ReSin-ens

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第6章


……
………
【放送】「本日は鈴木野原大学付属高等学校文化祭に来て頂き誠にありがとうございます」
【直哉】「もう、そんな時間か」
文化祭の終わりを告げる言葉が放送される。
【放送】「まもなく、文化祭は終了となります。また、来年度もよろしくお願いします」
【直哉】「さて…教室に戻るか」

……
………
【直哉】「それでは、片付けをはじめます」
【茜】「へぇ~。直ちゃんが自分からリーダーシップを取るなんて…珍しいね」
【直哉】「誰かさんの策略にはまったからな…。はまったからには最後まで責任を取らないと」
【茜】「うん♪ 頑張ってね直ちゃん。月曜日の後片付けで終わりだから」
【直哉】「おう」
【直哉】「それでは、大きいものは今日のうちに片付けてしまって、月曜日は簡単な掃除だけになるようにしましょう」

……
………
【担任】「よし。それじゃあ、今日はお疲れ様だ」
【担任】「明日も学校だが、午前中で帰れる。今日は疲れをよく取るように。それじゃあ、号令」
【号令】「さようなら」
【クラス一同】「さようなら」
【担任】「さようなら」
【茜】「直ちゃん、ちょっと今日は用事があって一緒に帰れないから…」
【直哉】「わかった。しかし、わざわざそんな事いいに来たのか?」
【茜】「一応だよ♪」
【直哉】「じゃあな」
【茜】「うん。また明日」
教室を出る。
クラスの奴にさよならを言われ、相槌を打ちながらも俺はこれからどうするか考えた。

選択肢
「遼風を迎えに行く」

《遼風を迎えに行く》

【直哉】「遼風でも…迎えに行くか」

……
………
【直哉】「まだ終わってないのかよ…」
まだ文芸部員が図書館を片付けていた。
まぁ、あれだけの人がくれば…片付けも大変だよな…。
【遼風】「あっ、居元先輩」
【直哉】「よぉ。遊びにきた」
【遼風】「ごめんなさい…。見て頂ければわかるのですけど…」
【直哉】「あぁ。まっ、俺も手伝うよ」
【遼風】「本当ですか?」
【直哉】「あぁ、任せておけ」
【遼風】「それでは、お願いします」

……
………
【直哉】「あらかた片付いたな」
【遼風】「そうですね」
【中村】「よし。それじゃあ、残りは2年生…お願いする。準備をやった1年生は解散! お疲れ様!」
【一年生一同】「お疲れ様でした!」
【直哉】「ご苦労様」
【遼風】「居元先輩のおかげで早く終わりました」
【直哉】「ほとんど手伝ってないけどな」
【遼風】「先輩が居るだけで、やる気が出るのです」
【直哉】「そういうものか…。とりあえず、外に出るか」
【遼風】「そうですね」

……
………
【遼風】「先輩、あれ見て下さい」
商店街のイベント広場に差し掛かった頃、遼風が指を指す。
俺はそっちの方を向く。
【直哉】「ん? 大食い大会?」
遼風が指を刺した先には大食い大会の幟がのぼっている。
時間制限1時間。
【遼風】「ケーキ…の大食い大会のようですね…」
【直哉】「あぁ。そうみたいだな…。しかしこんな寒い日にやるのもどうかと思うけどな」
【遼風】「ちょっと見に行ってみませんか?」
【直哉】「あぁ、別にいいけどな」

……
………
【直哉】「なんだかなぁ…」
既にステージの上には遼風が居る。
参加費1000円を払い、参加受付をしてしまっていた。
他の大柄の男達に囲まれ、端っこに鎮座している。
【進行】「それでは…よーい―――」

