Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > ReSin-ens > 本編 -第11章-
【直哉】「さて…帰るか…」
つい最近まで毎日のように彩音と一緒に帰っていた…。
どこと無く、1人と言うのが寂しい。
もう一週間たってしまう。
でも、これが今まで通りの俺だ。
【音瀬】「こんにちは、居元先輩」
気がつくと、目の前に音瀬が居た。
【直哉】「やぁ、こんにちは」
珍しい。
【音瀬】「少し…時間いいですか?」
【直哉】「ん? まぁ、構わないよ」
特にする事もない俺は安易に了解をだした。
【音瀬】「ここだとなんですから、屋上に行きましょう」
…
……
………
【音瀬】「私…大っ嫌いです…。そんな優柔不断な人…」
【直哉】「音瀬?」
屋上の扉がしまるなり、いきなり音瀬に掴みかかられた。
【直哉】「なんの事だよ!」
俺は無理やりに音瀬の腕を振り解いた。
【音瀬】「…先輩…。どうして彩ちゃんを避けるんですか?」
【直哉】「避けてなんか―――」
【音瀬】「だまれ!」
なっ!
音瀬の声が耳にこだまし、俺をその場に釘付けにした。
一瞬の硬直の後、こいつに蹴りを入れてやろうかと思った。
が、すぐに思いとどまった。
音瀬の顔はそこまで深刻だったのだ。
静かだが激しい怒りの表情。
短い付き合いだが、今まで見た事の無い表情…。
【音瀬】「今になって…どうしたんですか?」
【直哉】「音瀬には関係ない!」
しかし、いらだっているのも事実。
【音瀬】「関係あるわよ! 彩ちゃんの親友だもの」
【音瀬】「彩ちゃんのことが好きだもの」
【直哉】「お前に何がわかる!」
【直哉】「俺の気持ちも知らないで…。彩音がどんなに苦しむか知らないで…」
【直哉】「俺のせいで…彩音はもうすぐ…」
【直哉】「俺は…彩音の事が心配だから…だから…」
他の人にはわからないだろうな。
彩音の事が心配なら…普通はその人を守ろうとするものだから…。
でも俺は…その人を守るために身を引かなくてはいけないから。
【音瀬】「いまになって…どんな悩みがあるか知らないけど………自分の事より…彩音ちゃんのことが先に気になる次点で先輩は彩音ちゃんが好きなんです」
【音瀬】「そんな事にも気がつかないんですか!?」
【音瀬】「嫌いな人なら、はじめに自分の事を考えるものでしょう」
【直哉】「でもな…」
【音瀬】「あ゛ぁ~、優柔不断な人」
【音瀬】「あんたもね、いつまでも自分の気持ちを隠してるんじゃないわよ! 私にはわかるんだから」
【音瀬】「彩ちゃんもあんたのことが好きなんだよ!?」
【音瀬】「それにあんたも気がついているんだし…あんたも彩ちゃんのことが好きなんだったら…それに答えてあげなさいよ」
【音瀬】「ここまで付き合っておいて…いまさらになって捨てるなんて…最悪よ!」
【直哉】「音瀬…」
【音瀬】「それに…あんたにそんなにも考えさせるなんて…よっぽど深い何かがあるんだろうけど…、頑張って!」
【音瀬】「私は、彩ちゃんのことも先輩の事も好きだから、応援させてもらいます」
【音瀬】「人を好きになる事は理屈じゃない。哲学とかそんなんじゃ説明できない」
【音瀬】「純粋に人を好きになる事が大切なの…。人を狂おしいぐらい好きになる事が出来れば…」
【音瀬】「だから…先輩が迷惑だと想っている事も…彩音ちゃんにとってはそうでも無いものなの…」
【音瀬】「先輩の全てが好きなの…。悪い事も…いいところも全て含めて…」
【音瀬】「あの子は…自分の事をあまり表に出さない子だから…」
【音瀬】「その点では…先輩も同じ」
【音瀬】「二人に何があったか知らないし…それぞれ過去に何があったかなんて知りたくも無いし興味も無い」
【音瀬】「でも…好き…と言う言葉で全て片付けられるじゃない」
【音瀬】「全て…」
【音瀬】「『恋はほどほどがいいですよ、体に障りますから』と、ある人はいっていますが…。そんな事はありません」
【音瀬】「かまわずつっこんでくださいっ!」
勢いに負けたんだろうか。
俺の心の中の何かが目覚めたんだろうか。
なんか…気持ちがすっきりしてくる。
彩音を好きでいることが彩音の望みなら…それを叶えてもいいような気がする…。
【直哉】「わかった…わざわざありがとうな」
【音瀬】「『想いというのは相手に伝えなければ意味が無い』」
【音瀬】「『自分の中だけにしまっておくと、必ず後悔する』」
【音瀬】「ある小説からの請け負いです」
【音瀬】「彩ちゃんと、先輩のためですから」
【音瀬】「人が人を好きになる感情にはさまざまな種類があります」
