がっている。
まだそっちに私は行く事ができないけど…また一緒になりましょうね。
店員が箸を手に取り袋に詰める。これが唯一異性に僕が影響を与える瞬間。「一膳で」それがただ一つの会話だとしても、それによって何かが起こる。
それなら…別の言葉を発したら別の何かが起こるのだろうか…。
募る思いはやがて妄想へとたどり着き、そしてそれが夢となる。でも、夢だけで終わらせてしまっていいのか。本当に俺はそれで満足するのだろうか。
それが嫌だから…俺は、一つの行動をたどることになった。
遠い向こうを歩いている君は、僕が転んだとしてももう振り向いてくれない。ただ一人、どこか僕の知らないところを向いて歩き始めている。僕は、どうやっても追いつけない。隣に並んで声をかけることも出来ない。
ゆっくりと…僕は歩みを止めた。新しい恋を探すんでしょ? 君が笑っているのならそれでいいや。
去年とはうってかわった出来の力作チョコを鞄に詰めると、いつもより鞄が重く感じた。当たり前だよね。チョコには、私の想いが詰まっているんだもの。甘酸っぱい恋で甘酸っぱくなるチョコ。想いで重くなるチョコ。そんなチョコをあなたに差し上げます。
大丈夫…去年みたいに解毒剤が必要なチョコを作るような私じゃないから♪
とりあえず、コピー機の前に貼り紙を貼ってみた。でも、効果はない。結局、人間は追いつめられないと作業を始めないのだ。そんな人達を見るたびに、自分を戒めようとする。
でも…やっぱり追いつめられないと作業を始めない自分がいた。
“衛”。それが俺の名前だ。かつての中国では名前を呼ぶ事はまず無く、呼び名のような物を作る。それほどまで名前の意味が大きい。日本でも、異性が名で呼ぶと、二人の間の関係がかいま見えるほど、名には意味がある。
だからこそ…俺は、自分の事を名で呼んでくれる妻を守ろうと思う。
突き刺されたナイフは抜かない方がいい。抜くとそこから出血するからだ。でも、私はナイフを抜き去った。抜き去ってすがった。まだ…別れたくない…貴方と一緒にいたい………。
ナイフという名の言葉はいとも簡単に人を傷つける。でも、私には耐えられる。
それは…貴方が好きだから。
そっと包み込むようになでてくれる貴方。柔らかい手つき、優しい指先、しおらしい態度。そんな姿を私にだけ見せてくれる貴方が好き。私の事を大切に扱ってくれる貴方が大好き。
私は傷つきやすい熱帯魚。そして貴方は…私とともに泳ぐ人。
結局一人じゃあ何もできない、あいつはそう言った。この世に生を受けた時点で二人の人と関わっているんだ。だれも、一人では生きていけない。
だから…こうして友達がいる。語り合える友人がいる。
茉理を撫でながら見上げた空はいつもより透き通って見えた。きっとこの子の心がそうであるように、私がこの子に影響されて周りの見方が変わっているように、空は何時も透き通っていた。ただ、それを見る目が曇っていただけ。
自分がむしり取ったブドウの葉の傷口をいたわるように撫でる茉理は、どこか可愛くて、どこか大人っぽかった。
きっと…こうして人は命の大切さを覚えていく。自然と共にあることで。
電磁波によって傷つけられる人間がいた。
電波だけの交流に疑問を持つ人間がいた。
手の届かないところに住む彼女と連絡を取る人間がいた。
それぞれがそれぞれの使い方をしていた。彼らは電話の向こう側に何を見ているのだろうか。
そして…電話の向こう側に誰がいるのだろうか…。
こうして腕を広げて待っていても、貴方は恥ずかしがって飛び込んでこない。そんな貴方が私は可愛くて好きだったりする。いつまで経っても本当の自分を見せてくれようとしないし、いつまで経っても遠慮をしている。それが貴方の優しさかも知れないけど。
でも…私はべたべたしている方が好きだな。
いっそのこと、幸せな時間だけを繋ぎ合わせてその中だけで過ごしたいと思ったことがある。でも、気がついた。幸せじゃない時があるから、幸せがある。きっと幸せだけなら、幸せなんて感じないだろう。だから、今の時間が好きだった。彼女をホームで見送って、一人になった瞬間が好きだった。
だって…彼女がいると言うことを実感できるから。
人間は生き物の中でも弱い状態で生まれてくる。歩くこともできないし、首も据わっていない。数多くも生むことができないし、有袋類のように袋の中にも入らない。人間は弱い生き物だ。
