Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > 光になりたい > -登場人物紹介-
「じゃあさ、田村さんと同じ新入部員はいるの?」
「苦しみと向き合うのはずっと後でいい。今は、一歩いっぽ、田村さんが少しでも楽になることをやろう? 後ろを振り返ったり、休憩しながら、ゆっくりと前に進もう? 自分のペースで…。そして、その後で考えようよ。一人で無理でも、俺がいる、みんながいる。ね?、田村さん。田村さんは一人じゃないんだからさ。俺達みんな、友達なんでしょ? それなら…。篠原さんの言葉じゃないけど………俺を信じて。俺達を信じて。だって………クラスメイトでしょ? 友達でしょ? 仲間なんだよ。一緒に過ごしてきたんだよ、今まで。だったら信じてくれよ。」
「どうして………どうして…人間は自分たちと違う物を追い出そうとするのですか? 好奇な目で見つめるのですか? なぜ、虐めるのですか? なぜ…どうして………? 私にはわからない…」
「優しさの…裏返し…。好きと嫌いは紙一重…」
透けるような白い肌。艶やかで真っ直ぐな黒い髪は丁度腰の辺りで切られていた。比較的整った顔の作り…そしてしなやかに、かつ細く伸びた手足。美人とか可愛い…というわけではない。だが、彼女自身の存在を目に焼き付けさせるには十分だ。
腰に近づきそうな髪。顔は小さめで儚げな雰囲気を醸し出している。長い髪は先のほうでも不自然にばらつくことなく、手入れが行き届いていることを感じさせる。その細い指先は、手に持つ『天使の笛』を操り、何か幻想な魔法を作り出しているように見える。
そんなことを考えながら歩いていると、道の真中より少しよったところに、ややうすいブラウンの毛を持ち大人しそうに座っている犬を見つけた。軽くウェーブを持ち、光を放つその毛は細く繊細で、僅かな風にも動きを与えられる。クリクリとしためは遠くを見つめ、何かを待ち望んでいるようにも見える。その犬は何時も田村さんと一緒にいる盲導犬に似ている。
「どうした? 聡。さっさとくじ引いてしまえよ」
「しかし、男二人で弁当ってのも、なんだか味気ないよなぁ~」
「珍しいな、お前が日曜日以外に本を買いに行くなんて」
義之の横顔が夕日に照らされる。朱に染まったその顔からは、強い信念が伺える。遠くを見据えつつ、しっかりとした目。引き締まった口もと。軽く握られている拳。その…全ての物が…義之という人物を彩る。これが………義之…か。かっこいいと思った。そして、俺は、負けたくない、そう…思った。
「はい…。わかっています。私なら大丈夫」
「私も、田村さんのことが好きですから」
やや丸みをおびた顔。もともと背が小さめのその子は、田村さんの隣に並ぶと一回り小さく見える。ただ、その存在感は大きく、自分がここにいると何かが示していた。それは…手に持つフルートも如月さんと重なっているからではないか。
長い髪は、田村さんよりやや短く、そして、濃いブラウンを放つ。しっかりと前を見据え、楽器を演奏するその顔は真剣その物だ。目は輝きを持ち、それでいて、優しさをも持ち合わせる。遠目にはわからないが、とても楽しそうだ。
「あんた達、なに勘違いしてるの?」
「うん。耳に聞こえるとは違う…心に響くような…音。普通、目立つ音はね、他の音に邪魔されちゃう。でも、あの二人はそんなことは無い。とても…強い…。脳に直接響くような音…。だから、心にも響く」
田村さんとは正反対のショートカット。襟足の部分を少し長くしたその髪は色素の関係で若干茶色っぽくなっている。くりくりとした眼はどことなく、小動物を思わせる。性格は明るく、女子にも男子にも結構人気のある存在だ。
「自分の思ったことを実行できることは凄いことです。誇りに思いなさい」
「皆さんで支えてもらえますか?」
ふわっとしたウェーブ。栗毛色の髪。柔らかい眸。カットソーの上に軽く羽織るような形で淡紅のブラウス。アンサンブルカーディガンではないのだろうか、ロングスカートを穿いている。いかにも『大人』という雰囲気を醸し出している。上下ともしっかりと着こなすその姿は、全体的に雰囲気が田村さんに似ている。母親…だろうか。背は田村さんと同じか少し高いぐらい。じっとその目で見つめられるとなんとなく落ちつきを覚える。
「みんな早いね~。それに、一箇所に固まって…なにやってるの?」
「やっぱり、朝はメロンパンっ♪ あっ、美味しい~」
教室に入ってきた女の人は相沢さんだった。みっちゃんというのは、きっと、相沢真美の真美から来ているのだろうと思った。ざっくりと短く切った髪は少し癖があり、外側に跳ねている。そんな髪に細く光るヘアピンをつけ、前髪を止めていた。
「はい…しんとなった教室で、紫穂、は…すこしだけ………間を…空けて、誰、も…手を………上げな、いのを見る、と…すっと………自分から…。隣、にいた…私が…犯人だっ、て…知らないのに…」
「目は物事をもっとも現実的に把握するもの。人間の五感の中でもっとも現実的な感覚。それを失うとどうなるか分かる?」
「すごい…。よく真面目につけてるわね」
「如月さん…本当のことなの………。ごめんなさい…本当に…ごめんなさい…。いけないって事はわかってた…。だけど…だけどっ…。ごめん…なさい………。これしか言えないから………こんな言葉しか知らないから………」
ねぇ、私をそのフルートのライバルにしてくれない?」
「えぇ~…。あの黒くて長い髪に何も引かれないのかなぁ…」
「まぁ、サッカーっていうのも悪くは無いぜ」
「可愛い子か?」
「ほぉ。今日は親子丼か。親子丼とナメコの味噌汁…なんか微妙な組み合わせだな」
いつもの、灰色地に黒い千鳥模様を配した着物を着た親父が答えた。
まだ40半ばなのにこういうのを見るとかなり年上に見える。オヤジっぽいという意味ではない。かっこいい大人として年上に見える…。ところどころにしっかりと糊付けされ、はりを与えられたオーダーメイドの着物を着た親父の背中を見て俺は育ってきた。
「以上。今日もよろしく」