【音瀬】「私が彩ちゃんを好きになっているのと、居元先輩が彩ちゃんを好きになる感情は全く違います」
【音瀬】「『好き』と言う言葉はそれだけあやふやで不確定なもので…相手に伝えないとその想いは伝わらない…」
そういうと音瀬は走って屋上から居なくなった。
【直哉】「…音瀬………」
【直哉】「音瀬の…言うとおりかもしれないな」
【直哉】「ここで…彩音を見捨てるのは…人間として間違っているのかもしれない」
やはり信じるしかないのだろうか…。
≪自分を信じる≫
そうだよな…。
信じてみよう。
頑張ろう…。
【直哉】「…帰ろう」
…
……
………
【彩音】「こんにちは」
【直哉】「ん? 彩音じゃないか。こんにちは」
懐かしい声を聞いた気がする。
ちょっと億劫になった…。
でも…昨日の音瀬が俺に勇気をくれた。
俺はわざとここで待っていた。
あたかも偶然のように…。
…それに答えなくては…。
彩音と共にいく…これが…俺の導き出した結論。
【直哉】「やっぱり、午前中でかえれるのはいいな」
だから…今まで通りに接した。
【彩音】「直哉先輩、この後、あいていますか?」
【直哉】「まっ、テスト勉強もほとんどしなくても大丈夫だしな」
【彩音】「では…少し付き合って頂けますか?」
【直哉】「商店街にでも行くのか?」
【彩音】「当たりです。やはり買い物は沢山の人で行った方が楽しいですから」
彩音も…今までの事は気にしていないのだろうか…。
気にしていても…彩音は言うような人じゃない…。
…
……
………
【店員】「ありがとうございました」
俺達は本屋を後にした。
【直哉】「それにしても…一体何冊買ったんだ?」
【彩音】「8冊です。注文していた本がまとめて入荷したので」
彩音は本当に本が好きなんだな。
何か好きなものがある事はいい事だと誰かに聞いた気がする。
【直哉】「本当に、よく読むな」
【彩音】「………はい」
その言葉を発した後、一瞬彩音は苦しそうな顔をした。
その表情が俺は気になった。
彩音は滅多に苦しそうな顔をしない。
いつだって笑顔だから…。
【直哉】「彩音? 風邪でも引いたか? なんか、だるそうだぞ」
【彩音】「違うのですけど…。ちょっとだるいです」
【直哉】「おいおい、そんなんで学校来てたのか?」
【彩音】「はい。期末テストですから…」
【直哉】「だからっていって―――っ!?」
【直哉】「ちょっ…おい、しっかりしろ!」
周りに居た人も何事かと集まってくる。
【直哉】「…電話っ!」
確か彩音は携帯を持っていたはずだ
【直哉】「どこだ?」
ちょと後ろめたい気持ちになったが、彩音の体を触りつつ携帯を探す。
胸ポケットから携帯が出てきた。
えっと…確か…。
うろ覚えの携帯電話の使い方…。
電源が…切れてる…。
こうして…。
【直哉】「119…」
俺は119に電話を掛けた。
【直哉】「彩音っ、もうすぐ、救急車が来るからな。しっかりしろ!」
【直哉】「ほら、目を覚ませっ!」
【直哉】「早くおきあがれよ。心配するじゃないか!」
…
……
………
【救命救急師】「一緒に、来てもらえますね?」
【直哉】「当たり前です」
俺は救急車に乗り込む。
救急車の中でも俺は声を掛け続けた。
でも、起きる事は無かった。
…
……
………
病室で目を覚ました彩音。
医師の診断は、貧血のようなものだろうけど、詳しくはわからないとの事だ。
病院側の連絡で来ていた両親はお互いに顔を見合わせている。
当の彩音は…笑顔だ。
【彩音】「あたしは大丈夫ですよ」
【直哉】「本当か? どこも悪くないのか?」
【彩音】「はい。貧血だと思います」
【直哉】「それならいいけど…」
嘘だ…俺が、俺自身に言い聞かせている。
彩音は貧血だと…。
だけど…。
………同じあやまちの繰り返し。
そう、彩音にもついに、俺の力が及び始めたんだ。
あの時みたいに…。
俺は適当に言葉を交わすと、病室を出た。
救命患者治療施設…。そんなプレートを背にして。
あしたには、一般病棟にうつるだろう。
そして………不治の病と言われて…個室に移されるんだろうな。
その時…俺はどうすればいいんだ…。
乗り越えられなかった大きな壁。
いつだって俺を押さえてきた壁。
俺を苦しめ、回りを苦しめてきた『力』。
これから…どうすればいいんだ…。
でも…俺は音瀬と約束した。
何があっても…乗り越えて見せる。
音瀬のためにも…自分のためにも…彩音のためにも…。
『人は大切な人を守るために戦い続ける』
彩音に教えてもらった小説の一文。
俺は…負けない。
暗い足取りで家に戻った俺だった。
崩壊への…道が始まった気がした…。