===SE・火薬拳銃===

火薬拳銃の音と共に全員が一斉にケーキを掴みとる。
…いや…1人フォークを使って丁寧に食べている遼風が居た。
遼風に聞いた話だと、ルールはこうなっているらしい。
時間制限1時間のうちにどれだけのケーキを食べられるかを競い、ギブアップはその時点での枚数で争そう。
ケーキの種類は数種類から選ぶ事が出来、途中での交換も可能。つまりバイキング方式だ。
優勝者には5万円分の商店街の商品券が与えられ、敗者は、食べたケーキの値段を支払うと言うオーソドックスなルールだ。
しかし…ゆっくりだ…。
他の男達が既に2桁目の皿を食べる中、いまだに1桁…。
でも…数だけはこなしていく。
そういえば…遼風…昼…かなり食べてたよな…。
そんな不安がよぎる。

……
………
開始20分、1人の男が脱落した。
それに続くように他の男達もギブアップしていく。
残りは4人…。

……
………
開始30分、1人の男がラストスパートを掛けた。
着々とつまれていくケーキの皿。
既に何皿目だろうか…。
それを見た二人の男がギブアップをした。
遼風は…相変わらずマイペースで食べ続けている。

……
………
開始40分、残った男と遼風の皿の差は8枚。
ラストスパートの後、しばらくして男のペースは落ちてはいたが、遼風との差は広がっていた。
一方、開始当時からのペースを保っている遼風。
男がそれを見て安心したのか、食べるのを止めた。
しかし、ギブアップはしない…。
安全策なのであろう…。

……
………
開始45分。
心なしか、遼風のペースが上がった気がする。
両者の皿の差は5枚。
その差は着々と埋まっていく。
ここまできてついに男の顔に狼狽が浮かびはじめた。
男はケーキを再び食べ始める。
しかし、一度反応をはじめた満腹中枢はなかなかケーキを受け付けない。
一方、遼風はさらにペースを上げながらケーキを食べている。
終了2分前、遼風はついに皿の枚数が並んだ。
男も必死に食べ続ける。
そして…

===SE・火薬拳銃===

遼風は、ゆっくりとフォークを置くと、
【遼風】「ごちそう様でした♪」
満面の笑みで、ただ一言だけ言った。
会場全体が歓声に包まれる。
終始笑顔の遼風はステージの上で商品券を受け取り、準優勝の男と握手をすると、まだ喧騒の残る観客スペースに戻ってくる。
【直哉】「…おめでとう」
半ば驚きながら言う。
【遼風】「先輩こそ、応援ありがとうございます」
【直哉】「しかし…よく食べたな…」
【遼風】「以前にも言いましたよ。食べろと言われれば食べられます、と…」
【直哉】「確かに聞いたけど…ここまでとは…」
【遼風】「そうですね………うぅ…流石にお腹がいっぱいです…」
【直哉】「少し休むか? それとも歩くか?」
【遼風】「それでは、歩きましょう」

……
………
【直哉】「しかし…その小さい体にどれだけのケーキが入るのか…」
【遼風】「甘いものはべつばらと言いますし…」
【直哉】「太らないのか? って…太りにくい体質っていってたか…」
【遼風】「元々太りにくいですよ。人間には太り安い人と太りにくい人、普通の人と言うのが居るそうです」
【遼風】「遺伝子の情報や、脂肪細胞の数によって変わるそうですが…」
【遼風】「あたしは、太りにくい体質です。脂肪細胞も元々少ないようですし…それに、食べたその時からカロリーの消費が始まっているので」
【直哉】「そういえば、テレビでいってたな…。食べても太らない人は基本カロリー消費が250Kcal違うって…」
【遼風】「女性はカロリーの消費を押さえる体質ですが、中にはあたしのように基本カロリー消費が多いひとも居るのですね」
【直哉】「それは遺伝子の影響なのか?」
【遼風】「基本カロリー消費に関してはそうです。ですけど、脂肪細胞の量に関しては第1次性徴、第2次性徴で決まってしまうらしいです」
【直哉】「なるほどな…」
【遼風】「私は遺伝子的に見てもカロリー消費が普通より多い上に、脂肪細胞も少ないので比較的太りにくい…と言う事ですね」
【直哉】「恐ろしいな…。しかし、何枚食べたんだ?」
【遼風】「…わかりません…」
【直哉】「そりゃそうだろうな」
【遼風】「でも、ケーキ、美味しかったですよ」
【直哉】「それは、よかったな」
【遼風】「はい♪」
【直哉】「商品券ももらえたしな」
【遼風】「そうですね…両親にお土産でも買いましょうか…」
【直哉】「それは、遼風の自由だな」
【遼風】「そうですね♪ 少し、買い物に付き合って頂けますか?」
【直哉】「あぁ」

