Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > ReSin-ens > 本編 -第四章-
【キャスター】「今日、上空には-30℃以下のの寒気が入り、夕方から夜にかけて雪になるでしょう」
【直哉】「雪…か」
もうそんな季節なんだな。
今月は結構いろいろなことがあって面白かったし…。
まぁ、1回降るとしばらく降らないのが初雪だからな…。
しかし…。
あの絵…どうしよう。
すっかり忘れていた…。
雪が降る前にでも色の下塗りを完成させておかないと。
丘といえば、遼風さんはあそこで本を読むのが好きとか言っていたけど…今日はいるのかな…。
《丘に行く》
【直哉】「やっぱり雪が降る前に下塗りだけでもしておこう」
…
……
………
【直哉】「これぐらいで…いいかな」
画材をしまった鞄を背負い、家を出た。
…
……
………
【直哉】「寒いな…」
吐き出す息が白い。
【直哉】「早く片付けてしまおう」
一通りの準備を整えると、パレットに多めの水で溶いた絵の具をおく。
この絵の中で最も薄い待ちの部分に灰色を敷く。
その上から丘の部分に黄緑をさらに敷く。
【女の子】「こんにちは。居元先輩」
声を掛けられる。
【直哉】「遼風さんじゃないか」
もう、普通に挨拶をすることが出来る。
これが新しい日常なのだろうか。
もしかしたら俺は心の奥底で出会うことを期待していたのではないだろうか?
そんな考えが浮かんでくる。
【遼風】「ここで、私達は出会ったんですよね」
【直哉】「そうだな」
【遼風】「ところで、どこまで進んでのですか?」
【直哉】「まだ、下塗りも終わってない。いきなり話は飛ぶけど、遼風さんは1ヶ月でどのくらい本を読むの?」
【遼風】「そうですね…20冊…ぐらいは読みますね」
【直哉】「20冊!?」
ということは…2日で1冊は最低でも読んでいるということか…。
【遼風】「でも、エンターティメント小説なら1日で2冊読むこともあるので…もっと多いかもしれません」
【直哉】「20冊…か。どんなのを読んでるんだ?」
【遼風】「そうですねぇ…。書店で見かけて気になる本はほとんど読んでいるので…よっぽど硬派な本でない限りほとんどのジャンルを読んでいると思います」
【直哉】「哲学書とかは?」
【遼風】「絶対読まないですね」
と、笑いながら言う。
【直哉】「俺の知り合いに、好きで哲学書を読んでいる奴がいるんだけどな…」
【遼風】「それはすごいですね」
【直哉】「まぁ、そいつ自身がすごいとは限らないけどな」
【遼風】「それはちょっと言い過ぎですよ」
と、子供を諭すような口調で言った。
でも…顔はマジなんですけど…。
【直哉】「はい、わかりました」
【遼風】「分かればよろしい」
【直哉】「っと、先に下塗りを終わらせてしまってもいいか?」
【遼風】「あっ、すみません」
【直哉】「いいって。それじゃあ、ちょっと塗らせてもらうよ」
【遼風】「はい。私はあそこにいても邪魔になりませんか?」
と、いいながら木のある方向を指差す。
【直哉】「あぁ、別に構わないよ」
【遼風】「それでは、1回退散しますね」
