アクロス・ザ・タイム -第一章-

Top > ウェブ公開作品 > 小説 > 長編小説 > アクロス・ザ・タイム > 第一章

第一章

今日は、午前中で終わりだ。
あの後、クラスの奴らに色々質問されたが、適当に答えた。
学校もクラスも、学科も、同じ。
違うのは、日付と、クラスの奴らのことを俺が知らないということ。
先生の名前が、仲林武則(なかばやし たけのり)だったこと。
同じようで同じじゃない世界が俺の目の前にあった。


俺は昼間起こったことを整理することにした。
驚くほど冷静に自分が行動していることにもどかしさを感じる。
まぁ、いい。
きっとこのことをまだ理解してないだけだ。
まずは、俺が昨日まで見ていた場所に関して
・名前:前橋遼一
・HR-T:佐々木正則
・学校:情報処理科 2年B組
そして、俺が今見ている場所
・名前:前橋遼一
・HR-T:仲林武則
・学校:情報処理科 2年B組
どうなってるんだ!?
仮にも、今日が8月32日だとしたら…。
ここは…どこなんだ!
異世界…いや、そんなものがあるはずがない。
クラス全体での大掛かりな俺を騙す嘘?
まだ、こっちの方が安心する。
「明日は、商店街に行ってみよう」
もし、そっくりな世界だとしたら、商店街があるはず。
それに、クラスの嘘だったら、商店街は普通に存在するはずだ。
「おやすみ、俺」

8月33日 火曜日

「ふぁ~」
なんだか時間が経つのが早かった気がする。
そんなに眠ってない気分だ。
やっぱりつかれてたのか。
といっても、そろそろ起きないとヤバイ。

リビング
『パチッ』
珍しく朝からテレビをつける。
今はとにかく情報が欲しかった。
何でもいいから。
地元局だろうか、俺の住んでいる街が取り上げられていた。
俺の住んでいる街の名前は『群馬県、朝川市』らしい。
これも同じ…だ。
さて、そろそろ行くか。

昼休み。
俺はいつも弁当である。
昨日のうちに比較的親しくなった、前の席の奴「向井 渉(むかい わたる)」と、
同じ弁当族どうし、食べることになった。
隣の「時ノ沢 夏菜」も一緒に。
「なぁ、お前はどこから転向してしたんだ?」
「あっ、俺か…そうだな…秘密ということにしておこう。
 なんといっても、俺の過去の履歴は国によって消されているからな。
 諸君らに教えるわけにはいかないのだよ」
「国?そんなレベルなのか?俺なんて国連だぜ。ところで、時ノ沢さんは?どこかで消されてたりとか?」
「私?青森県の相楽市よ」
二人がかりのボケが軽く流された。
ハイタッチの準備をしていた俺達の手が自然と下りる。
俺のボケがあまりにもレベルが高くて愚民には理解できないらしい。

幸い、今日の授業はほとんど自己紹介で終わった。

学校から家に行く道からちょっと外れた場所にある商店街。
『朝川商店街』
いつも思うが、なんて言うネーミングセンスだ。
てか、市の名前を取っただけ…。
これは、朝市と言う名の戦場に命をかける人々に対して戦意を喪失させる作戦か?とまで思わせる。
聞いただけでやる気が抜けてくる。
これは、商店街全体の陰謀…。
恐るべし朝川市民…。
歩行者天国で賑わう『朝川商店街』を抜ける。
プロムナード形式になっていて、道幅はかなり広く全面ガラス張りのアーケードがかかっている。
まぁ、実際ガラスを使っているわけでもなくポリカーポネートという名のプラスチックの1種のはずだ。
思いっきり透明で、明るい。
だけど…
何かが違う。
いつもと違う何かが。
俺のいつも行く本屋。
だが、そこには無い。
代わりにアクセサリーショップがある。
場所…間違ったか?
周りを見渡す。
気がつけば、見たことのない店が並んでいた。