だけど…強くなれる可能性を持った生き物なんだ。
沙漠に水がしみこむように、心に貴方が入ってくる。何時までも欲していて、無限に欲していて。何処までも強欲な私は貴方を手放したくない。
それは…私が貴方無しでは生きられない証拠。
握りしめた優さんの手からほのかに温もりが伝わってきて、私の頬までも紅潮させる。でも、この感覚は嫌いではなかった。今まで人と付き合ったことがない私。文字通り、一人で生きてきた私。ただ持っていたのは、永遠に引き継がれる記憶だけ。
でも…優さんは私に思い出を与えてくれた。新しい記憶をくれた。
光の精が朋美の瞳の中に無数の光彩を落とし込む。それは"Angelus Zimmer"のように何度も何度も明滅を繰り返し、万華鏡の様相を見せていた。
空を照らす花火。そして、朋美の横顔を彩る輝き。
心を明るくする笑顔。そして、生活を彩る存在。
朋美…やっぱり、俺、おまえのことが好きだ。
いつまで経っても独り立ちできない僕。いつまで経っても君から離れられない僕。君の手の柔らかさが、僕の心を落ち着かせてくれる。君の手の存在が、僕の心の隙間を埋めてくれる。
だからね…これからも一緒にいてくれるかな? 僕には君が必要なんだ。
自分より遥かに大きな存在である自然を目の当たりにして、俺は声も出なかった。どんな形容詞でも感動詞でも例えきれない、絶対的な存在が、圧倒的な存在が、目の前にはあった。
どうして、こんなにも人間はちっぽけなんだろう。どうして、こんな人間が世界中にはびこっているのだろう。
どうして…。
貴方はただ私の目の前から立ち去るだけじゃない。きちんと付いてこられるように道しるべを残してくれる。だから、置いて行かれても不安になることはない。そして、安心して付いていくことができる。
でも…何時までも背中を追い続けるだけじゃなくて、今度は隣を歩けるようになれば、いいな。
貴方はただ私の目の前から立ち去るだけじゃない。きちんと付いてこれるように道しるべを残してくれる。だから、置いて行かれても不安になることはない。そして、安心して貴方の元に辿り着くことができる。
ねぇ…貴方が願いを叶えたら、今度は、二人で共通の夢、叶えようよ?
膝の上で呑気にあくびをする猫は、その柔らかさや温かさまでもが瑛美に似ていた。もそもそと動いて寝返りを打つ様は、何時かソファーに並んで座っていたとき、瑛美が体を預けてきた光景に似ているし、所々のんびりしているのも、彼女の仕草に似ていた。
もしかしておまえ…瑛美が死んだとき、俺が自殺しないように思いとどまらせるために生きているのか? おまえを置いて行けるわけ無いもんな。
今まで一人も友達がいなかった私にとって、紗はとてもうれしい存在です。毎日の生活に変化を与えてくれる紗は、手放したくない存在です。
紗と話しているときは純粋に楽しいですし、紗と話しているときは自然と笑顔がこぼれてくるのです。初めは少し近寄りがたい人かな、と思ったのですけど、それも間違いだったようで、とてもいい人でした。
そう…一言で言えば、私に笑顔をくれる存在なのです。
洗濯物を手に持って、物干し竿に垂れかけていくご主人様。その動作は私のそれよりも力強く、頼もしいです。並んだときに香る石けんの香りを含めたご主人様独特の匂いは、有るべくして存在しているような気がします。
もしかして私…。
たった一羽の鳥、雀。その小さな体に冬は応えるだろう? でも、そんな雀に、ガラス一枚隔てて僕は見守られている。ベッドの上に眠っている僕を見ている。たった、それだけの事なのに、とても元気になれた。目を合わせるだけで不思議と落ち着いた。
おまえのおかげだよ…冬の雀。
自信満々に書いた一つの答えは、無限の可能性を秘めていた。子供達の非行が、と叫ばれる今日、あれはただの誇大報道に過ぎない。なぜなら、多くの学校は平和だからだ。そしてこのクラスも平和そのものだった。
ねぇ、君達。君達から学ぶことが多すぎるよ、本当に。そして…そのことが幸せだよ。
顔すら分からない落とし物の持ち主。そして、持ち主に置き去りにされた物。仕事に使う物だったり、子供だったり、諦めた夢だったり。なぜ、そんなに簡単に夢を捨てることができるのだろうか。忘れ去られた夢はこれからどうやって生きていけばいいのだろうか。そう考えると、やるせなくなってくる。
