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*before_ayane_02
この日、俺は夢のことを覚えていた。
いつもは忘れる夢の内容。
思い出されるのは、全てを破壊していく光景。
破壊というのは、生命の破壊。見えないが感じるもの。
鮮明に思い出せる。
今日の夢は、悪夢だった。
そう… 悪夢だった。
【茜】「直ちゃ~ん。おはよう」
居間に入ってきた茜を見て、ため息一つ。
【直哉】「おはよう…」
【茜】「どうしたの?今日は直ちゃん元気ないね。テストが不安なの?」
【直哉】「いや。違うけど、ちょっとな」
【茜】「まあ良いけど。コーヒーが有るなら私にも頂戴」
【直哉】「いつも道理苦いけど」
【茜】「… お願い」
【直哉】「はいよ」
即座に置いてある残りの一カップにコーヒーをついでいく。
【直哉】「どうせいつものように、コーヒーねだると思ってな。はい」
【茜】「ありがとう。頂きます。・・・・・・う゛っ」
【直哉】「なにが、・・・・・・う゛っ。だ。苦かったら無理しない方が良いぞ」
【茜】「大… 丈夫。でも、すこし苦いかな」
茜… わかりやすいのにも程が有るぞ。
【直哉】「おっと、そろそろ時間だ。茜急いで飲め。遅れちまうぞ」
【茜】「うわ。本当だ。急がないと」
一気に喉にコーヒーを流していく茜。
【茜】「にがっ… でも急がないと… 。うぅ…」
茜が頑張って飲んでいる間に準備万端になった俺。
茜の飲んでいるカップを受け取り、残っている分を一気に喉に流し込む。
【茜】「あっ…」
【直哉】「仕方ないだろ。遅れてしまうぞ。行くぞ!
【茜】「う、うん」
急いで、学校に向かう俺と茜だった。
≪放課後、絵の資料を見に行く≫
この学校の図書館は大学との共有なので蔵書の数も種類もある。
2階建てになっていて、天井も高い。
その天井を埋め尽くすように並ぶ本棚の中を俺は歩いていく。
『美術』欄から適当に本を抜いていく。
3冊ほど手に取ると、読書スペースに戻った。
…
……
………
こういう表現もあるのか…。
教本を開いていると面白い物が載っていた。
『ドライポイント』―――透明なプラスティック板に、針などで傷をつけ、それによって絵を描いていく。最終的にそれを原本にして印刷する。
とある。
見本として、一つの参考作品が載っている。
どこかの学校の下駄箱…だろうか。
細く短い線で描かれていて、線の密集度や濃淡などによって細部まで描きこまれていた。
【女の子】「すごい…作品ですね」
【直哉】「誰?」
俺は後ろを振り向く。
===立ち絵、女の子イン===
見たことのない人が立っていた。
やや幼い顔立ち。
ショートカットの髪形で…背は低め。
ちょっと…おどおどしている。
【女の子】「あ…あの…」
【直哉】「ん? どうした」
【女の子】「あたしの顔に何かついていますか?」
【直哉】「あっ…いや…そういうわけじゃない」
【女の子】「そうですか」
それにしても…何処かで見たことがある気がする。
《どこだっけ…》
どこだっけ…。
え~っと…。
【直哉】「あっ!」
【女の子】「!? どうかしました?」
【直哉】「人違いだったら悪いけど…、丘の上で会ったことあるか?」
【女の子】「あっ…。はい♪」
【女の子】「いつも、あそこで本を読んでいるんです」