……
………
自分で言うのもなんだが、俺はこの商店街に関してはかなり詳しいはず。
裏通りの行き付けのパソコンショップから、表通りにある流行らない店まで熟知している。
なのに…
知っている店が1件も無い。
商店街の入り口に戻る
『朝川商店街』
何回見てもそう書いてある。
俺は、家に戻る。
時計を見ようとして、腕時計が無いことに気がつく。
「昨日…風呂に入ったときにおいてきたか?」
バスルームへ行く。
「ないな」
いつから俺は時計をつけてないんだ…。
昨日…学校にはつけていった…。
まぁ、いいか。
時間に縛られた生活など気に食わん。
勝手に納得して、時計のことを忘れる。

この体験も忘れて、はやくもとの生活に戻りたい。

8月34日 水曜日

「う~ん…」
よく寝た。
周りの世界は明らかに異変がある。
だけど、既に俺はこの生活になれてしまったのか…。
そう思うとなにか悲しい。

踏切
いつものように通り過ぎる。
遮断機は下りない。
いつもよりゆっくり、周りをよく見ながら通りぬける。
まだ、学校が始まるには時間がある。
商店街によって行くか。
朝市をやるぐらいの商店街である。
7時頃からほとんどの店は営業をはじめる。
昨日のうちに覚えた、時計屋に入る。
新しい腕時計を購入して店を出る。
やっぱり無いと困るからな。
朝の教室
「それでは、休み開け特別日程も今日で終わりだ。前から言っておいた通り、実力テストを行なう」
ちょっと待て。そんなの聞いてないぞ!
周りを見まわすと、あたかも前から聞いてましたという顔をしていた。
あせってるのは…俺と………時ノ沢さん?
「テストなんて聞いてたか?」
「ぜんぜん…」
「あっ、二人には、実力テストと言うより、総復讐みたいなのをやってもらう。
 ちなみに、編入試験とほとんど同じ内容だから安心しろ」
編入試験?
「これなら安心だね♪」
「あっ、ああ」
俺…受けてないんですけど…。
「教科は、3教科と専門一教科。現国、数学、英語、情報処理」
情報処理はともかく…他のはヤバイかも…。

『キーンコーンカーンコーン』
「終わった~」
答案を回収して、先生に手渡す。
「お疲れ様」
「全くだ」
自分の席に帰る途中、渉に話しかけられる。
「それにしても、テストとは驚くぜ」
「お前らには知らせてなかったみたいだからな」
「まぁ、赤点は間逃れることはできたからいいけどな」
「あっ、そう言えば、情報処理は同じ問題だったよな?」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。最後の問題…わかったか?」
「非同期式ってやつだっけ」
「あぁ、それそれ。度忘れしてしまったんだよ」
「同期用のクロックパルスを送らず、直列データーを送るもので、同期を取るのが難しく
 1バイトごとに挿入された基準信号からもとのデータ信号を復元する方式」
「パーフェクトじゃんか!」
「まぁ、俺にかかればこんな問題朝飯より起床以前の問題だ」
「恐れ入りました。この復讐はいつかしてやるからな」
「背後からでもいつでも襲って来い」
そう言いながら席につく。
「お疲れ様~」
時ノ沢さんにも話しかけられる。
「お疲れ」
「ほとんど同じ問題だったね」
「えっ…ああ」
「80点は硬いね」
「………」
「どうしたの?」
「………」
「ねぇ~どうしたの~?」
「さらば、ブルジョアよ」
俺は時ノ沢さんとは反対側を向いて口笛を鳴らす。
「結局、だめだったということだな。専門教科以外…」
正面からの渉の突っ込みを無視する。
「だめだよ、そんなこといったら。ああいう子は責めすぎると犯罪に走るタイプだから」
「思いきって牢獄に閉じ込められた方が更正されていいんじゃないか?」
「う~ん…そうかもね~」

