掌編小説

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制服

 ゆっくりと息を吸うと、私は洋品店の自動ドアをくぐった。ぷん、と鼻をくすぐる布独特のにおい、そして、店員の明るい声。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
「風見学園の女子の制服を」
 人懐っこそうなイメージを湧かせる店員。歳は25,6だろうか。短めに切られた髪、薄めに飾られた化粧。この店の制服だろうか、紺色のエプロンを身につけている。
「娘さんがご着用になられるのですか? サイズはどのぐらいでしょうか」
「いえ…違います」
「それでは…」
 そこまで言った店員が私の顔を見つめる。そして、その表情が変わった。が、すぐにもとにもどると、再び聞いてくる。
「サイズはどのぐらいでしょうか?」
 明らかに怪訝な顔をしている。まぁ、そりゃそうだろう。だいの大人の男が一人で女生徒の制服を買いに来ているんだ。その目的も何となくわかるだろうか…。
「サイズは…わからないです」
「わからない?」
 怪訝な顔と疑問の顔、疑いの顔が混ざったような表情。とにかく複雑そうだ。
「はい…」
「失礼ですが、どなたがご着用になるのですか?」
 確認したいのはそこらしい。仕方がない…言うしかないか…。
「誰も着ません。だれも…」
「誰も…着ない?」
「でも、しいて言えば私の娘ですね。もう…この世にはいないですが…」
「え…」
 再び店員の顔が入れ替わる。
「去年死にました。事故で、ね。妻と一緒に…。生きていれば今年の春には風見学園に入学していたでしょうね…。それがあの子の夢でしたから…。だから、私はせめてその夢をかなえてあげたいんですよ」
「そうですか…。わかりました。一緒に選びましょう」
 私に、奥に来るよう促すかのように店員はゆっくりと背を向けると、歩き出した。私もそれに続いていく。
「背は大きかったですか?」
「いえ、逆に小さいぐらいでした。前から数えたほうがいいぐらいでしたからね」
「そうですか…。風見学園の制服は可愛いですからね。皆さん嬉しそうに買われていきますよ。えっと…このぐらいでしょうか?」
 棚の上から白い箱に収められた制服を取り出す店員。典型的な白ラインのセーラー服。付属のタイピンにはKAZAMIとローマ字で刻まれている。
「そうですね…。多分このぐらいでしょう」
 襟元のタグには155と書かれている。
「これを下さい」
「かしこまりました」

 レジにもどると店員は丁寧に制服を折りたたみなおし、箱に収めた。
「この学校の制服は皆さんの憧れなんですよ。娘さんも着る事ができて嬉しいでしょうね」
「えぇ。きっと喜ぶと想います」
「はい…」
 店員は目頭に浮かんでいた涙を拭った。
「上下セットで35000円になります」
 震える手で一万円札を取り出す。取り出した紙に1つ、またひとつと染みが増えていく。
「はい…」
「40000円お預かりいたします。5000円のお返しです」
 おつりを受け取る。耐え切れなくなった私は袖で涙を拭った。
「ありがとう…ございます。これで…娘に着せてやる事ができます」
「はい。大切にしてくださいね」
「はい」
「ありがとうございました」

 精一杯の声で彼女は言った。だから、私も精一杯の笑顔で答えた。

初出: 2003年12月26日
更新: 2004年12月14日
原作: 鈴響 雪冬
著者: 鈴響 雪冬
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