ReSin-ens

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第7章

11月10日(水曜日・文化祭代休)

11月11日(木曜日)

【直哉】「さて、行くか」
【茜】「どこに?」
【直哉】「独り言にいきなり入ってくるなよ」
【茜】「だって、気になるじゃない」
【直哉】「図書館」
【茜】「珍しい事もあるもんだね」
【直哉】「まぁ、この間の続きを読みに行くんだ」
【茜】「そうか。じゃあね~」
【直哉】「じゃあな」

……
………
【直哉】「しかし…ここに来るのも大分慣れてきたな」
俺は図書館のドアを開く。
一般客や大学生、同じ学校の生徒まで沢山の人が居る。
階段を上り、壁で仕切られている…図書館でも異質の希少本置き場に俺は入る。
ここは他の場所とは違い、落ち着いた空気が流れている。
図書館と言う場所でも最も静かな場所。
ドアが部屋の奥にあるが、そこは文芸部への部室につながっていると彩音に聞いた。
俺はカウンターで本を受け取ると、一昨日の本を広げた。
『3章』と書かれたページを見つけると続きを読み始める。
既に、彩音は奥のテーブルで作業の続きをしていた。

……
………
主人公である少年の日常の生活。
しかし…それは屋上から人が落ちてくる事で変わり始めた。
不思議な出会いをした主人公はその子に興味を持ち始めたのだ。
自殺未遂常習犯であるその少女は主人公の運命をかえる。
何故自殺を続けるのだろうか…。

……
………
4章…。
全ての物語がここに集まる。
3章のヒロインの同級生の話し。
夕焼けに彩られた少女は語り出した…。
全てを…。
そして…運命を…。
世界の終わりは………。

……
………
【直哉】「…」
全てを読み終わった時、俺は泣いた。
1~4の話は全てつながっていた。
そして、4章の終わり方は予想を覆すものだった。
【彩音】「どうでしたか?」
いつのまにか、彩音が目の前に居た。
少し視界がぼやける。
【直哉】「いや…面白かったよ」
俺の語彙能力だとこのぐらいの表現しか浮かばなかった…。
でも彩音には伝わるだろう。
【彩音】「そう言って頂けると、嬉しいです」
【直哉】「どうやって、この本を見つけたんだ?」
【彩音】「そうですね…。本棚の隅にある本はあまり読まれていない証拠なのです。どこからとっても皆真中の辺りに本をもどすので…」
【彩音】「自然と隅にある本は辺りに読まれていない本になるのです。ですけど、その中にも面白いものがあると思ってたまたまその本を手に乗ったのです」
【彩音】「実際に読んでみると…その辺りは先輩と同じ考えです」
【直哉】「なるほどな…。しかし、よくあの場所の本を探し出したな」
【彩音】「はい。これで文芸部ですから」
【直哉】「なるほどな…。ところで…、作業は終わったのか?」
【彩音】「はい。全94冊読み終わりました」

……
………
【直哉】「そういえば、彩音は1人で帰るのか」
【彩音】「はい」
【直哉】「夜も遅いし…途中まで送っていくか?」
【彩音】「お誘いは嬉しいのですけれど…実はこの後、部の集まりがありまして…。流石にそれまで待たせる訳にはいかないので…」
【直哉】「そうか…それなら仕方ないな」
【彩音】「はい…」
【直哉】「それじゃあ、俺は帰るよ。それじゃあ、帰り道気をつけて」
【彩音】「ありがとうございます。直哉先輩こそ気をつけてくださいね」
【直哉】「あぁ」

……
………

11月12日(金曜日)

図書館に向かう途中珍しい光景を目にした。
彩音がこっちに向かって歩いてくる。
彩音なら図書館に向かって歩いていくと思うのだが…。
【直哉】「これから部活じゃないのか?」
【彩音】「そのはずなのですけど…今日はいいと…言われまして…」
【直哉】「そんなに珍しい事なのか?」
【彩音】「いえ…休みは…図書館の開館は基本的に毎日で…部員全員で行なうのですけど…」
【直哉】「彩音は今日はいいと言われたと…そういう事か」
【彩音】「はい」
【彩音】「たまに紗もそういうことあるといっていますし…休み…のようなものなのでしょうけど…」
【直哉】「気になると言う事か」
【彩音】「はい」
【直哉】「まぁ、それなら丁度いいや。一緒に帰らないか?」
【彩音】「はい♪」

