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Melody of the wind 〜歌は風に乗って何処までも進む〜

「はぁ…」
小さなため息
俺はノートを閉じるとシャーペンを筆箱にしまった。
『ギィ』
背もたれがきしむ。
見上げる天井…。
白い光を放っている蛍光灯。
無機質な光。
「はぁ」
もう一度小さなため息…。
「どうしたんだろうな」
俺は昔から詞を書くのが得意だった。
そして自分で作曲してきた。
だけど…
ここ半年ほど全く詞が浮かばない。
メロディーも浮かばない…。
かつては溢れるように浮かんできたイメージ…。
けど…。
今は全く浮かばない…。
「どうしたんだろうな」
もう一度呟く。
今日はなんとなく書けそうな気がしていた。
そして、その結果…。
目の前には閉じられたノート。
結局何も浮かばなかった。
ページを捲る。
昔書いた詞。
詞の上にはコード進行が書いてある。
殴り書きのメモから一曲の唄まで…。
全てが伝わってくる。
俺はノートに曲を書いていた。
パソコンでもいいんだが、やっぱり作った、って感じがするんだ。
だけど、今はそのノートが嫌だった。
過去の事を思い出させ、俺を焦らせる。
その焦燥が俺をさらに狂わせてると思うと、正直腹が立った。
俺は部屋の電気をけし、ベッドにもぐりこんだ。

俺は何を思って詞を書きつづけていたのだろうか。
ついに俺はそこまで思うようになってしまった。
そう…何のために?
理由のない物に意味はあるのか?
そう考えると俺は詞を書く事をついにしなくなった。

俺は、何処に向かってるんだろうか…。
そして…何を目指すんだろうか。
全ての気力を失った今…全ての夢を失った今…。
俺の夢はシンガーソングライターになる事…だけど…。

そんなことを思い出した今。
あれから俺は詞を書かなくなったんだな。
すでに5年という歳月が流れていた。
何も見つけることも無く、大学に入学し、当たり前のように普通の人生を送っている。
そんな自分に存在価値は有るのか…。
大学に入ってすでに2年がたつ。
講義を受けノートにメモを取る日々の繰り返し。
何も考えることの無い無機質な自分。
『60億人の人間に1人として同じ人はいない。だから掛け替えの無い存在で、
 1人1人にそれぞれの道がある』
ふと思い出した高校時代の恩師の言葉。
『その道を創るのは自分自信だから、同じ人がいない。
 自分の道を進め』
そんなことを言ってもな…。

俺は家に戻った。
床を見ると黒いケース。
何を思ったのか俺はそれを開けた。
中から出てきたのは『フルート』。
むかしある人からもらったフルート。
何でも数十万するらしい。
高音でも柔らかい音のするこのフルートは長い間俺の相棒だった。
でも…最近は見てもいなかった。
ハードカバーには今自分でつけた指の跡がしっかりと残っている。

昔はよく吹いてたっけ…。
昔俺はコピーで好きな曲をフルートやギターで吹いたり弾いたりしていた。
そして恩師に出会った。
もう顔すら覚えてない人…。
アレは…だれだったかな…。
あっ、そうだ。
吹奏楽部の先輩…。
あの先輩はフルートが上手かったな。
そしてそれを聞いている俺に対してその先輩は『吹いてみる?』って聞いてきたんだ。
俺がそれを吹く…。
甲高い音。
先輩は笑った。
そして言った。
『上手くなれるよ』って…。
そして、俺は上手くなった。
フルートを吹くことが出来るようになった。
ギターとは違う音。
新しい世界。
全てが面白かった。
先輩にフルートを返す時…。
先輩が卒業するとき…。
俺はフルートを先輩に手渡した。
先輩は…、『そうだ』と言って俺にフルートによる即興曲を聞かせてくれた。
その場にいた部員が次々と参加してきた。
フルートだけだった曲にブラスが混じり、ベルも入り、ドラムも入ってくる。
その一つ一つの音が音楽となっていた。
気がついたら音楽室には全ての吹奏楽部員が集まっていた。
ギャラリーもいた。
音楽には全てを創る力がある、人を感動させる力がある…
そう思って俺はこの道に進んだはずだった。
その後先輩は俺にこのフルートをくれた。

そんなことを思い出しているうちに、1曲吹いてみたくなった。
ここだと…うるさいか…。
周りは住宅地。
夜の騒音は近所迷惑だ。
俺は明日、物見の丘に行くことにした。