【直哉】「さて…それじゃあ、続きをはじめるか」
…
……
………
【直哉】「しかし…雪が降ると紅葉も一気に終わるんだよな」
ちょっと、寂しい。
寒さでほとんど紅葉した葉っぱも落ち、綺麗に片付けられ、秋の気配はもうない。
一月もすれば、もうすぐ白1色に生まれ変わる。
そして、冬が訪れる。
元からほとんど残っていない紅葉した葉も、雪によってとどめをさされる。
【直哉】「心なしか、ちょっと寒くなってきた気がする」
雪のことばっかり考えているからだろうか。
空を見上げれば、分厚い雲が流れてきている。
雪の前兆…だな。
明らかに雪雲だ。
【直哉】「後少しで、下塗りも終わるし…一気に片付けるか」
次第に真っ白だったスケッチブックに色が塗られていく。
淡い水彩絵の具だけの下塗りだけでも雰囲気が伝わってくる。
一通り色を塗り終えた俺は、もう少し細かいところに色をつけ始める。
影もついていなかった下塗りの上に、影を意味するちょっと濃い目の色を重ねる。
…
……
………
【直哉】「こんなもんか…」
目の前には2段階で色塗りされた絵。
まだまだ完成には程遠い。
【直哉】「今日は…このぐらいにしておくか」
ここまで描いておくと家でもかけるし…。
こうやって絵を書いていると、考えに集中することが出来る。
小学校5年の頃の茜との出会いは俺の運命を変えた。
中学校の時の事件は俺の人生を変えた。
そして、今でもそれを引きずっている。
絶対抜け出すことが出来ない、運命。
それ以来人と接することを拒んできた。
俺は…遼風さんのことをどう思っているんだろうか。
それによってもまた変わる。
もし…何らかの感情を抱いているならば………悲劇が起こる…。
俺以外の人を巻き込んで………。
いいのか…そんなことで…。
全く関係ないじゃないか…遼風さんは…。
でも………、俺は…。
《好きかもしれない》
やっぱり、好きなのかもしれないな。
力を………信じる…か………。自分を………信じる…か………。
【遼風】「どうしたのですか? そんな顔をして」
【直哉】「あぁ、遼風さんか…」
【遼風】「あっ、そんなことより、前から気になっていたのですけれど…『遼風さん』って呼ぶのは少し―――」
【直哉】「少し?」
【遼風】「居元先輩の方が、私より年上なのに…と思っていて少し違和感があるのですけど…」
【直哉】「そうか」
【遼風】「せめて…呼び捨てで…お願いします」
【直哉】「遼風さんがよければ」
【遼風】「あたしは構わないですよ」
【直哉】「そうか…それじゃあ、遼風…でいいかな?」
【遼風】「はい♪」
また一つ…距離が確実に縮まった。
【直哉】「それにしても、寒くないのか?」
【遼風】「大丈夫です。見た目より中に着込んでいるので。それに、これもありますから」
と、いいながらブランケットを指差す。
…そう言えば…さっきから風で靡いていないような気がする。
…ブランケットってそんなに重かったっけ?
【直哉】「ちょっと、そのブランケット持ってみていいか?」
【遼風】「はい、どうぞ?」
………普通の重さだよな………。
低気圧の影響で次第に風も強くなってきている。
でも…なびいていない。
少しぐらい端が捲れてもいいんじゃないか?