……
………
【直哉】「へぇ~、まだ鮭トバって売ってたんだな」
【彩音】「鮭トバ!?」
【直哉】「どうした?」
【彩音】「直哉先輩! あたし、鮭トバ大好きなのです!!」
【直哉】「鮭トバが?」
【彩音】「はい♪」
いや…目を輝かせなくてもいいけど…。
【彩音】「特に、ストーブの上で温めると、柔らくて美味しいですよね?」
【彩音】「個人的には皮剥ロールなどもお勧めですけど…」

選択肢
「彩音って…おやじくさいな…」
「確かに…」
「俺は、あまり好きじゃないかも…」

《確かに…》

【直哉】「確かに…柔らかいと食べ安いし…後から味が出てくるのがいいな」
【彩音】「そうですよね、やはり」
【直哉】「そういう意味では…珈琲と同じかも…」
【彩音】「そうなんですか?」
【直哉】「一瞬美味しくても、後味が悪ければ意味がないし…」
【彩音】「やはり、トバは素晴らしいです♪」
【彩音】「お父さんや、お母などは、好きではないのですか? トバ…」
【直哉】「さぁ…な。俺にはわからないや。母親は昔死んでしまったし…父は…ちょっと今居ないし」
【彩音】「ごめんな………さい…」
【直哉】「いや、別に気にする事でもないよ」
【彩音】「でも…1人で暮らしをしているのですよね?」
【直哉】「まぁな…。兄弟とか居る訳でもないし」
【彩音】「凄いですね」
【直哉】「体の自由が利いて楽…と言う利点もあれば、自炊と言う面倒な部分もあるけどな」
【彩音】「あたしは…1人では絶対に無理ですね。寂しくて死んでしまいます…」
【直哉】「どちらかと言うと、音瀬もそういうタイプだな」
【彩音】「紗は…話し相手が居ないと躁鬱状態ですね、きっと」
【直哉】「そうだろうな」
【直哉】「俺は1人でも生きられると思っている人だからな」
【彩音】「人間は1人では生きられませんよ。そういう生き物ですから」
【彩音】「お互い支え合って…お互い補って生きていくものですから」
【彩音】「人間は………『独生独死独去独来』をする生き物ではないですから」
【直哉】「そうかもな」
俺は彩音の肩に手を置いた。
【直哉】「少なくとも、今はそう思う…」

11月13日(土曜日)

11月14日(日曜日)

11月15日(月曜日)

昼、主人公は学食へパンを買いに。

今日は珍しく茜が弁当を買ったから、1人で学食に行く羽目になってしまった。
【直哉】「ん? どうしたんだ、彩音? そんな暗い顔して」
【彩音】「あっ…直哉先輩…。実は、間違って冷たいコーヒーを買ってしまったのです」
【直哉】「あれ? 珈琲はあまり飲まないんじゃなかったか?」
【彩音】「はい…。でも今日は眠くて…。このままだと授業にも支障が出そうなので…」
そういう彩音の手には甘目の缶珈琲とミルクが2つあった。
眠気を珈琲で飛ばす…。
真面目だな…。
【直哉】「なるほどなぁ~。夜更かしして本でも読んでもいたんだろ」
【彩音】「はい…」
【直哉】「ちょっとその珈琲を貸してくれ」
【彩音】「これを…ですか?」
いいながら俺の手に珈琲を載せる彩音。
【直哉】「ちょっと待ってろ」
俺は手に神経を集中する。

……
………
【直哉】「こんなもんかな…。熱いから気をつけて」
俺は彩音の手に珈琲を返した。
【彩音】「えっ? 熱っ…!」
すぐに缶の上下を持つように持ちかえる彩音。
【直哉】「っと、大丈夫か?」
【彩音】「あたしは大丈夫ですけど…。それよりもどうやって―――」
【直哉】「もとから、サイコキネシス…と言うより超能力があってね、ものを温める事が出来るんだ」
【彩音】「まるで、魔法みたいです」
【直哉】「魔法か…それもいいかもな」
人を死に追いやる力の別の側面だけどな…。
【彩音】「あっ、それではあたし、紗が待っているので…」
【直哉】「あぁ。またな」
【彩音】「どうもありがとうございました。それでは」
廊下を走っていく彩音だった。
【直哉】「さてと、俺もパンを買わないと…」
俺は戦場へ身を預けた。