丘の上。
町が見渡せる。
人が誰もいない場所。
「さてと…」
俺はフルートを取り出すと同時に楽譜を取り出した
『青空』
曲のタイトル。
教えてくれた人によるとゲームの曲らしい。
俺は聞いたときはっきり言って感動した。
そして、俺はその音を覚えフルートで練習したんだった。
フルートを握り締める。
いまでも…吹けるのだろうか。
リッププレートとアンブシェアホールの調子を確認すると、俺は足部を差し替え低音を出るようにした。
「さてと…」
俺は草の上に座ると息を吸い込んだ。
♪〜
指が自然に動く…。
緩やかなメロディーラインが奏でられる。
後半に入り俺は自分のアレンジを即興でいれていく。
滑らかな曲調を次第に早く。
一気にサビに持っていく。
その頃にはフルートの高音の限界を超えかけている。
このフルートなら耐えてくれる。
そう俺は信じている。
サビを乗り越え、曲は一気に終盤に差し掛かる。

♪〜
「…」
吹き終わった感想…。
懐かしいな。
無邪気に楽器を吹いていた昔。
いま…自分は無邪気になっていたんだろうか…。
一陣の風が吹きぬける。
楽譜が飛ばされた。
「あっ」
手を伸ばしたときにはすでに楽譜は空の彼方だった…。
風…。
お前達は…何処まで吹いているんだろうな。
!?
脳裏を掠める何か。
「これは…」
全く出来なかった何かが今なら出来る!
何かを取り戻した今の自分なら出来る!!

好きなことに理由なんて要らない。
好きなことが理由なんだから。
自分の思うが侭に行動してその先に未来を見つける。
もう一回始めてみよう…。
原点に戻って…
考えるのではなく、無邪気になって…自分の好きなことをはじめてみよう。
そうすれば…きっと何かが…。
俺はフルートと封印したノートと筆記用具を手に持つと、家を出た。
そして…あの丘に向かった。

お気に入りの、Bの芯を入れたシャープペンシル。
いつもは0.3のHBを使うが今日は違う。
このシャーペン…懐かしい。
既に何年も使っていた。
一時期壊れてしまって使えなくなったが俺は自力でなおして使っていた。
しかしこのシャーペンもノートの封印とともに全く使わなくなった。
そして…俺はまたこのシャーペンを握った…。
確かな手応え。
頭に浮かんでくる詞。
それを一つづつ書き綴っていく。

『風(仮)』
丘の上から見渡す街
毎日のように変わっていく
見上げると青い空
毎日のように雲が流れてる
ふっと 一陣の風 頬をなでる
葉音鳴らし通り抜けてく
夏の 日差しの中 吹き抜ける風
大気をかえて通りぬけてく
貴方は何処まで吹くの
何を思い吹いてるの
この夏の日々を思い
私は何処へ行くのか

ここまで書いて俺は一息入れた。
「ふぅ」
いままで浮かんでこなかったことが嘘のようだった。
その時浮かんだ『季節風』というなのフレーズ。
そして…『希望風(きせつふう)』というイメージ。
季節風…季節が変わるとき吹く風。
人が変わるとき…そこには何があるんだろうか…。
やっぱり希望…なんだろうか…。
そして俺はまた続きを書いていく

知らぬ場所から吹く風
毎日のように変わっていく
感じると季節風
全てをいれかえつれさる
今の自分のいる場所を見る
立ち止まって進まない
進むことをあきらめて
僕はまだここにいる
流れる音の旋律に
何かを私は思い出した
変わらない毎日が
ここから動き出す

希望風と言うなの風に
背中押されて進んでく
希望に満ち溢れた
ただ…明日に向かって…

ノートを閉じる。
あっという間に完成してしまった。
「結局…なんだったんだろうな」
「俺は何で書けなかっただろうか」
「やっぱり…忘れてしまっていたんだろうか」
純粋に感動すること…純粋に楽しむこと…。
やっぱり…好きなことに理由なんて無い。
詞を書きつづけることに理由なんて無い。
自分が好き、ただそれだけで十分だった。
歌は風に乗って何処までも進む…。
そして…世界中に広がる。
国境を越え…全ての人を感動させる…全ての人を無邪気にさせる。
そうなんだ…。
俺は…音楽に感動した。
だから今、この道を再び歩み出す。
希望風という風に背中を押されて………。

「そうだ…曲のタイトルは『風』じゃなくて、
 『Melody of the wind 〜歌は風に乗って何処までも進む〜』にしよう」

初出: 2002年**月**日
更新: 2024年12月14日
原作: 鈴響 雪冬
著者: 鈴響 雪冬
Copyright © 2002-2004 Suzuhibiki Yuki