「っておい、お前らひどいこと言うんじゃねえ」
「事実じゃん」
「事実でしょ」
え~ん。
いじめだ…STOP THE いじめ。いじめカッコ悪い。

放課後
鞄に道具を詰めると俺は教室を出た。
それにしても…暑いな…。
いくら8月だといっても夏真っ盛りじゃないか!
9月…いつになったら来るんだよ。

カレンダー見ればいいじゃん。
しゃあない、カレンダーでも買うか。

商店街
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
怒号を混ぜた声が後ろから前へドルビー効果+ドップラー効果をともなって走りぬける。
速い…。
いったいだれだよ…。
既に遠くに行ってしまった女の人を見送る。
ギネス?
世の中には怖い人もいるもんだ。
俺は改めて自分が小さい存在だということに気がついた。
あぁ、哀れな人間ども…いざこざはやめて平和に暮らしていこう。
戦争反対、暴力反対、非暴力不服従!
俺はこの国に忠誠を誓った。
「たしか…この辺だよな」
俺は記憶から書籍店の場所をさがす。
記憶というよりは記録だな…。
「おっ、あった」
自動ドアをくぐり店の中に入る。
心地よい冷房が火照った体を冷やしていく。

なかなか見つからない…。
まぁ普通はお正月にカレンダーを買うものだけどな。

店の人にカレンダーの場所を聞き、月捲りタイプのカレンダーを買った。


「暑い」
外も外だが閉め切った家の中も暑い。
2階の窓ぐらい開ければ良かった。
『BOOK HOUSE』と書かれた包装紙からカレンダーを取り出す。
えっと…8月、8月と…。
カレンダーを7枚捲る。
『8月』
日付を確認する。
今日は34日…水曜日。
『8月』はどうやら45日で終わるらしい。
カレンダーを捲ると9月も45日。
10月も45日。
「このままだと11月も…45日か?」
そう思ってカレンダーを捲る…。
いや、捲れなかった。
カレンダーは10月で終わっていた。
変わりに、2003年1月と書いてある。
印刷ミス?
下のノンブルを確認する。
きちんとページは並んでいた。
10月で1年が終わり?
7月、6月と確認していく。
どうやらここでは1年10ヶ月450日らしい。
季節も
『秋:1・2・3上旬』『冬:3下旬・4・5』
『春:6・7・8上旬』『夏:8下旬・9・10』
となっているらしい。

なんつー世界だよ…。
「はぁ」
思わずため息。
これからまだ暑くなるのかよ。
突っ込むところが違う気がしたがそこはあえて触れないでおこう。
古代の人達が知能を振り絞って考えたことだ。
そう言えば、今月の残りのお金も少ないな…。
お金?

……
………
「やばっ!!」
バイト…してない。
すっかり忘れてた。
あっちの世界ではバイトをやってたからこっちでもバイトをしてると思ってたら、全然やってないし。
明日探そう。

35日 木曜日(夏入りの日)

今日は祝日で休み…らしい。
ニュースによると今日から本格的に夏に入り、健康を損なう恐れがある…。
そのため、体をなれさせるための休み…とのことだ。
まぁ、理由はともかく休みなのは嬉しい。
さっそく新聞を取りに行き、求人広告を探す。
「パソコン関係はっ…と」
ちなみに俺は休日だけだが、『PCサポートメンテナンス』のアルバイトをしていた。
会社の社長にも対処が早く手馴れていると誉められたことがあったっけ。
最近の初心者は何でもかんでも聞いてくるから困った物だ。
少しは勉強をしてくれ。
まぁ、パソコンは習うより慣れろ…だけどな。