11月16日(火曜日)

【直哉】「彩音は今日はカウンター担当で忙しそうだし…」
【直哉】「さて…なんの本を借りるかな」
【直哉】「たまには…面白いものを読んでみたいものだが…」
さまざまなジャンルによって埋め尽くされた図書館。
…全てを流しながら見ていく。
【直哉】「ん?」
『珈琲の知識』
【直哉】「…どうしてこんなものが置いてあるんだ…?」
【直哉】「まぁいいか…読んでみよう」

……
………
コーヒー‐の‐き【コーヒーの木】
アカネ科の常緑低木。エチオピアおよびモザンビーク原産で、ブラジルをはじめ世界の熱帯で広く栽培されている。
幹は高さ4~6メートル、樹皮は灰白色を帯びる。
枝は水平に広がり、先端はやや垂れ下がる。
葉は短柄のある長楕円形で対生し、長さ7~15センチメートルになる。
葉腋に先が五深裂した白色で芳香のある花を3~7個つける。
果実は紅紫色に熟し、内部に長径約1センチメートルで半球形の種子を二個収める。
取り出した種子をコーヒー豆と呼ぶ。
へぇ…。
やはり元はエチオピアなんだ…。
マスターのいったとおりだった。
珈琲と言えばブラジルが原産のような感じだが、実際はエチオピアが原産といっていた…。
本も…馬鹿に出来ないな。
【中村】「そう、つまりそういう事」
【彩音】「そうですね」
ん? この声は。
俺は後ろを振り返る。
中村先輩と彩音が居る。
何か言い合っている様子だ。
【中村】「やはり、『来る事が出来る』と言う意味で『来れる』を使う人は若い人に多いみたいだわ」
【彩音】「そうですね…。言葉の進化と呼ぶ人もいますけど…」
【中村】「確かにそうね。『とても』と言う言葉が1番それに近いわね」
【中村】「もともと、『とても』は否定形の言葉と一緒に使っていたけど、今だと『とても寒い』などと誇張する言い方にも多く使われているわ」
【彩音】「そうですね。『とてもかなわない』『とてもまとまらない』と言う言い方が『従来』の言い方ですから」
…なんか…凄い会話だ…。
【中村】「世の中には敬語の間違いも多いわね」
【彩音】「そうですね…。『3番線の電車間もなくの発車となっております』等がいい例ですね」

えっと…この場合は…。

選択肢
『3番線の電車、間もなくの発車です』
『3番線の電車、間もなく発車します』
(選択に影響なくシナリオ続行。ただし、正解した場合、遼風の好感度に+10をする)

【中村】「そうね。最も適切なのは、『3番線の電車間もなく発車します』だわね」
へぇ~、『3番線の電車間もなくの発車となっております』は不必要な部分があるのか。
【彩音】「ほかにも…『丁度からお預かりいたします』もそうですね」

えっと…この場合は…。

選択肢
『丁度からお預かり賜ります』
『丁度お預かりします』

【中村】「『丁度お預かりします』で十分」
【中村】「『お客様お1人でよろしかったですか?』もそうね」
【彩音】「中と半端な過去形ですね。『お客様1人でよろしいですか?』で大丈夫ですね」
【中村】「1番気になるのは『去年ご卒業されました』ね。聞くと嫌になるわ」