……
………
【直哉】「しかし…寒いと思ったら雪か…」
【遼風】「そうですね…」
【直哉】「初雪のすぐ後にまた雪がふる…と言うのも珍しいな」
【遼風】「そういえば…そうですね」
【直哉】「広場にでも行ってみるか」
【遼風】「はい」

……
………
秋の夕日は釣瓶落。
見上げた空は、茜色から桔梗のような色になり、群青色(ぐんじょういろ)になり、辺りは宵闇に包み込まれていた。
空には月がかかり、遠くの方に蛍が飛んだように淡い光りを作りだしている。
楽しい時間はやはり、早く過ぎてしまうのものか…。
しかし…今日は色んな事があったな。
文化祭がその中心だろうか…。
マスターの来店、遼風との文化祭散策。
…無事マスターをやり終えた充実感より、何か大きいものをやり遂げた感覚に教われる。
隣を歩く遼風。
小さくて…なぜか守ってあげたいと言う感覚に包まれる子。
なぜか…この子には俺がついていないといけない気がして…。
硝子の様に脆くて、すぐにでも壊れてしまいそうで…。
でも………本当に守られているのは俺かもしれない。
俺の方が脆いのかもしれない。
でも遼風がそんな俺を支えてくれているのか…不思議と心が落ち着く。
いつのまにか、商店街の中央、広場にきてしまった。
既に、クリスマスツリーが準備されていた。

★★★イベントCG(告白・商店街)★★★

まだ雪の積もっていないツリーを見上げている遼風
その横顔には商店街の明かりが映っている。
…今しか…無い。
【直哉】「なぁ、遼風」
【遼風】「なんでしょう?」
いいながら俺の方に向きかえる…。
こう言う時…なんていっていいんだろう…。
今まで一度しかこう言う事はいってない…。
しかも、1回目の事は…もう。
【遼風】「どうしましたか?」
彼女は先へと促す…。
…決めた…。
今度こそ…俺は…決して誰も殺さない。
もう…哀しい思いはしたくないんだ…。
力を…信じよう…。
自分に正直に生きる事は…辛いけど………。
【直哉】「遼風………………俺は……遼風の事が好きみたいだ…。どうしようもなく好きだ」
刹那、驚いた顔を見せる遼風。
しかし、俺はその顔を長い間見つめる事が出来ずに、俯いてしまった。
長い時間が経ち、俺は正面に顔を戻したら彼女は微笑んでいた。
【直哉】「なぁ…俺はどうすればいいと思う?」
【遼風】「…そんなの…決まっているではないですか…。その想い…付き通して下さい」
【遼風】「私は…先輩なら受け止めます」
【直哉】「そうか………ありがとう」
【遼風】「それでは、あたし達は今日から恋人同士ですね。嬉しいです…先輩からいって頂けるなんて」
【遼風】「あたしも好きでしたから………」
【遼風】「あたし…あまり人と付き合った事がないので…」
【直哉】「あぁ………」
【遼風】「………よろしくお願いします。直哉先輩」
【直哉】「まぁ、俺もほとんどないけどな…」
【直哉】「しかし………、名前で呼ばれるのも恥かしいものがあるな…」
【遼風】「直哉先輩も遠慮なく、名前で呼んで下さい」
【直哉】「そうか…それじゃあ………よろしく…彩音」
【彩音】「はい♪」
ふわっと彩音は俺に笑って見せた。
【彩音】「それでは、直哉先輩♪ 行きましょう」
【直哉】「どこに?」
【彩音】「…わかりません…」
【直哉】「まぁ、今まで通りでいいじゃないか。1つづつ進んでいけば」
俺達は商店街を出た。
…しかし…本当は、進むのが怖かったのかもしれない。
いや、怖いんだ。
当たり前だ。
大切な事だから。
人を嫌いになる事は簡単でも、好きになる事は難しい。
傷つくのが怖いから…。
でも…彩音と一緒なら…それも乗り越えられそうだ。
よろしく、彩音。
こんな俺でも、よろしくな…。
【彩音】「どうかしましたか? 先輩」
【直哉】「いや、何でも無い。ちょっと黄昏ていた」
【彩音】「そうですか。それでは、私の家はこちらですから…」
【直哉】「あぁ。じゃあね」
【彩音】「はい。それではまた」