「あった」
『PC出張メンテナンスサービス』のバイトを発見する。
「さて、それじゃあ電話でもしますかね」
この店は確か商店街の裏通りにあったところのはずだ。
俺は商店街にはお世話になるたちだから必ず店はほとんどチェックする。
この街の朝川商店街の店の配列もだいぶ覚えてきた。
とくにパソコンショップや本屋などはほとんど覚えている。
このバイトの求人広告を出しているところも『パソコン教室』を行なっている、
パソコンショップメンテナンスショップだったはずだ。

……
………
電話をしたところ、今から面接をやるから1:00に来てくれとの事だった。
まだちょっと時間がある。

「久しぶりにパソコンでも触るか」
俺はリビングにあるパソコンの電源を入れる。
久しぶりの感覚。
あっちにいた頃は毎日触ってたけどな。
「…OS…同じだといいけど…」
幸いに『Sky-Wing』と書かれた見なれたOSの画面が出てくる。
「それにしても…不思議だよな」
俺の周りはほとんど前の世界とは入れ替わっているのに、自分に関わる物はあまり変わってない。
まぁある意味助かるけど…。
家ごと…こっちに来たとか…。
家の間取りまで同じだということにいま気がつく。

インターネットに接続して『この世界』でメジャーとなっているOSを調べる。
どうやらこちらの世界でも『Sky-Wing』が主流らしい。
そのほかには聞いたことのないOSが数種類あった。
ついでにPCにかんする情報を引き出す。
メモリの容量の情勢やCPUのクロックなど、これからやるバイトのために必要な限りのPCの情報を探した。
むぅ…どうやら技術自体はかなり進んでいるらしい。
俺のすんでいた世界とはだいぶ性能が変わっている。

……
………
そんなことをしている間に約束の時間が近づいてきたので俺はオンラインにしたままパソコンを離れた。
常時…接続…だよな?
『川崎PCメンテナンス』と書かれた店を発見して、俺は店の中に入る。
ちなみに一階がPSショップ、2階がメンテナンスセンター、3階が教室となっている。
店員にバイトの面接できたことを告げると店員は店の奥に俺を導いた。
応接室で待っていると店長らしき人物が来た。
見た目には優しそうな人だった。
「ところで、アルバイト志望らしいが」
口調も優しかった。
「はい」
「では、聞こう。どのような部門に関して詳しい」
「はい。『Sky-Wing』の操作全般と設定。ネットワーク管理…PCの事ならほとんど大丈夫です」
「そうか…ならば試験といこう。そこにあるPCを直してくれるか?あらかじめいじって起動できないようにしてある」
「わかりました」
PCの電源を入れる。
『BIOS』の画面が出てフェードアウトした瞬間…HDDの読みこみが止まる。
「あっ、必用な物…つまり買った時についてきたものはそこにある」
「わかりました」
俺はフロッピーディスクを取り出し、パソコンのドライブに挿入すると再起動した。
『BIOS』の画面がフェードアウトした後アクセスランプともる。
画面に一連の命令文を打ち込みシステムファイルを復旧する。
俺はそこで再び再起動することにした。
店長の不信な視線を無視しながら俺は自分の鞄からフロッピーを取り出す。
PCがフロッピーを読み取り起動する。
俺の独自のソフトだ。
基本的にOSが『Sky-Wind』のパソコンならどのバージョンでも動くように設計している。
見なれたインターフェイス画面からウイルススキャンの項目を選び、PCのブート領域からファイル領域まで全てを調べる。
数分後ウイルスの存在がないことを確認してPCをSAFEモードで起動した。
その後、バックアップウイザードを起動してシステムファイルを異常が起こる前の状態に戻し、
通常起動し、OS製造メーカーから最新のドライバをインストールした。
本当はこんなに必用はないのだが店長が壊れたときの状況を説明しないためあらゆる可能性を潰した。
「こんな感じです」
「見た感じだいぶ扱いになれているみたいだな。あとは実戦を見ながら考えよう。
 それじゃあ37日の午後…学校が終わってからまた来てくれ」
「はい、ありがとうございます」
「あっ、その前に今日から働いてもらえるか?」
もちろんそのつもりだ。そうじゃないと今月はかなりヤバイ。
「大丈夫です」
「よし。それじゃあまずは店員をやってくれるか?」
「わかりました」
前の店もそうだったがメンテナンスセンターと店を掛け持っているため仕事がないときは、
店の店員をやることになる。
俺はパソコンの本体を扱う部署に配属された。
客がやってきてはパソコンが欲しいという。
俺は何に使うのかを聞いて、店内に羅列されたパソコンを紹介していく。
幸いここの店はフロアが広く専門店だけあってユザーのニーズに対応していた。


