Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > ReSin-ens > 本編 -プロローグ-
いじめは過去の陰影を継がせ、無限の螺旋を描き出す。
悲しみは尊き命の前では意味を成さない。
目の前で、死んでいく同級生。
砂の地面には、波紋が描かれている。
そこに居た同級生はもうとっくに死んでいた。
そして、母親の声が聞こえる。
その時には反射的に叫んだ。
「こっちに来ちゃ駄目!!」と。
しかし、その声は猛然と吹き付ける風の前にかき消される。
そして、近づいてきた母親も…
目を開けるとそこは自分の部屋。
先程まで合った音が消えて今は静けさが耳を突く。
体を起こすと、背中がじっとりと湿っている。
先程のは夢。
夢…
そう夢だ。
過去に本当に合った出来事。
過去の出来事を頭が処理した時の影響なのだろう。
時計を見ると、5時がもう少しで終わる頃。
起きるにはまだ早い頃合い。
学校は8時45分からだ。
此処からなら20分もかかりはしない距離にある。
そう思い、布団に入り眠ろうと目をつむるが、悪夢が…
いや…過去の忘れられない出来事が頭から離れないためか眠くはなっては来ない。
俺は、眠ることを諦め布団から這いずり出て、冬に近づいている事を身を以て体感した。
「うぅ~。寒いよなぁ~。」
冬に近いといっても、今はまだ10月に入ったばかり。
冬というより、立秋を過ぎた頃。
微かに寒くなりつつある時期ではあるが、あくまで冬ではない。
冬の一歩手前。秋の終焉。そんな微妙な時期である。
寒いと自分の肌が鳥肌を立てるのを確認しながら着替えを速攻で済ます。
そして、外の光景に直結している窓のカーテンを開けた。
すると暗闇に慣れきった目を刺す。
目が慣れ始めると、外の風景が見え始める。
外の天気は良好そのものだった。
空は蒼く澄み、白い雲が漂う。
いつもと変わらない朝。
平凡な日々の途中。
その中で変わることはないだろうと俺は思う。
俺はそんなことを考えながら一階に降りていった。
朝7時過ぎには、俺はゆっくりとダイニングでくつろいでいた。
テーブルには、朝飯の跡と父親からの手紙が置いてあった。
その手紙には、数列の文章が書かれている手紙と一ヶ月分のお金が入っているだけである。
手紙にはいつも同じ文章が書いているだけだった。
『直哉へ
お金は、一ヶ月分入れておく。私は仕事で家を空ける。
いつ帰れるか解らないので、後のことは頼む。
父親より 』
読まなくても解りきっている内容。いつも月の始めにこの手紙とお金が入っている封筒が届く。
父親の名前はかなり昔に忘れた。
ここ何年も会ってはいない。
記憶にあるのは、小さな時に…
まだ幸せだった頃に顔を合わせていただけである。
小さな頃にされた肩車の高さが今でも覚えているのに…
あの事件から父親は俺を避けるようになった。
もう慣れたことだ。
諦めもつくものだ。
そんなことを考えることは止め、趣味のコーヒーでも飲むとしよう。
コーヒーを一口だけ口に含む。
噛むようにし、それと同時に口に少し苦めの味が広がる。
【直哉】「・・・やっぱりもう少しだけ、苦い方が良かった気がするな。」
少し甘すぎた。
俺は、甘いのよりは苦い方が好きだし…
やっぱりこのブレンド比は失敗だったか。
今度はもう少しだけ苦くしてみよう…
そんな朝の優雅な光景。
コーヒー云々のことを言う 居元 直哉 (いもと なおや)だった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
【声】「直ちゃ~ん。おはよ~」
時刻は8時ちょい過ぎたあたり。
学校へ行こうかと思っていた頃だ。
まさにその時に、玄関から声が聞こえてきた。
月詩 茜(つきうた あかね)。
小5以来の縁だが、出会った当時はぎこちないモノだったが、今はかなりましなもんだ。
あの時以来、直ちゃんと言われるようになる。
今では不定期だが朝、迎えに来る仲である。
不定期と言うよりは、ほぼ毎日。
茜の気が向いたら来るというのだが…
【茜】「学校にいくよ~。」
【直哉】「おう。」
【茜】「今日は早く学校に行こうよ~」
【直哉】「今、行くよ。待っていろ。」
そう言い、学校指定の冬服の上着を着て、鞄を持ち玄関へ向かった。
外に出ると、もう秋の半ばだと気付かせる。
紅葉も終わりを告げた。
もう、息も凍てつく寒い冬が歩み寄ってきている。
【茜】「微妙な寒さだね。」
【直哉】「そうだな。寒いような暖かいような。」
【茜】「そうだね。じゃあ。学校に行こう。」
【直哉】「はいはい。」
【茜】「そうだ!今週の日曜日、バスケに行かない?」
【直哉】「いや。遠慮しておくよ。」
【茜】「残念。」
【直哉】「前もそう言って連れて行かれたしな。俺も学習はするよ。」
【茜】「うぅ~。」
【直哉】「ふぅ。なんか週末には疲れるな…」
【茜】「それって私に対する当て付け?」
【直哉】「いや。全く。」
【茜】「ま、いっか。じゃあ、月曜日も来るから。」
【直哉】「どうせ、苦いコーヒーを飲みに来るんだろう?」
【茜】「あはは。まあそうかもね。」
【直哉】「わかりやすい奴。」
【茜】「あっと。こんな事している場合じゃないね。」
【直哉】「よし。行くぞ。」
【茜】「うん。」
見えない歯車は人を動かす。
とてつもない大きな歯車はかみ始める。
そして、5年前のあのことが今によみがえる。
物語は、10月4日、月曜日から始まる。