えっと…この場合は…。

選択肢
『去年ご卒業なされました』
『去年卒業されました』

【彩音】「この場合、『ご』はいりませんね。丁寧語に『ご』や『お』は殆どの場合不必要ですね」
【中村】「そうね。尊敬語にはよく用いるけど、丁寧語には用いすぎると嫌われるわ」
【中村】「それじゃあ、ここで遼風に問題。今から言葉を言うから、その言葉を敬語表現を高くしていきながら言い替えてみて」
【彩音】「はい」
【中村】「『先生が来た』。そうね…大体3種類以上欲しいわね」
敬語表現を高くしていく?
つまり…丁寧語、謙譲語、尊敬語を使い分けろと言う事か?
【中村】「ただし、全部尊敬語を使う事」
えっ?
尊敬語にもランクがあるものなのか?
【彩音】「そうですね…」
そう言いつつ考える彩音。
【彩音】「『先生が来られた』『先生がおいでになった』『先生がいらっしゃった』『先生がおいであそばした』でしょうか」
【中村】「流石ね」
【彩音】「ありがとうございます」
【中村】「私も音瀬と同じ事言うけど、話し言葉検定でも受けたらどう?」
【彩音】「…そうですか?」
【中村】「彩音なら絶対合格すると思うわ」
【彩音】「そんな…」
【中村】「それじゃあ、最後の問題」
【彩音】「はい」
【中村】「尊敬語は、助動詞『れる・られる』、接頭語『お・ご』、接尾語『様・どの』をつけると完成するけど…特殊な単語の例を挙げてみなさい」
【彩音】「つまり、『不規則変化』する単語を挙げればいいのですね?」
【中村】「まぁ、そうなるわね」

選択肢
『先生』
『わたくし』

【彩音】「そうですね…。いらっしゃる…めしあがる…おっしゃる…下さる…お召しもの…芳名…などでしょうか」
【中村】「すぐ出てきたわね。他にも、貴社、先生、貴殿、召し上がり物、なさる、などがあるわ」
【彩音】「そうですね」
【中村】「まぁ、上出来ね。『わたくし』などは謙譲語にあたるから気をつけてね。まぁ遼風は大丈夫だったけど」
【中村】「結局、最終的には、その場にあった言葉を使う事が最も言い方法だわ」
【中村】「言葉は確かに進化してきたし、これからも進化していくと思うわ。さまざまな表現のある中から最も適切なものを選んでいけば言いと思う」
【中村】「最も、間違う事なく使えられれば…だけどね」
【彩音】「そうですね」
うん。少し賢くなった気分だ。
【中村】「そうそう、新しい小説を書いてみたんだけど、読んでみる?」
【彩音】「先輩がよければ」
【中村】「私が見せると言っているのだから、いいに決まっているじゃない」
【彩音】「ありがとうございます」
【中村】「はい、これ」
【彩音】「ありがとうございます。今度読ませて頂きますね」
【中村】「こちらこそ、批評お願いするわ」
【中村】「やはり、遼風みたいに、ずばずば言葉の間違い否定してくれないと駄目だわ」
【中村】「国語の先生なんて頼りにならないし…」
【中村】「遼風は、丁寧な言葉使いだけど、尊敬語を使っているとまでは行かないから、ちょうどいいのよ」
【中村】「変に尊敬語を使われると今の人は嫌うみたいだし…」
【中村】「『丁寧』な言葉遣い…と言うのは間違いね。遼風の言葉遣いは『優しい』だと私は思っているわ」
【彩音】「『優しい』…ですか?」
【中村】「そう、優しい。『丁寧な言葉遣い』とは少しだけ違う…。人に安心感を与える『優しい言葉遣い』それが彩音の言葉だと思うわ」
【中村】「まぁ、遼風にしてみれば、尊敬語も敬語も丁寧語も全部、余裕だろうけど」
【彩音】「あたくしがそのようなお言葉を賜るとは…勿体無き事に御座います」
【中村】「こらこら、わざと使わない♪」
【中村】「まぁ、いいの。私は遼風にお願いするわ」
【彩音】「中村先輩は図書館に居る時と、他の場所に居る時の言葉の差が凄いですからね」
【中村】「いいのよ。私は元々毒舌なんだから」
【彩音】「あたしは、いい事だと思います。最近の人は歯切れが悪いみたいですし…」
【中村】「自己主張が足りない…と言いたいのでしょう?」
【彩音】「はい」
【中村】「育ち方の環境みたいだけどね」
二人の会話はまだまだ続いた。