11月8日(月曜日・文化祭後片付け)

【直哉】「しかし…片付けが終わった後は…何もする事が無いな…」
昨日はなぜか凄くやる気が出て恐ろしい勢いで片付けてしまった。
【直哉】「残りは…これだけなんだが…。義明、これはどこから持ってきたんだ?」
【義明】「…麻子先生のところ」
【直哉】「はっ? ウェイトレス、ウェイターの服の次は、この台も七川原先生の持ち物か」
【義明】「何でも、保健室においてあったらしい」
【直哉】「あの部屋…地下室でもあるのか?」
【義明】「まぁ、とりあえず、保健室に持っていけばいいんだよ」
【直哉】「それもそうか」

……
………
【直哉】「終わったな」
【茜】「うん。それじゃあ、代表の直ちゃん、挨拶よろしく」
【直哉】「はっ? またそれか…」
【茜】「終わりよければ全てよし」
【直哉】「しゃーねーな…」
普段の俺なら絶対嫌だったが、なんか今日は気分がいい。
と言うより、文化祭の前辺りからなぜか気分がいいのだ。
【直哉】「えっと…皆さん、文化祭お疲れ様でした!」
【クラス】「お疲れ様~!」
【担任】「よし、それじゃあ、後片付けも終わったし、解散っ!」
皆それぞれの道へ戻る。
さて、俺はどうするか。
【茜】「ねぇねぇ、ご苦労さん会しない?」
【義明】「それ、賛成」
【直哉】「あぁ、いいな。俺、ちょっと前に開店した店知っているからそこに行かないか?」

……
………
結構この店にきている気がする…。
【店員】「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
【茜】「三人です」
【店員】「三名様ですね。それでは25番テーブルにご案内します」

……
………
【義明】「それにしても、直哉がこんな店を知っているのが意外だな」
【茜】「うん」
【直哉】「結構酷い事いっていないか?」
【義明】「前にも来た事はあるのか?」
【直哉】「あぁ。2回ぐらいかな…」

===注意・シナリオ分岐のために、彩音ルート突入前には彩音と一緒にきている事===

【義明】「1人でか?」
【直哉】「まぁ、1回目はそうだな」
【茜】「えっ!? それじゃあ、2回目は誰と来たの?」
【直哉】「茜には紹介しているよな。彩音と一緒に来た事がある」
【茜】「あっ、遼風さんと…」
【義明】「ぉ? おい、直哉。彩音って誰だよ」
【茜】「うーんと…、直ちゃんの………彼女?」
【直哉】「おいおい。俺の替わりに答えるなよ」
【義明】「つまり、彼女と言う事だな」
しまった…。
【直哉】「………まぁ、そうなるかもしれないな」
【茜・義明】「え゛ーーっ!!」
【直哉】「おい、こら。そんなに騒ぐな」
【茜】「直ちゃんに…女の子が?」
【義明】「ぜってー嘘だ。こんな奴に女が出来る訳無い」
酷いぞ…。
【直哉】「俺に彼女が居て悪いか」
【茜】「私は全然構わないけど」
ちょっと表情が曇る。
【茜】「応援してるよ! 頑張ってね」
【義明】「あとで…殺す」
おいおい。

……
………

11月9日(火曜日・代休)