「はぁ…」
1日目からかなり働いた。
「店長…使いすぎ」
バタンキュ~

36日 金曜日

目覚し時計の電子音に眠りから強制的に引き戻される。
「うぅ~」
眠い。
全然眠った気がしない。
かといってこのまま寝てると遅刻するし…。
ベッドわきに置いていた真新しい腕時計を装着すし、着替えを済ませると俺は一階に向かった。
トーストを作りコーヒーを煎れる。
「ふぅ」
思わずため息。
テレビも付けることの無い静かな部屋。
「そろそろ行きますか」
朝食を食べ終え家を出る。
いつもの様に自転車に乗り快調なスピードを出して進んでいく。
腕時計を確認すると『8:10』。
踏切を通過して学校へ向かう。
「そのうち電車の時間とか調べないとな」
朝なのにすでに暑くなり始めている空気の中俺は学校へ向かった。

「さて、飯でも食いますか」
「そうだな」
「そうだね」
「お前ら、俺の独り言に入ってくるなよ」
「独り言だったの?」
「そうだったのか?」
「…もういい…好きにしてくれ」
3人で弁当を食べる。
もっぱら話題は昨日のテレビの話だ。
「んでさ、あの時の主人公の家政婦すごかったよな」
「うんうん♪明朗な推理で犯人を追い詰める」
「そうそう。でもさすがに犯行現場を目撃しているところを犯人の仲間に見られていたとは俺も気づかなかったぜ」
「そうだね~。私も気がつかなかったよ」
「さすが『湯煙温泉殺人事件~家政婦は見られた14~』って感じだな」
こいつらはどんな番組を見てるんだよ…。
しかもパート14というのが恐ろしい。
「所で前橋は昨日のサスペンス見たのか?」
「その時間なら多分つかれて寝てたと思う。何時の番組?」
「えっと…たしか9時から11時まで」
王道だな。
「思いっきり爆睡してた」
「つかれたってお前何やってたんだ?」
「バイト…(小声)」
「おいおい。許可無しでか?」
「大丈夫。転入したばっかりで知らなかったといえばすむ話だ」
「おまえ…極悪人だな」
「密告しないという約束してくれる代わりにお前には俺に貸しを作ったということにしておこう」
「そう言うのは俺が言う台詞じゃないのか?」
「気にするな。そんなことを気にしてるとアメリカザリガニに食い殺されるぞ」
「ふっ、アメリカザリガニは俺の僕だから安心しろ。主人を食べるという事はしない」
「甘いな。昨日お前が寝ている間に100円で買収した」
「なっ!!貴様…」
「…」
「…」
「「突っ込め!!」」
二人の矛先が時ノ沢へ向く。
1人で弁当を食べていた…
「突っ込み役を探さないと…」
さっきまで言っていたギャグがあまりにも寒いことに気がつく頃には
弁当を食べ終わっていた。
はぁ~

「所で渉?」
「ん?」
「お前ってあまりほかのやつとは話さないよな」
「お互いだろそれは」
「俺はこっちに来たばっかりだからな」
「隠さなくてもわかるぞ~いかにも俺と同じって感じだ」
「それは孤独を好むということを認めたということだぞ」
「ふっ…人には言えないことがあるんだよ一つや二つ…」
「なんか意味深だな」
「お前は…なんかほかのやつとは違うんだよ…」
「俺が…まぁ俺ほどの才能を持った奴はこの世を探してもどこにもいないと思うが」
「そう言うところが、だよ」