捨てられた夢。おまえのおかげで、俺は…自分の夢を捨てることなく生きていけるよ。捨てられたおまえ達は本当に可哀想だからな。
人生の残りを君と一緒に過ごす。限られた時間を君と一緒に過ごす。二人の重なった、二人の共に歩く、二人の共通の時間。その時間を大切にしていきたいと思う。
ほんの一瞬になってしまうかも知れないけど…幸せなことは、君と一緒にいられたことだと言い切れる。
大きな一歩を踏み出した。その一歩は、確実に僕達の関係を変化させる。それは、残りの人生を変えるほどの大きな変化だ。
変化をするためには勇気がいる。でも…君のためなら僕は勇気を振り絞ることができたんだ。
心をときめかせる事が魔法なら、君は魔法使いだ。そう言おうとして俺は口をつぐんだ。友夏里は教えてよと駄々をこねている。
簡単に教えられるかよ。魔法使いにこんな事を教えたりしたら…それこそ、本当に虜にされてしまうからな。
私は貴方の事が好きなの。でも、今は未だ貴方の側にいるだけでいいの。私は貴方の敵じゃないの。引き寄せるだけ引き寄せて、奈落の底に突き落とすなんてやめてね。
今はただ…側にいたいだけ。
このどっぷりと浸かった気持ち、君に分かって貰えるかな? 俺はこんなにもおまえの事が好きなんだ。だから、こんなにどっぷりと浸かっている。
でも、そろそろ限界だ。これ以上浸かっていると溺れてしまう。このまま死んでしまってもいい。でも、君の側にいられるなら、側に居たい。
だから…俺の事を引き上げてくれ。俺を君の側に置いてくれ。
名残惜しそうに登るたばこの煙。やがてそれは見えなくなった。おじいちゃん…天国に匂い、届いたかい? 匂いだけでも楽しんでくれよ。
一本のたばこ。これが一つの楽しみだった。
一本のたばこ。これが都会でゆっくりを息を吸う為の手段だった。
一本のたばこ…これが俺とおじいちゃんの思い出を繋ぐ鍵だった。
君のはなった言葉は脳内を侵す麻薬のように俺の心を浸食していた。やがてその浸食は随まで進み、心を満たしていた。
好きじゃなかったら、こんなに動揺するはず無い。すぐに断ればいい。でも、好きだからこそ驚いた。
だから…この気持ちと君の気持ち、大切にしたいと思う。
好きなのに傷つけ合って、泣き合って、やがて別れる。その別れはきっと新しい恋の始まり。過去の思い出なんていっそのこと捨ててしまって、新しい恋を探した方がいいのかもしれない。
だから私も貴方もハッピーエンド。お互い、幸せな恋をしましょう?
これが…私から、かつて好きだった貴方に送る最後の言葉。
影は踏めないかも知れない。だけども、結ぶことはできた。繋げることはできた。それはまるで、二人の人生を結ぶように、二人の歩んできた道を結ぶように。
今、夕焼けが私達を祝福している。見守っている。
町はセピア色になっていた。でも、私の中の昔の貴方の姿は…セピア色ではない、確かな思い出だった。
握った手は妻のようには大きくなかったけど、妻のような温かさと柔らかさを持っていた。その感触に思わず泣き出しそうになったが、娘の前ではぐっとそれをこらえた。
今は泣いている場合じゃない。
今は…風音を一人前に育ててやらないとな。泣くのはそれからでいい。
ただの馬鹿な奴だと思っていた。だが、そんな高松は俺よりはっきりとした未来に対する目標を持っていた。彼の言った言葉がそれを物語っている。
凄いと思った。純粋に凄いと思った。勝てない、そう感じたかも知れない。でも、凄いという感情がそれに勝った。
高松…おまえのおかげで、俺はもう一度夢を追いかけられそうだ。
遠い向こうにいる彼。でも、何時も私の側に居た。側にて、私をベッドの中で抱きしめてくれる。その証拠に、今もドキドキしている。こんなにドキドキするのは彼の側にいる証拠。
でも、そこに実体はなくて、ただ温もりだけが空回りしていた。
それでもいい。貴方は私のことを思っていてくれるから…貴方のことを思って眠れなくなるなら、私はそれで幸せだから。
形ある物は何時か崩れ去る。君が僕に対している壁も、無限の未来までのこり続ける物ではないと信じている。でも、無理矢理破壊しようとは思わない。ゆっくりと時間をかけて…そう、壁をすり抜けるように君に近づきたいと思っている。
だからまず…お友達から始めませんか?