【茜】「おはよー」
【直哉】「ちょっと待ってろ、ドア開けるから」
朝…いつもよす少し早く起きた朝は、賑やかにはじまった。
【茜】「おはよう」
【直哉】「あぁ、おはよう」
【茜】「朝ご飯作りに来たよ」
【直哉】「どうしたんだ? いきなり」
【茜】「ん? 暇だったから」
【直哉】「おいおい…」
【茜】「ちょっと台所借りるね」
【直哉】「あっ…あぁ…」
茜の雰囲気に圧倒されながらも俺は台所を明け渡した。
【茜】「…ねぇ…直ちゃん…。なんで使えそうな食材がほとんど残っていないの?」
【直哉】「結構あると思うけど?」
【茜】「そうじゃなくて、和食に使えそうな素材」
【直哉】「和食? そんな面倒なの俺が作るわけ無いじゃん」
【茜】「しょうがないな~。買い物に行くよ」
【直哉】「まじか…」

……
………
【直哉】「しかし…こんなに買いこんで…大丈夫なのか?」
【茜】「いいのいいの。どうせお金を払うのは直ちゃんだし」
【直哉】「へっ?」
【茜】「当たり前だよ。直ちゃんの食事なんだし」
【直哉】「マジかよ…」
【茜】「当然」
ネギに…春菊…玉葱…秋刀魚…ホッケ…なんか…久しぶりだな…こう言うの。
【茜】「大丈夫だよ。3000円ぐらいだし」
【直哉】「結構いたいと思うぞ…」
【茜】「偏った食生活をなおすためです。諦めなさい」
【直哉】「はーい…」

……
………
【茜】「おまちどうさま」
味噌汁のいい匂いがしてきたと思った頃、茜がトレーに食事を持ってきた。
【直哉】「おぉ~…。なんか新鮮だな」
【茜】「そうでもないと思うけど」
【直哉】「いや、俺にとっては久しぶりの和食だからな」
【茜】「そう」
【直哉】「んじゃあ、遠慮無く頂くとするよ」
【茜】「うん♪ 私も、頂きます」
ちょっとまてよ…茜も買ってきた食材で自分の料理を作っているんだよな…。
ちょっと損した気分…。
【直哉】「ん? 結構いけるぞ」
【茜】「当たり前だよ」
【直哉】「うん…。たまにはこう言うのもいいかもしれない」
【茜】「直ちゃんは普段どう言うのを作っているの?」
【直哉】「ん~、まぁ基本的には洋食だな…。ピザとかもソースから作れるぞ。まぁ和風ソースは作らないけどな」
【茜】「和風ソース?」
【直哉】「あぁ。醤油と鶏がらスープ、砂糖、みりん、水溶き片栗粉を使って作るんだけどな」
【茜】「和風ソースか…今度試してみよう」
【直哉】「まぁ、わからない事があったら聞いてくれ」
【茜】「それじゃあ、直ちゃんはピザを作れるの?」
【直哉】「まぁ、予備発酵無し、有りどっちも作れるけど…楽な予備発酵無しぐらいだったら作ってやってもいいぞ」
【茜】「作れるんだ…」
【直哉】「でもピザソースは流石に売り物じゃないと難しいな…普通のタイプは。トマトペーストとか使ってると金がかかってしょうがない」
【茜】「今度、作ってちょうだい」
【直哉】「材料費は茜持ちな」
【茜】「うぅ………わかったよ」
【直哉】「交渉成立」

……
………
【茜】「ねぇ、直ちゃん。この後暇?」
【直哉】「茜ならわかるだろ?」
【茜】「そうだね。それじゃあ、図書館に行こう」
【直哉】「………まさか、哲学書か」
【茜】「うん」
長くなりそうだ