帰りのホームルームの先生の話によるとどうやら土曜日は学校は休みらしい。
はぁ…長かったな。
今週はいろいろなことがありすぎた。
気がつくと5日も経っていた。
明日…俺は何事も無かったようにバイトに行く。
もう…なれてしまったんだな…きっと。
そして…俺は向こうの世界でも人とはあまり接していなかったことを痛感する。
寂しい…と思ったことがないもんな、こっちに来てから。
まぁいい。
そこまで考えると俺は部屋の電気を消した。

37日 土曜日

「ふぁぁ~…」
よく寝た。
といいつつも今は朝の8:00。
バイトの体だよ。
思わず笑う。
部屋の窓を開けて一階に向かう。
いつもの様にトーストを作りコーヒーを煎れる。
「ふぅ~」
ちなみに朝はパン。昼は弁当。夜は和食、というのが俺の典型的な料理のパターンだ。
さて、行きますかね。

10:30
俺は今日はちょっと遅目の出勤だ。
店長の計らいで今日だけは免除してもらった。
明日からは9:00時ごろ店にいないとだめになるはず。
店の裏から入る。
木曜日のうちに知り合った人に軽く声をかけられる。
俺も相槌を打って店の中に入る。
タイムスタンプを記入して、制服に着替えいざ店頭へ。
まぁ制服といってもエプロン見たいなやつだから服の上に着るだけだ。
店長に朝の挨拶をすると今日のシフトで一緒に仕事をする人を紹介された。


弁当を食べ終え店に戻る。
戻ったとき店長にこまねきされた。
そう言えば店長のシフト…ってどうなってるんだ?
「あっ、前橋君すまんがちょっと聞きたいんだ」
「はい」
店長の隣には20代ぐらいの女の人が立っていた。
「所でなんでしょうか」
俺は店長に聞く。
「あぁ。パソコンのことなんだが…これから取引先に行かないと行けないからこのお客さんを頼めるかい?」
「はい。大丈夫です」
「それじゃあ、お願いするよ」

「ところで、どうしましたか?」
「それじゃあ、話といくよ」
見た目を裏切られたような明るい話し方。
絶対クールな人だと思ったのに…。
「新しいCPUが欲しいんだが…TYPE-4-SYSTEMに耐えられる物を探している」
「TYPE-4-SYSTEMに耐えられる物ですか?」
「あぁ」
TYPE-4-SYSTEM…パソコンの頭脳であるCPUを4つ並列と直列そして3Dで配置して演算処理を数倍に高める効果を持つ反面
電圧負荷、熱量、消費電力などの問題が絡んできて専門職でもあまり使わないシステムだ。
しかも一般市場には出回ってなく、現在かなりマイナーなシステムだったはず。
しかもまだ開発段階のはずだ。
ちなみに俺のTYPE-3-SYSTEMはもとの世界ではかなりの最先端技術だが
こっちのせかいでは、5%ほど普及しているらしい。
だが、この世界においてはこういった技術はすこし進んでいるらしい。
昨日もネットサーフィンをしていたが知らない技術名が出ていた。
「ちなみに今まで使っていたCPUはなんでしょうか?」
「KY-5GHz」
一発で商品名が出てきた。
KYシリーズ…か。
「それならマザーボードはYM-740ですか?」
「そうだな」
「YM-740………そうですね、KY4S-4Ghzなんてどうでしょうか?」
KY4S-4Ghz…演算能力は多少劣るがTYPE-4-SYSTEMのために開発が進んでいるCPUで現在一部で試験配布中の商品だったはずだ。
「KY4S-4Ghzがあるのか?」
女の人は驚きの顔をして聞いてきた。
「はい。昨日在庫を確認したところ6つほどありました」
「ならばそれを4つ頂こう」
!?
正直驚いた。
試験配布商品と言いつつも値段は1個辺り8~9万する代物だ。
「はい。お買い上げありがとうございます!」