……
………
【直哉】「もう…こんな時間か」
時計を見て驚く。
既に7時を回っていた。
彩音は…まだ仕事中みたいだな…。
さて、それじゃあ俺は帰るか。

……
………
ストーブをつけ、その前で待機する。
【直哉】「寒いな…今日は」
天気はいいのにやたらと気温が低い。
放射冷却と言う奴だろうか。
【直哉】「こう言う時は…やっぱり温泉だよな」
表面から温められるストーブより、体の中心から温める温泉の方がいいだろう。
いい加減、服からもアイロンを掛けたような匂いがしてきた。
【直哉】「いくか」
家の風呂より湯冷めしない温泉。
水明温泉へと俺は向かった。

……
………
【七夏】「最近は随分と来るな」
帰り際そんな事を言われた。
【七夏】「まぁ、私には関係無いことだがな」
【直哉】「冬だしな…温まりたいし」
【七夏】「まっ、いつでも来てくれ。たまには256倍ぐらい料金払ってもいいから」
【直哉】「それは遠慮しておくよ。んじゃ」

……
………
【直哉】「こんばんは。彩音」
【彩音】「あっ…。こんばんは、直哉先輩」
【直哉】「こんな時間に何をやっているんだ? 温泉か?」
【彩音】「惜しいけど、ちょっと間違いです」
【直哉】「間違い?」
【彩音】「あたし、温泉の帰りには必ず緑地に星を見に行きます」
【直哉】「緑地?…あぁ、あそこの小さな公園みたいなところか」
【彩音】「はい」
【直哉】「それにしても、こんな時間に1人で危なくないか?」
【彩音】「よく、両親におこられてしまいます…」
【直哉】「怒られても…いくぐらい好きな訳か…」
【彩音】「はい。一週間に2、3回は見ます」
【直哉】「なるほどな…。道理で目が悪くない訳だ…」
【彩音】「そうですね」
【直哉】「しかし…。寒くないか?」
【彩音】「水明温泉は湯冷めをしませんから…」
【直哉】「確かにな…。それによく見ると、かなりの厚着だな」
【彩音】「そうですか? 丁度いいぐらいです。流石に温泉に入った後は暑いですけど…」
【直哉】「普通の時も暑いと思うんだけど。一体何をきているんだ?」
【彩音】「下着に…クルーネックの長袖に…タートルネックのセーターに、このコートですね」
【直哉】「聞いただけで汗が出てきそうだ」
【彩音】「寒がりですから…」
【直哉】「その割に、手袋ははかないんだな。手足が1番寒いと思うんだが」
【彩音】「ニーソックスをスカートの下に穿いているので。それに手はこうすれば暖かいですから」
そういうと、俺の手に彩音は指を絡めた。
【直哉】「確かにそうだな」
少し恥かしくなりながらも俺は答えた。
【直哉】「制服の方も暖かそうだしな」
【彩音】「そうですね。鈴高の制服は暖かくていいですよね」
【直哉】「女子の制服は着た事無いけど、見た目は暖かそうだな。雪国と言う感じだな」
【彩音】「はい。それにロングスカートは体形も隠せますから」
【直哉】「まぁ、その辺は彩音には関係ないけどな」
【彩音】「ちょっと痩せ過ぎなぐらいです」
【直哉】「世の中の太っている事を気にしている人を敵に回すような発言だな」
【彩音】「そっ、そんなつもりでは―――」
【直哉】「わかってるさ、彩音に悪気が無い事ぐらい」
【彩音】「はい…」
【彩音】「あっ、あまり遅くなると心配させてしまうので」
【直哉】「あぁ。引き止めてしまって悪いな」
【彩音】「いえ。それではまた」
【直哉】「またな」

11月17日(水曜日)

11月18日(木曜日)

===共通イベント===

学校も終わり、夕方。
【直哉】「あちゃぁ…やっちまった」
冷蔵庫の中身はほとんど無いに等しい。
【直哉】「しょうがない…買いに行くか」

……
………
いつも店の前。
ここは品揃えもよく、値段もそこそこ安い。
気になるのはその肉売り場の面積の広さ。
他の店の倍はあるだろう…。
【直哉】「さて…どうするか」
1週間分のメニューを頭の中で組みたてながら俺は買い物を進めていく。
【直哉】「ん? ローリエ?」
【直哉】「へぇ~、珍しいものをうっているもんだな」
瓶づめにされたローリエが俺の目の前にある。
臭みを取るのにも使えたような気がするけど…。
あまり自信が無いな…。
しかし…こうよく見てみると色んなものが置いてあるもんだな。
コリアンダーに…カイエンペッパー…マサラ…。
おいおい…インド料理でも作るのか?
ホムデンは…紫玉葱でも問題ないし…。
ゲーンキョワーンでも作ってみるか………。
やめよう…。
時間がかかりそうだしな…。
さて、あとは…あっ…パンを買わないと。