……
………
いつも思うけど、広いな。
一部大学と共有、市民に開放と言う事でかなり広い。
茜の話だと、専門書はこっちの方が市民図書館より種類が多いらしい。
【直哉】「さてと、俺はどうするかな」
既に、茜は1人で本を探しに行ってしまったし…。
茜が迎えに来るまで暇なんだよな。
【直哉】「う~む」
【女の子】「どうしました? 居元先輩」
後ろから声を掛けられた。
後ろを振り向くと、彩音が居た。
【直哉】「あれ? 今日は学校は休みだろ?」
【彩音】「休みでも、図書館は開放しないといけませんから…」
【直哉】「なるほどね。ちなみに、色々あって、暇を持て余していたところだ」
【彩音】「そうですか…。そういう時は読書です」
【直哉】「いや…読む本が無いから暇なんだ。何かお奨めはあるか?」
【彩音】「あたしの…ですか?」
【直哉】「あぁ」
【彩音】「そうですね………こちらにて来て頂けますか?」

……
………
【彩音】「これなんてどうでしょうか?」
そういって、案内されたのは、図書館でもかなりの奥にある場所だった。
2回なんてほとんど来る機会が無い。
そのなかでも、ここはかなりの奥。
古い本独特の匂いがしている。
そして、彩音が取った本は…
『空[sora]』あとは汚れていて読めなかった。
【直哉】「これは、どういう本なんだ?」
【彩音】「オムニバス形式の恋愛小説です。珍しい形式で、章ごとに別れているのですけど、話には実はつながりがあって…。と言うお話です」
【直哉】「へぇ…」
【彩音】「オムニバスなので章ごとに視点がかかわります。たとえば1章は病弱なヒロインと主人公の恋…みたいに…」
【直哉】「よくありそうな話なんだが…」
【彩音】「それなら、あたしはお奨めしませんよ。読めばわかります」
【直哉】「なるほどなぁ…。ちょっと読んでみるか」
【彩音】「ぜひ、そうして下さい。あっ、希少な本なので、扱いには気をつけて下さい」
【直哉】「わかった」
【彩音】「持ち出し禁止。直射日光厳禁です」
【直哉】「そこまで厳しいのか?」
【彩音】「ですから、こちらに来て頂けますか?」

……
………
人工証明だけの場所に案内された。
蛍光灯の照明ではなく、黄色がかった白熱電球だ。
本に優しい…と言う事なのだろう。
俺がテーブルに着くと遼風も同じテーブルに着いた。
それと同時に、
【中村】「それじゃあ、遼風、お願いするね」
【彩音】「はい」
中村先輩が遼風に話しかけていた。
彩音の返事と共に、文芸部の生徒であろう人が、本を次々と運んでくる。

……
………
テーブルの横に詰まれた本、約100冊。
【直哉】「それ…どうするんだ?」
【彩音】「読みます」
【直哉】「読む!?」
【彩音】「しーっ…」
と笑いながら指に手を当てる。
【直哉】「あっ…。それで、全部読むのか?」
【彩音】「はい。これは今月の15日に新しく図書館に追加される本です。全て読んで1冊毎に、あらすじ・紹介文・コメントを書いて新着図書の場所に並べられるのです」
【直哉】「これを…15日までに全部読むのか?」
【彩音】「そうですね…。頑張れば2日ぐらいで終わります」
【直哉】「2日!!」
【彩音】「はい」
【直哉】「だって…あらすじ・紹介文・コメントの三つを、本を読みながら書くんだろ?」
【彩音】「それでは、見ていて下さい」
そういうと、遼風さんは本と一緒に詰まれたノートを本の隣に広げる。
そして、深呼吸。
『ペラ…』
1ページ目が捲られたかと思っていると、すぐさま、2ページ目に取りかかる。
3、4、5…。
速読…と言う奴ですか…。
そして、後半になると、ノートの方にも文字らしきものが羅列される。
速記…ですか…。
国会議事堂とかで書記が全ての発言をノートに書き写すために使われるものだったはずだ。
途中、ページを少し飛ばしつつも、5分ほどで1冊の作業が終わった。
【彩音】「どうですか?」
【直哉】「驚いた…としか言えない」
【彩音】「ありがとうございます。それではあたしは半分ぐらい片付けてしまうので、居元先輩も頑張って下さい。その本、古いので表現がわかりづらいですから」
【直哉】「………………………あぁ」
【彩音】「凄い…間ですね」
【直哉】「よし、読むか」
俺は彩音とは対照的に、ゆっくりと1ページ目を捲った。