「そうだ。君はいい店員だね」
「どう言う意味でしょうか?」
「いや、どこの店でも『TYPE-4-SYSTEM』の話を出すとわからない顔をするかそんなCPUは無いといわれるんだよ。
 ところがここの店は違ったね。いやいい買い物といい発見をしたよ」
「ありがとうございます」
「また何かあったら来るから」
「またのご来店お待ちしてます」
すでに出口に向かっている女の人に向かって挨拶をする。
どうやらあの人からの評価値が+10されたようだ。
うむ、これで粛清されなくてすむな。
アーティファクトをまた頂ける…。

TYPE-4-SYSTEM…俺のはTYPE-3-SYSTEMだ。
さすがに4つはお金が足りない。

31日 日曜日

意識の遠くから聞こえる目覚し時計の音。
眠い…
昨日は早めに寝たのに…。
やっぱり…つかれてるのか…。
あぁ…
だめだ、早く起きないと遅刻する。
3日目に遅刻というのもタイミングがよすぎる。
起きよ。
「ふぁぁぁああぁぁ…」
思いっきり大きな欠伸をする。
部屋の窓を開け一階に降りる。
トーストを作り弁当を準備する。
「たまには豪華に作るか」
ということで今日のメニューは牛丼に決定。

「そろそろ買出しに行かないと」
既に冷蔵庫の中身はだいぶ少なくなっている。
いつも日曜日に食材は纏め買いする。
もとの世界では日曜日に商店街は大半の店が安売りする。
ちょっと待て!
今何時だ!?
時計を見る。

7:30
やべぇ…こうしてる場合じゃねぇ。
一気に準備を終わらせると俺は家を飛び出す。
鍵を閉めるのがもどかしい。
間に合わない!
このままだと…このままだと…。

朝川商店街
「ちっ、完全に乗り遅れた」
目の前には人だかりの山。
既に朝市は始まっている。
「ふっ、しかし俺は何度もこの戦場で戦ってきた」
頭脳を振る回転させ商店街の地図を頭に3Dで表示する。
ここから肉屋は…あと野菜…魚。
店の配置、バイトの出勤を考えて順番を決めていく。
まずは野菜、肉、魚の順番にする。
今朝の広告だと肉は一人100g限定だが国内産の牛肉が100g50円というお買い得価格だ。
とりあえず500gは確保しないとな。
5周か…どこかの壁際スペースでもあるまいし。
さて、逝きますか。
ショルダータイプのリュックを背負いなおし俺は戦場へと駆け出した。
人ごみの中沢山の人が歩いていてその人達はすべて別の方向へ動いていく。
自分の同じ方向に向かう人を探し出しその人の流れに便乗する。
そして先へ先へと動いていく。
これぞ生きる道!
数分後、肉屋の前に辿り着く。
店員の数を確認…どうやら沢山狩り出しているらしく6人いる。
ふっ、勝った…な。
一番左側の店員に肉を注文する。
他の人の声に邪魔されないように出来る限り大声で。
そして商品を受け取るとあらかじめ用意していたお金を払う。
すぐさま立ち去り別の店員のもとへ…
まさに戦術。
タクティクス。
肉を5周のすえ500g購入。
リュックにしまう。
こうすれば手ぶらになり動きが機敏になる。
「さて、野菜だ」
誰にとも無く呟く。

野菜屋の目の前。
思った以上に人は少ない。
これなら楽だろう。
店頭に並んでいる商品から今週のおかずを決め一気に頼んでいく。
「1855円になります」
店員の声。
「ありがとうございました」
俺はお金を払うと店を後にした。