飾らない私がみたいなら、私は飾らないで貴方に会いに行こう。他の子がお化粧やアクセサリ、ブランド物にお金をかけているなら、私は自分自身を磨こう。私は、私という世界に一つしかないブランド。シャネルとかグッチとかみんなが持っているブランドじゃない。私は、私というブランド。
だからね…そんな高級品とつきあえること、誇りに思って。私も、貴方というブランドとつきあえることを誇りに思うから。
「もう一度やり直してみない? 私達は自分達のことばかり考えているから失敗する。私達が本当に考えないと行けないのは子供のことなのに、大人げないよね。だから、もう一度やり直してみない? 今度は…子供のために…。」
雨に濡れていると、雨なんてどうでもよくなってきた。もしかしたらこれが自然と一体化している証拠なのかも知れない。気にしない気にしない。水もしたたる何とやら。どんどん私を濡らして。
日常の繰り返しはつまらない。だから、この雨…楽しい一日を演出してくれる素敵なエピソード。
私は貴方に付いていく。貴方は私と一緒に歩いていく。お互い持ちつ持たれつ、お互い協力し合って。
貴方は私の道しるべ。闇の中での光。そして…愛する人。
何時だって親の期待に答えないといけない私。期待に応えないと顔すら見てくれない私の親。私は何のために生まれてきたんだろう。
夜の冷えた空気に、コンビニで買ったおにぎりは不思議に温かくて…親の愛情よりもあたたかく感じた。
私は貴方のことを信じてる。
だから、例え肩越しでも、その愛情が伝わってくるだけで十分なの。
背中から伝わってくる貴方の体は春暖のように心地よかった。不思議と鼓動が緩やかになるし、不思議と波打つようになる。
そんな、肩越しだとしても、その愛情が伝わってくるだけで十分なの。
でもね…偶には、真正面から抱きついて欲しいな。
寂しそうな目をして、うつろな目をして、窓の外を眺めて、細く細く長く長く遠吠えを繰り返す犬は、私にそっくりだった。独りが怖い、独りで生きていく自信がない。
お互い似たもの同士なんだよね。だから…今日からは一緒に寝よう?
人間は知らない間に束縛されている。そして、知らない間にその束縛から脱却しようと試みる。そして、知らない間に失敗して、何時しかそのことすら忘れてしまう。
でも、目の前の夫は確実に束縛から自分を解き放っていた。自らその手段を会得していた。
貴方がそんな、人にはできないような、知り得ないようなことをするから、私は貴方に勇気づけられるの。
…やれないことはないって。
結局、二人とも恥ずかしがり屋だった。だから、手を繋ぐのも自然にできない。何時も遠回りばかりしているんだ。
でも、そんなゆっくりな恋もいいかもしれない。
だって…ゆっくりな方が、長い間楽しめるでしょ?
