光になりたい -後書き-

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連載を終えて

 どうも、『光になりたい』の作者、鈴響雪冬です。最後まで読んでいただきありがとうございました。連載期間も過去最長となり、更新を楽しみにしていた方にはちょっと待ち時間が長かったかな? と気がかりなところもありましたが、こうして完成する事が出来ました。
 時間がかかった理由としてはたくさんあるのですが、資料集めにとても手間取りました。自分の知らない世界を描くと言う事は大変な事だと改めて実感しました。

 目が見えないヒロインを書こうと思った理由は本当に単純で、『緑内障』に関するメモ書きを自分のノートの片隅に見つけたところから始まります。それを発展させ、目が見えないヒロインが私の中で生まれました。目の病気には様々なものがありますが、現在の医学でももっとも注目されているものの一つだそうです。目の病気をどうにかして治す事が出来ないか、と日夜研究している人たちが沢山います。

 文中で触れていますが、『障碍(障害)』とはなんでしょうか? 体が不自由ということと障碍は決して同じとは私は思いません。障碍とは体が不自由な人に対する物理的、または非物理的に邪魔になるものと考えます。体が不自由な事は障碍ではありません。地域の環境や、私たちの心が障碍なのです。
 バリアフリーと言う言葉があります。日本語では、障壁除去と言います。物理的障壁を取り除く事は簡単でも、私たちの心の障壁をとる事は難しいものです。
 英語やパソコンの知識を幼い子供に詰め込む前に、人間としての精神をまずは学ばせるべきではないでしょうか?
 視覚は人間の処理する情報の9割を担っています。健康な人に聞きます。目を瞑ってある事が出来ますか? 途中であきらめて目を開けてしまいますよね。この小説を書くに当たり、町中に出て、点字ブロックの上を歩く調査をしましたが、100メートルも歩く事が出来ませんでした。怖いと言うのもあるのですが、点字ブロック自体がとぎれていたりと、設備的問題もあります。
 私達人間は至極不思議な生き物で、病気やけがをした時の『対策』として保険に入ります。そして、万が一の時に『お金』を給付してもらい、それで生計を立てます。でも、お金の対策はしても、病気やけがをした時に、自分が暮らす街や家…それら『環境』に対する対策は全くしていません。何故でしょうか? 本来ならば、そう言うところにも目を向けるべきではないのでしょうか? 気が付いていないだけなのか、知っていてやらないのかはわかりませんが…何かずれていますよね。ここはちょっと言いたいところです。
 私達人間は他の動物に比べ長い時を過ごすことが出来ます。それ故、その過程で何が起こるかわからない、それが事実です。2003年の11月…耳が聞こえない人のための聴導犬が国内で初めて認可されました。そして、盲動馬についての研究や調査が進められています。いろいろな土地でモデル地区を形成し、全ての人に住みやすい街作りを展開しています。法律の改正も進み、2003年10月1日、『身体障害者補助犬法』が試行され、全ての施設で補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)の利用が可能になりました。世の中は確実にバリアフリーに向かっています。ですが、私達の心の障壁はどうでしょうか? 一番難しく、一番重要な部分です。少しだけ考え方を変えてみてはいかがでしょうか。

可能性の模索

 可能性の提案という意味を込めて小説中には色々なものを使っています。代表的なものは、『ICレコーダー』です。テープレコーダーが一般的なのですが、ICレコーダーというものも世の中には存在します。これからの録音はICレコーダーになるかもしれません。文中には触れていませんが、田村さんは音声パソコンを使い、色々な人たちとメールで交流を図っています。点字の識字率は10%前後と言われていますが、今ではパソコンのメールやインターネットが彼らにとっての大切なコミュニケーション手段になろうとしています。
 私達を含め、Webサイトの管理人は、より多くの人が閲覧することが出来るサイトを作る必要があると私は考えます。だからこそ、光になりたいの連載が終了した後、私自身のWebサイト(HTMLファイル数200以上)…を完全にリニューアルしました。上でも述べたとおり、バリアフリーという言葉は、何も段差といった部分だけではないのです。
 さて、田村さんは点字に対して、『慣れれば誰でも読むことが出来ますよ』と言っています。しかし、後天性で失明してしまった方のほとんどは点字を覚えることは出来ません。すでに、指先の神経が衰えているからです。田村さんが読むことが出来るようになったのは、血のにじむような努力があったからです。

プロローグの質問

 ここで、皆さんに一つ質問をしてみたいと思います。見つめる事が出来ない人は…どうすればいいでしょうか? そもそも見つめるとはどういう事でしょうか?
 ゆっくりと考えてみてください。この小説を読んだ方なら、もしかしたらその答えを自分なりに見つける事が出来るかもしれません。
 2003年夏…高崎で出会った盲導犬を連れていたあの方は、盲導犬と暮らす事によって何を得たのでしょうか。同年10月…池袋で白杖を持っていた方をバス停まで案内したあの少年は、光になる事が出来たのでしょうか。同年12月…代々木で行われたとあるアーティストのコンサートに来ていた目が見えない方はあの場所でどのような空気に触れたのでしょうか………。世の中には色々な人がいます。貴方が気づいていないだけかもしれません。少しだけ視野を広げて…見聞を広げてみませんか? 私からの提案です。

まとめ

 半年以上連載し、連載中にも関わらず、私の文章表現の方法が変わったり、小説ページにリニューアルを加えたりと色々としたため、所々読みにくい部分があったかと思います。私自身、まだ成長の過程にあるため、文章の表現が変わってしまう事はある程度仕方がないかと思いますが、読みにくいと思った方には迷惑をかけました。

 さて、今回の小説には色々と新しい試みをしています。Webサイトという特性を生かし、画像を使った表現も一カ所ありますね。より読みやすい文章を、ということで、今までとは違うHTMLで記述してあります。私個人の文章の書き方も変えてあったりと、試行錯誤をしてみましたが、皆さんどうでしょうか? 一応、小説の世界観をうまく出す事が出来たらな…と思ってやらせていただきました。
 思い残す事が一つだけありまして、物語を書くに当たり、盲学校に取材を申し込んだのですが、『公的取材以外は受け付ける事が出来ない。もし取材をしたいのなら県議会を通してほしい』と言われた事です。ただ一つだけ、この点が心残りです。

 色々言いたい事はありますが、それらは、【日記】の中のコンテンツ、『光になりたい製作日記』のほうで連載させていただいていました。興味がある方はどうぞ…。ただし、日記の内部という事で、人によっては拒否反応を起こすかもしれませんが………。

 沢山の人に支えてもらい、応援してもらい、半年間、私の手元で成長を続けた物語の登場人物ですが、これからは、皆さん読者の中で育ててあげてください。私からのお願いです。
 私も自分の中で育ててあげようと思います。そして、その結果は冊子版の『光になりたい』で紹介していこうと思っています。

 『愛には色々な表現方法があるのと同じように、愛の形にも色々な形があります。今回は、その中の一つの形や表現を切り出して皆さんに紹介してみました。この小説で貴方が何かを見つける事が出来たのなら、私は幸せです。そして、物語の中の全ての人たちが、貴方に感謝するでしょう。 『言葉と言葉が、人と人の絆と想いを紡ぐ恋愛小説 ~光になりたい~』を最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました』

初出: 2003年11月11日
修正: 2005年2月5日
原作: 鈴響 雪冬
著作: 鈴響 雪冬
制作: 鈴響 雪冬
Copyright © 2003-2005 Suzuhibiki Yuki

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