肌触りも普通だし、暖かい………。
【遼風】「どうしたのですか? 居元先輩」
【直哉】「いや、なんでもない」
【遼風】「………居元先輩こそ、寒くないのですか?」
【直哉】「まぁ、俺はそれほどでもないしな」
【遼風】「本当ですか…っしゅんっ!」
【遼風】「えっ…っと」
【直哉】「やっぱり、寒いのか?」
【遼風】「えっと…そうみたいです…」
【直哉】「じゃあ、ちょっと手を貸してみてよ」
【遼風】「手…ですか?」
【直哉】「そうだ」
【遼風】「では…」
遼風は俺に手を預ける。
冷たい…。
俺の力をもってすれば、このぐらいはすぐ温められるだろう。
意識を手に集中する。
【直哉】「………」
【遼風】「! 温かいですね…先輩の手」
【直哉】「まっ、まあな」
そんなに驚くことなんだろうか。
まぁ、冷え性の遼風にとっては温かいことは驚くことなんだろうな。
【遼風】「手が暖かい人は、心が冷たいとよく言いますよ」
【直哉】「それは言うな」
【遼風】「冗談です♪」
【直哉】「遼風はどうなんだよ」
悪戯がてら、言って見ることにした。
【遼風】「あたし…ですか?」
【直哉】「つまり、てがつめたいひとは心が温かいんだろ?」
【遼風】「それなら、ぴったりですね」
かるく流されてしまった。
【直哉】「そうかもな」
【遼風】「はい」
【直哉】「そろそろ寒くなってきたな。俺はもう下りるけど、遼風はどうする?」
そう言いながら俺は立ち上がった。
遼風も俺の声に反応するようにふわっと立ち上がった。
【遼風】「あたしもそろそろ下ります。このままだと風邪を引いてしまうので」
【直哉】「じゃあ、一緒に下りるか」
【遼風】「はい♪ ………あの………………………手…このままでいいですか?」
【直哉】「あぁ。だけど、片手だけだけどな」
やはり寒かったのだろう。
俺は遼風の手を温めることにした。
【遼風】「それでも、いいです」
【遼風】「これ…が………朝の………の雨で………ません………に………」
【直哉】「何かいったか?」
【遼風】「なんでもありません」
…
……
………
もう、ここまで下りてきたけど…どうしようかな。
《遼風を商店街に誘う》
【直哉】「ところで、俺はこれから商店街に行くけど、遼風はどうする?」
【遼風】「そうですね…ご一緒させていただきます。ちょうど用事もあるので」
【直哉】「そうか」
…
……
………
【遼風】「すみません。荷物持って頂いて…」
【直哉】「いいって」
【遼風】「ありがとうございます」
【直哉】「しかし、やっぱり女の子って服を買うのが好きなものなのか?」
【遼風】「あたしは…あまり買わないほうですよ。もうそろそろ本格的に寒くなると思ったので…」
【直哉】「そう言えば、今日は初雪が降るって、ニュースで言ってたな」
【遼風】「そうなんですか?」
【直哉】「あぁ」
【遼風】「それなか、買っておいて正解でした」
【直哉】「マフラーか?」
【遼風】「はい。すみません、その袋ちょっとあけていただけますか?」
そう言いながら、俺の右手に持っている紙袋を指差す。
【直哉】「ちょっと待ってくれ」
俺は紙袋を開いて、中からマフラーを取り出す。
触っただけで僅かだが、暖かさが伝わってきた。
【直哉】「はい」
俺はマフラーを遼風に渡した。
【遼風】「ありがとうございます」
俺はスペースの若干空いた紙袋に他の袋を入れると、荷物を一つにまとめた。
遼風はマフラーを広げると、手早く自分の首に巻きつけた。
【遼風】「もう、冬ですね」
【直哉】「寒くなるな…」
【遼風】「寒いのは…苦手です」
【直哉】「まぁ…俺はもう慣れたかな」
【遼風】「寒さって…慣れる物なのでしょうか…」
【直哉】「さぁな…。まぁ、太れば寒さは凌げるかもな」
【遼風】「それって、世の中の女性のほとんどを敵に回しましたよ」
【直哉】「冗談だって」
【遼風】「雪…ですね」
その台詞を聞いて俺は上を見上げる。
【直哉】「あぁ…」
さっそく1つ目の雪が俺の頬にあたり、溶けた」
【直哉】「まぁ…初雪だし…しばらくは見れなくなるだろうけどな」
【遼風】「そうですね。本格的に振り始めるのはまだ先ですから…」
…
……
………
【遼風】「それでは、私はここでお別れなので…」
【直哉】「そうだな。それじゃあ、またな」
【遼風】「はい♪」
…
……
………
家のドアを開け、中に入る。
…
……
………
夕ご飯を食べた後外を見ると雪が降っていた。
天気予報の通りだ。
そろそろ本格的な冬が始まる。
そして、氷結の世界が始まる。
だけど…今年は暖かくなりそうだ…。
俺はそんなことを考えながら、眠りについた。