【直哉】「えっと…」
名前を呼ぼうとしてまだ聞いていなかったことに気がつく。
それに彼女も気がついたのか、
【女の子】「私の名前は、遼風彩音(はるかぜ あやね)です。…1年A組です」
【直哉】「はるかぜ?」
聞いた事がない名字に俺は首をかしげる。
【彩音】「『りょう』という漢字に、『かぜ』は普通の風です」
【直哉】「遼風…さん、だな」
【彩音】「あの…先輩のお名前は…?」
【直哉】「俺の名前?」
【彩音】「はい」
【直哉】「居元直哉、2年C組だ」
しまった…。
言ってしまった…。
人との関わりは…これ以上もってはいけないのに…。
【彩音】「それでは、居元先輩ですね」
【直哉】「あ、…あぁ」
考えを中断される形になってしまった。
【彩音】「あたしのことは、好きに呼んでいいです」
【直哉】「それじゃあ…遼風さん…でいいか?」
【彩音】「はい。あっ、そろそろ戻ります。私は本を探しに来ただけなので」
【直哉】「あぁ」
【彩音】「それでは、また」
…。
あの時以来、人とは深く関わらない様にしようと生きてきた。
遼風彩音…どこまで俺に関わってくるのだろうか…。
朝、早くに家を訪問してきた茜。
何をしに来たのだろうか… そう思っているとおもむろに一声。
【茜】「直ちゃん。朝ご飯作りに来たよ」
なんともまぁ…
ベッドの上で目が覚めると、みそ汁と卵焼きの匂いが家を包んでいた。
【直哉】「そう言えば、かなり早くに家に来て…」
【茜】「直ちゃん。朝ご飯作りに来たよ」
【直哉】「… 何で?」
【茜】「いいのいいの。とりあえず作るから、キッチン借りるよ。それと、また寝て良いよ。起こしに行くから」
回想シーンが終わりぼーっとしていると、茜が俺の部屋の前まで歩いてきた。
【茜】「直ちゃん。ご飯できたよ。一緒に食べよ」
【直哉】「おお。わかった。先に行ってくれ。着替えるから」
【茜】「うん。わかった。早くね。ご飯さめちゃうから」
足音が遠ざかり、下の方に気配が消える。
【直哉】「なんかなぁ… 慣れないと言うかなんというか?」
どうしても一人暮らしの方が長いとこう言うことがないから新鮮に感じる。
着替えが終わり下に降りてくると、食卓に日本の伝統とも言えるような朝ご飯が乗っていた。
【茜】「あ、来た来た。じゃあ食べよっか」
【直哉】「凄いな。朝からこんなに豪華だとは…」
ご飯に、みそ汁、卵焼きに焼き魚。
何とも典型的な食事だが慣れない俺にとってはどうしても豪華に感じられる。
俺って、貧乏性?
【茜】「何しているの?早く食べようよ」
【直哉】「悪い。じゃあ、いただきます」
【茜】「はい。どうぞ。じゃあ、私もいただきます」
【直哉】「あれ?茜まだ食ってなかったのか?」
【茜】「当たり前じゃない。朝の6時に来て食べている分けないでしょう」
もっともです。
【直哉】「おお。この焼き魚はうまいな。それにみそ汁か… いつぶりだろうか?」
【茜】「あはは。黄昏ている。黄昏ている」
朝一から茜にからかわれる俺だった。
最近、俺ってこういうことばっかだな…
*before_ayane_02
;昼頃、主人公は画材を買いに商店街へ。
;選択イベント
そう言えば、珈琲豆が足りなくなってきた。
…ついでにノートとか画材でも買いに行くか。
あそこの書店は結構色々揃っているんだよな。
でも…食品店のセールも結構いいし…。
どっちがいいかな?