屋上からの階段を下りるとき、子供の輝いた目を思い出した。あの子供は空は青いと言った。あの子には忘れて欲しくない。空の青さを。
大人になると、いつの間にか空は青くなくなってしまう、くすんでしまう。だから、あの子には忘れて欲しくない。
なぜか、心が軽かった。あの少年に…出会ったからだろうか。
君の言葉が僕の頭に残り続けた。嘘をつくとき、丁寧語になる君の癖、どうして僕は知って居るんだろう。そして、どうして君は嘘をついたんだろう。僕が好きだと。
これは警告だ。二人の愛が終わりそうにあることに対する警告だ。
でも、警告されてもどうしていいか分からなかった。だって僕は…好きだったから。
もしかしたら、運命の出会いなんて後から付いてくるものなのかも知れない。出会って、付き合って、結婚して、子供を産んで、縁側でお茶をすするようになって、二人で語り合って、その時初めて、「これは運命の出会いなんだね」って言うものなのかも知れない。
なら、運命の出会いなんて存在しないことになる。
運命は…自分が行動した後から付いてくるものだから。ならば、多くの出会い、探してみようじゃないか。
貴方が居た証をおなかで育て、何時か子供と一緒に貴方の墓参りをする。そして、貴方に自慢する。こんな可愛い子供にさわれるなんてうらやましいだろ、って。
でも、本当は怖い。一人でこの事を育てられるのかって。一人で生きていくことができるのかなって。
大丈夫だよね? 貴方は何時も…私の側にいるから。私を見守っていてくれるから。
朝目覚めると、君は笑っていた。腕の中で笑っていた。どうしたのって聞いたら、寝顔が可愛いって言った。そしてまた笑った。どうしたのって聞いたら、困った顔してるって言ってた。
真っ白なシーツに包まれ、裸で抱きしめ合う俺達。
順番は間違っているのかも知れない。でも…恋はもう始まっていた。
外では部活帰りであろう学生が歩いていた。カップルも、一人で歩いている子も、仲良く並んで歩いている子もいた。
外の時間とは対照的に、緩やかに店内の時間は過ぎていく。酸化が進む毎に滑らかに変化するコーヒーの匂いだけが、時間の流れを象徴していた。
ゆっくりとしたときの流れ…一目惚れした珈琲と共に過ごしていく。
彼女が言うままに俺は車を滑らせた。目標は、彼女が指差すところ。ただ、それだけでよかった。それが未来であっても、地球上の何処かであっても、変わらなかった。
彼女に依存していると言われてもいい。実際、俺は彼女に溺れているからだ。だから、彼女が居なくなったときのことは考えない。いまは、まだ、それでいい。
窓を開けると車の中に風が入り込んできた。ふわり…と舞った彼女の髪の匂いが、鼻をくすぐった。
アスファルトによって傷つけられた子供を見ていると、なんだかやるせなくなった。我が家の前の道路を舗装してくれ、そう文句を言う親が居るらしい。でも、そうすることによって、子供達にとっては凶器になってしまう。
子供にとって本当に怖いのは…親なのかもな。
合掌の姿勢を崩し、俺は立ち上がった。墓碑銘に彫られた父親の名前は今でも俺を見守っているかのように彫りが深かった。それほどまでに存在感があった。
…そういうことか。だから人は墓碑銘に名前を刻むのか。
電車は何時もと同じように俺を乗せて走り出した。ガラスの向こうに見える風景も何時もと同じだ。でも、心は違う。名も知らない少年達が書いたスプレー画。それは場所こそ悪いものの、込められたメッセージを如実に示していた。そして、そのメッセージは俺を突き動かした。
ありがとう…くたびれ果てた戦死に力を与えてくれた少年よ。
“貴方”が居るから“私”は存在している。“私”が居るから“貴方”は存在している。
貴方が居なければ、私がこの世界に存在している事を誰一人として知る事はなかっただろう。たとえ私が死んだとしても、私が生きていたという記憶を受け継ぐ人は居なかっただろう。
“貴方”が居るから“私”は存在している。“私”が居るから“貴方”は存在している。
私が居なければ、貴方がこの世界に存在している事を誰一人として知る事はなかっただろう。たとえ貴方が死んだとしても、貴方が生きていたという記憶を受け継ぐ人は居なかっただろう。
一方通行な出会いだとしても、貴方は私の心のどかに住んでいて、貴方は私に認知され続ける。
たとえ、一方通行な出会いだとしても、私は貴方の心の何処かに住んでいて、私は貴方に認知され続ける。
身近なところに貴方はいた。
恋人、家族、子供。
鏡の中、テレビの向こう、地球の裏側の見知らぬ人。
近所のおばさん、赤茶けた大地、屋上で出会った子供。
コンビニで買ったおにぎり、公園にいるカメラマン、ラジオから聞こえてくる音楽。
色々なところに貴方が居た。そして、私はここにいる。
もし貴方が、もう二度と会うことがない人だとしても、貴方と私はきっと何かで繋がっている。
もし貴方が、人生の終焉をともにする人ならば、最後まで私を見守っていて欲しい。
もし貴方が、共に人生を歩み始める人ならば、今日という日を思い出というアルバムに閉じて、何時の日か一緒に見よう。
もし貴方が、―――。
私はこれからも沢山の“貴方”という存在と巡りあう。それぞれの“貴方”は存在意義も価値も出会い方も違うけど、全ての貴方という人は私に何かをもたらすから、そんな出会いを大切にしたい、そんな貴方を大切にしたい。
だからね………これからもよろしくね、あなた?