……
………
ふぅ…。
とりあえず、1章は読み終わったけど…。
結構奥が深かった…。
たたが恋愛小説…と思っていたのにな。
まだ…5時半か…茜はまだみたいだし…。
2章も読んじゃいますか。

……
………
【直哉】「…」
気がついたら7時半。
茜は…間だ来ない。
茜が本を読み終わったら、迎えに来るはずなんだけど…。
今、3章を読み始めると、2時間ぐらい掛かってしまうし…。
【彩音】「終わりましたぁ~」
視点を前に戻すと彩音が伸びをしていた。
【直哉】「終わったのか?」
【彩音】「はい。49冊ほど」
【直哉】「凄いな」
【彩音】「そうでもないですよ…。それに本はゆっくり読みたいですし…。でもしかたがありません。時間も無いですから…」
【彩音】「あとで、ゆっくりと読みます。本はいつでも読めるものですから」
【直哉】「そうだな…。ところで、この本は持ち出し禁止になっているんだが、まだ途中だし…。もし他の人に読まれてしまうと…」
【彩音】「それなら、カウンターに預ければ、1週間だけなら預かって頂けますよ」
【直哉】「そうするか」
【彩音】「はい♪ でも、それは気に入って頂けた…と言う事でしょうか…」
【直哉】「あぁ、結構面白かった。丁度2章まで読み終わったところだ」
【彩音】「そうですか」
【茜】「直ちゃ~ん」
小さいが、俺の耳に届くような声で、俺を呼んでいる。
【直哉】「茜か…。本は読み終わったのか?」
【茜】「うん。少し前にね。まさが直ちゃんが希少本コーナーに居ると思わなかったから、探しちゃったよ」
【直哉】「なるほどな」
【茜】「あっ、遼風さん。こんばんは」
【彩音】「こんばんは、茜先輩。もう…そんな時間なのですか?」
【茜】「そっか、ここは日が入らないから分からないんだね。もう7時半だよ。…あれ? 直ちゃん、その本…」
【直哉】「これか? 彩音が紹介してくれた」
茜は一瞬驚いた顔を見せた。
それは、俺が本を読んでいる事に驚いているのではないほど驚いていた気がする。
そこまで、驚く事か?
【茜】「へぇ~………。面白いでしょ、それ」
【直哉】「気がついたら、2章まで読み終わってた。しかし…茜もこの本を知っているのか?」
【茜】「当然だよ。作者は全然有名じゃないんだけど、とても面白いの」
【彩音】「茜先輩は、この本を読んだ事があるのですか?」
【茜】「読んだよ。3回ぐらい」
【彩音】「あたし、この本を読んだ事がある人に初めて会いました」
【茜】「それは嬉しいよ」
…嬉しいのか?
【直哉】「っと、それじゃあ、もう遅いし、俺達は帰るよ」
【彩音】「はい」
【直哉】「じゃあな、彩音」
【茜】「それじゃあね。遼風さん」
【彩音】「はい、それでは。居元先輩に茜先輩」

……
………
【茜】「遼風さんって、可愛い子だね」
【直哉】「まぁな」
【茜】「直ちゃんには、お似合いだよ♪」
【直哉】「それって…誉めてるのか?」
【茜】「当たり前だよ」
【直哉】「それじゃあ、素直に受け取っておこう」
【茜】「いろいろ、辛いと思うけど、頑張ってね」
【直哉】「あぁ」
少し重くなる空気。
【茜】「さて、それじゃあ、私はここでお別れだから」
そんな空気を払うかのような茜の明るい声。
うん、いつも通りだ。
【直哉】「あぁ。じゃあな」
【茜】「またね~」

制作: 2002年
初出: 2003年11月23日
更新: 2005年4月27日
企画: 詩唄い
著作: 鈴響 雪冬
制作: 鈴響 雪冬
Copyright © 2002-2005 Suzuhibiki Yuki

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