……
………
【店員】「5489円になります」
【店員】「6000と89円からお預かりします」
【店員】「600円のお返しです。ありがとうございました」
会計を済ませると俺は買い物カゴから袋へ商品を移していく。
【彩音】「こんにちは、直哉先輩」
【直哉】「こんにちは、彩音。びっくりだな、こんなところで会うなんて」
【彩音】「あっ、紹介しますね。私の父と母です」
【彩音の父】「彩音の父親の真也だ」
【彩音の母】「彩音の母の薫です」
【直哉】「えっと…居元直哉です」
【彩音の父】「いつも彩音がお世話になっているそうで」
【直哉】「あっ、…はい」
【彩音の母】「優しそうな人でよかったわね、彩音」
【彩音】「そうな…ではなく、優しいですよ、直哉先輩は」
…自分で言うのもなんだが優しそうには見えないと思うぞ…俺は…。
でも…変化しているのも確実だけど…。
やはり…心で人の顔も変わるものなのだろうか。
【彩音】「そういえば…1人暮しですよね」
【直哉】「まぁ、1人暮しと言えば1人暮しだな」
一応二人なんだけどな、居ないも同然だし。
お金だけは置いていくけど…。
【彩音の父】「それは凄いな」
【直哉】「なれればそれほどでもないですよ」
【彩音の母】「でも、何かと大変ですよね」
【直哉】「まっ…まぁ」
【彩音の母】「いつでもいらしてくださいね、我が家に。いつでも待っていますから」
【直哉】「そんな…」
【彩音の父】「なんといったって、彩音の恋人だからな」
【直哉】「そっ…そんな」
二人で俯く。
【彩音】「おっ、お父さん、ほら急いで戻らないと、ドラマが始まってしまうよ」
【彩音の父】「しまった…。今日はサスペンスものが入る日なんだ」
【直哉】「あっ、それでは俺はこの辺で」
【彩音】「さようなら、直哉先輩」
【彩音の父】「じゃあな、居元君」
【彩音の母】「それでは、居元君」
【直哉】「あっ、はい。それでは」

11月19日(金曜日)

【彩音】「おはようございます、直哉先輩」
【直哉】「おはよう」
【彩音】「今日は暖かいですね」
【直哉】「あぁ、気温もプラスになるらしい」
【彩音】「そうなのですか?」
【直哉】「しかし、寝坊でもしたのか? こんなギリギリの時間に」
【彩音】「毛布は…凶器でした…」
【直哉】「へ?」
【彩音】「昨日新しい毛布を出したのですけど…あまりに暖かくて…」
【直哉】「ぐっすり…と言う事か」
【彩音】「はい…。まだ眠いです」
【直哉】「ぐっすり寝たんだから問題無いような気もするんだが」
【彩音】「いえ…。低血圧ですから…目がきちんと覚めるまで…ふぁぁあ…」
【直哉】「なるほどな」
【彩音】「紗にも置いていかれてしまいました…」
【直哉】「辛いなそれは…」
【彩音】「一緒に行きましょう」
【直哉】「あぁ」