その後も魚屋に行き買い物をしたあと日用品を補給して俺はバイト先に向かった。

……
………

9:00
完璧だ。
思わず自嘲気味に笑う。
あの商店街での闘いを終え、バイトに出勤したのはちょうど時間道理。
店長に頼み冷蔵庫を借り俺は買って来た商品を入れる。
「よっ」
見覚えのある人に話し掛けられる。
確か昨日紹介された人で、国府田 衛(こうだ まもる)さんといったはずだ。
「おはよう」
「朝から逝って来たのか?」
「あぁ」
「次はビックサイトで会おう」
「俺にはまだ修行が足りないですよ」
ちなみにこいつは同人のサークルを持っていて聖地でも戦ったことがある男だ。

聖地
同人界の用語で「東京ビックサイト」で年に2回行なわれる「コミックマーケット」のこと。
20万人がひしめくことや、同人界トップクラスの人達が集まるためそう言われている。
ちなみに、「夏コミ、冬コミ」にいく人に対して敬意を表して、
「逝ってきます」「逝ってらっしゃい」というのが慣わし。
火打ち石で見送る必要は無い。

あの人ごみの中、1時間で100SPを回れるという伝説を持つ男だ。

SP
サークルスペース、スペースの略でサークルの区域を表す言葉
3SPとは3つのスペースという意味。
必ずしも3スペース=3サークルとは限らない

「ははは…まぁお前ならすぐなれる」
「それはありがたい」
店に出ようとしたとき店長に呼ばれる。
「前橋君、本職だ」
「あっ、わかりましたすぐ行きます」
「じゃあな」
「あぁ行ってきます」

……
………
階段を上り2階に行く。
「さっそくだが畑中さんのお宅に行って欲しい」
「どこでしょうか」
「これが地図だ。畑中さんの家は…ここだ」
結構遠い。
まぁ自転車だから大丈夫だろう。
「どういった相談なんですか?」
「無線LANを使っているんだが切断されるらしい」
「家は」
「これをいってしまえば簡単に解決だがコンクリートだ」
「なるほど…アクセスポイントの近くで使うかアクセスポイントを増やすか…ですね」
「その通りだ。まぁ現地で確認してくれ」
「わかりました。今から行けばいいんですか?」
「あぁ。なるべくはやくと言っていた」
「それじゃあ今から行きます」
「気をつけてな」

……
………
『ピンポーン』
典型的なドアチャイムの音が響いたかと思うと中から人が出てくる。
「あの、『川崎PCメンテナンス』の者ですが」
「あっ、入って入って」
40代ぐらいの男の人が俺を仲に招き入れる。
「これなんだ」
ノートパソコンを指差す。
「コンクリートだから…だと思うんだが電波の調子が悪くてな。とくに2階が」
このタイプのアクセスポイントだと…中継ハブが使えたな確か…。
「2階でも必ずつかうんですか?」
「あぁ」
「ならばちょっとお金がかかりますが中継ハブを2階に取りつけるという手段があります」
「なるほど…。ちなみにいくらだね?」
「えっと…ハブは4500円(税別)ですね」
「よし、お願いするよ」
「ありがとうございます」
俺は鞄から中継ハブとアクセスポイントを取り出すと階段に中継無線ハブ、2階にアクセスポイントを取りつける。
このLANのハブはつい最近発売されたモデルでUSBの情報もLANに載せて配信できるようになっている。
ちなみにセキュリティーにも対応している。

「それでは、ちょっとお借りします」
接続とハードの設定を終えると俺はノートパソコンを借りて接続を試してみる。
大丈夫…みたいだな。
「OKです」
「ありがとうございますね」
「また何かあったら『川崎PCメンテナンスへ」
お決まりの挨拶をして家を出た。

初出: 2002年10月1日
更新: 2005年2月5日
原作: 鈴響 雪冬
著作: 鈴響 雪冬
制作: 鈴響 雪冬
Copyright © 2002-2005 Suzuhibiki Yuki

Fediverseに共有