≪商店街へ画材を買いに≫
…
……
………
【マスター】「いらっしゃいませ」
【直哉】「おひさしぶりです、マスター」
【マスター】「ひさしぶりですね、お客さん」
【直哉】「いつもの豆をもらえますか?」
【マスター】「いつものでいいのかい?」
【直哉】「なにかいいものでも入ってるんですか?」
こういう笑顔のときで、確認をしてくるときは大抵何かいいものがはいっている時だ。
【マスター】「まぁね。今回は『ケニア』だ」
【直哉】「『ケニア』ですか?」
【マスター】「欧州で高く評価されている希少価値のある銘柄で、酸味にコクがある。今回はその中でも、特級ランクじゃ」
【直哉】「そうなんですか?」
【マスター】「ランクだが、酸味2.5、コク2、苦味1.5ぐらいか…」
【直哉】「それじゃあ、それを100gもらえますか」
【マスター】「了解」
…
……
………
時間は3時を過ぎた辺り。
店の中は人が多く賑やかだ。
ぶかつ帰りの高校生だろうか、制服を着ている人も中にはいた。
さてと…。
俺はいつものルーズリーフを手に取ると画材売り場に向かった。
ん? あれは…確か遼風さんだ。
《話しかける》
【直哉】「こんにちは、遼風さん」
【遼風】「あっ…こんにちは。居元先輩」
【直哉】「今日は買い物でも?」
【遼風】「はい。新しい本を買いに来ました。居元先輩は?」
【直哉】「おれは、これだ」
そう言いながら俺は手に持っていた水彩色鉛筆を見せた。
【遼風】「画材…ですか」
【直哉】「まぁ、そんなところだ」
【遼風】「48色…と書いていますけど…」
【直哉】「本当はもっと少なくてもいいんだけど…後々便利になるし…それに…」
【遼風】「それに?」
【直哉】「48色じゃないと肌色がはいってこない」
【遼風】「それは…痛いですね」
【直哉】「あぁ。ところで、遼風さんは何の本を買いに?」
【遼風】「私ですか? 『空色のスケッチ』です」
【直哉】「『空色のスケッチ』?」
【遼風】「はい。あまりメジャーではない人の作品なんですけど、あたしはこの方の書き方と内容が好きです」
【遼風】「主人公が絵を描いていく物語なのですけど…描いた物が現実に存在するようになる…ファンタジーですね」
【直哉】「へぇ~。絵を描くとそれが現実に存在するようになる…」
【遼風】「結構面白いので、後で読んでみてください」
【直哉】「わかった…それじゃあ俺の絵も後で見せるよ」
【遼風】「いいのですか?」
【直哉】「あぁ。面白そうな本を教えてもらったお礼だ」
【遼風】「ありがとうございます。それではそろそろ帰ります。」
【直哉】「わかった。それじゃあ」
【遼風】「それでは、また」
ぴょこっと礼をして遼風さんはレジの方へ向かった。
さて、俺も買い物の続きだ。
これ以上彼女のことを考えないように俺は頭の中を入れ替えると目的の売り場に向かった。
俺は商品を持ってレジに並ぶと商品を購入して店を出た。
そういえば…新しい喫茶店が出来たって広告にあったな…。
行ってみるか…。
珈琲に力を入れてるって言ってたし…。
俺は『ファミリー喫茶 EveryDay』に入った。
店の中に入ると、ゆったりとした音楽と明るい店員の声に迎えられた。
あいている二人用の窓際のテーブルに案内されて、俺は座った。
………こういう所はやっぱり抵抗がある。
しかし…珈琲が気になる。
ここまで来ると、自分が珈琲馬鹿だと思えてくる。
なんで…こんなに好きになったんだろうな。
いや…いっか。
好きなことに理由も理屈も無い。
店員が差し出したメニューを見る。
珈琲についての説明があった。
基本的にランチなどを頼んだ場合珈琲が飲み放題になるらしい。
珈琲を別に注文する場合、いろいろなオプションがつけられる。
豆・ブレンド・ダッチ(水だし)など一通りの事が選べる。
【直哉】「コロンビアの珈琲でダッチでお願いします」
【店員】「コロンビアの水だし珈琲おひとつでよろしいですか?」
【直哉】「はい」
【店員】「それでは、メニューをお下げします」
そう言うと店の奥に戻っていった。
ぐるりと店内を見渡すと結構な数の客がいた。
ゆったりとしたBGMは時の流れをゆっくりにさせる。
そんな雰囲気の中、客は談笑を交えながら今を過ごしていた。
いつか聞いたBGMをハイテンポで流して客の回転を早くするといった手法は何処にも見られなかった。
どこにでもある一人ひとりの時間がここにはあった。
そして、ともに時間を共有している二人もいる。
ここは………一人でくる場所じゃ無い気がする。
…
そんなことを考えている間にコーヒーが運ばれてきた。
ゆっくりと味わいながら飲み干す。
コロンビア豆独特の酸味がダッチによってなされる苦味と重なる。
…結構…美味いな…。
そんなことを考えながら時間を過ごすと、俺は店を出た。