……
………

===イベントライブラリーより・茜、昼を使用===

【直哉】「…」
僅かに残っている雪の上で足を前後に滑らせる。
雪は既に凍っている。
気温からいっても今日は大丈夫だろう。
【直哉】「…」
もうすこし…かな…。

……
………
大分滑るようになってきた。
【彩音】「お待たせしました」
【直哉】「よっ、彩音」
掃除も終わり、俺は玄関で待っていた。
彩音の話しだと、珍しく部活の仕事が休みらしい。
【彩音】「最近…中村先輩が優しくて…。なぜだか休みが多く回ってくるような気がするのです」
【直哉】「そうなのか?」
【彩音】「はい。基本的に平日は毎日部活があり…図書館を開館するのがあたし達の仕事なのですけど…」
【彩音】「まぁ…交代制なんですけどね…」
【直哉】「へぇ~」
【彩音】「今日も休みなのです」
【直哉】「そうなんだ」
【彩音】「ところで、先ほどから何をやっているのですか?」
【彩音】「足を前後に動かして…」
【直哉】「罠を仕掛けているんだ」
【彩音】「罠…ですか?」
【直哉】「ほら、摩擦熱で氷を溶かしてつるつるにして滑り安くする奴」
【彩音】「酷い事…やっているのですね」
【直哉】「彩音はやらないのか?」
【彩音】「やらないですよ」
【直哉】「まぁ、お馴染みだし…。ほら、いくぞ」
【彩音】「はい。………きゃっ」
【直哉】「んっと…。早速引っかかるなよ」
【彩音】「すみません」
【直哉】「とりあえず、支えているこっちも疲れるから早く立て直せ」
【彩音】「はい…」
【直哉】「気をつけろよ」
【彩音】「誰が仕掛けた罠ですか」
【直哉】「俺だけど…」
【彩音】「直哉先輩が悪いじゃないですか」
【直哉】「だから支えてやったじゃないか」
【彩音】「そうですけど…」
【直哉】「ほら、いくぞ。気をつけろよな。転んで足かけられると二人とも共倒れだ」
【彩音】「直哉先輩が絶対悪い…」
彩音の抗議を無視して商店街に向かう俺だった。

……
………
買い物もあらかた済んで、夕方の色が濃くなってきた。
【彩音】「居元先輩♪ この商店街のタイルの橙色のところは爆弾があるんですよ♪」
【直哉】「はぁ? 何いってるんだお前」
【彩音】「だから、踏まないで下さいね。っと」
そういいながら、茶色のタイルだけ踏んでいく彩音。
半ば呆れながら後ろから普通に歩いていく。
【彩音】「きゃっ」
見ているとバランスを崩して転びそうになる。
【直哉】「おいっ!」

★★★イベントCG(抱きかかえる・商店街)★★★

後ろから抱きかかえるかっこうでささえる。
【彩音】「あっ…ありがとうございます…」
俺の腕の中で赤くなりながら上目使いでのお礼。
遠慮した顔、恥かしい顔、嬉しい顔………色んな表情が一度に交錯する。
ちょっと恥かしい…。
周りにも人が居る。
平日最終日、買い物帰りの女性だろうか、こちらをイヤらしい目つきで見てくる。
高校生だろうか…俺が目を向けると、明らかにわざとらしく目をそらす。
そういえば…俺、どこを抱きしめているんだ?
彩音の身長から言って…。
彩音に気づかれないように自分の手元を見る。
………。
ぎりぎり?
もう少し?
………残念?
………って、違う!
【直哉】「早く自分の足で自分を支えろ」
自分の危ない妄想をかき消す。
【彩音】「はう~っ…、ごめんなさい………」
【直哉】「ったく、言わんこっちゃない」
【彩音】「うぅ~…」
【直哉】「ほら、行くぞ」
【彩音】「はい………」

……
………
【音瀬】「こんにちは~」
【彩音】「あっ、こんにちは」
【直哉】「こんにちは」
【音瀬】「居元先輩、見ちゃいましたよ♪ 隅に置けない方ですね」
【直哉】「なっ…まさか」
【音瀬】「はい♪ 転びそうなところを後ろから抱きしめて守る…。素晴らしいです」
【直哉】「はぁ…」
【音瀬】「それではお邪魔虫は退散しますね~」

===SE・走る===

行ってしまった…。
しかし…よりによって音瀬に見られてしまうとはな…。
【彩音】「さっ…さて、私達も行きましょう」
【直哉】「なんで焦る」
【彩音】「何でもないです」
【直哉】「そうか?」

……
………

制作: 2002年
初出: 2003年11月23日
更新: 2005年4月27日
企画: 詩唄い
著作: 鈴響 雪冬
制作: 鈴響 雪冬
Copyright © 2002-2005 Suzuhibiki Yuki

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