アクロス・ザ・タイム -プロローグ-

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プロローグ

時の流れ…。
それはいつだって変わらず、いつまでも永遠に流れつづける。
そんな流れの中、人は生き、世界は回っている。
たとえ、人がいなくなっても…時間だけは動きつづけるだろう。
こんな誰だって知っている事実。
宇宙にはさまざまな時間の流れがあるという説をいった学者がいる。
我々にとっての時間というものは、1日24時間であり、1分は60秒である。
だが、1日22時間という星もあれば、そもそも時間の単位すら違うだろう。
結局、我々だって、自分の定規でしか全てを知ることはできないのだ。
だから、自分の知りうる世界を越えた世界を知ったとき、
きっと人は混乱に落とし入れられるだろう。
当たり前だ、そんな事。
自分の知らないところは、不安の塊でしかならないのだから…。

時間の流れとは、一つ…。
少なくても、我々にとっては…。
複数の時間が存在しても交わることはありえないのだ。
だが、もし、その交わるはずのない時間が交わったとき、
いったい何が起きるか…想像もできない。
ただ、人間は時間に身をゆだねるだけだから。
全てを受け入れるだけだから。

そして、今、それが起ころうとしている。
1人の人間と周りの人々を巻きこんで。

8月31日 日曜日

「はぁ~…暑い」
俺は、寝つけない体を起こして、部屋の電気をつける。
夜の11時
明日から学校があるから、早めに寝ようとしてたのに。
「クーラー…」
虚しい。
そんな高価な物がうちにあるはずがない。
俺しかすんでいないし、俺しかいない。
今日は8月31日。
長かった夏休みも終わり、明日からは学業再会だ。
んで、宿題なんかも終わってなかったりする。
「はぁ~あと1日、夏休みが長かったらいいのに」
誰だって昔考えたこと。
ずっと休みだったらいいのに。
いまは、それを、割りきって考える。
ずっと休みが続いたら、人は怠けて誰かを頼る。
そうすると頼られた人はだんだんストレスや重圧を感じるようになる。
結局、社会が混乱するのだ。
「無理…だよな」
俺は大人しく寝ることにした。

その夜、不思議な夢を見た。
空…いや、違う。
どこかの空間を飛んでいる夢。

朝。
目が覚める。
どうやら、時計をつけたままだったらしい。
左手に腕時計を確認した。
「時間は…っと」
7:25分。
余裕で間に合うか。
俺は既に両親をなくしていて、朝の準備などをすべて1人でやっている。
これがそこらのゲームだったら、義理の妹とか幼馴染とかいるんだろうけど、
そんな人がいるはずがない。
寝間着を脱ぎ、真新しいYシャツに腕を通す。
どこにでもあるような夏服。
どこにでもあるようないつもの風景。
俺にとってもいつもの朝。
朝ご飯を食べ終え、まだ時間がある。
朝俺はテレビをつけない主義だ。
朝は優雅に過ごしたい、という意味不明な信念を持っているからだ。
うむ、これぞまさしく『フランススタイル』。
…?そうなのか?
思わず自分に突っ込みをいれる。
まぁ、都会や社会の情勢に耳を朝から傾けても意味がないものだと思っているから。
いつだって知ることができる。
そんなこと。

学校への道。
いつもの様に自転車で学校まで行く。
15分ぐらいの道のり。
いつも眺めている風景がそこにはある。
「あと15秒」
時計を見ながら呟く。
この先の待ち時間の長い踏みきり。
電車の時間を考えると、あと15秒以内にわたらないといけない。
まぁ、余裕だけど。
踏みきりを通過する。
さて、そろそろ遮断機が下りる頃だ。

……
………
後ろの音に耳を傾けても、警報すら鳴らない。

後ろを思わず振り返る。
遮断機は下りていなかった。
「電車…遅れてるのか?」
まぁ、いい。
俺には関係のないことだ。
電車通学の奴らにとっては大変だけど。

学校の廊下。
一応、宿題がまだ提出できないことを、報告しておくか。
うちの学校は提出物に関しては厳しく、朝のうちにいっておかないとあとで生徒指導室に拉致される。
社会人になったとき締め切りは契約破棄に繋がる重要なことだと言うことらしい。
『コンコン』
「失礼します。情報処理科、2年B組の…」
「あっ前橋だな?こっちに来てくれ」
挨拶をいい終わる前に見知らぬ先生に呼ばれる。
ちなみにうちの担任は、佐々木正則(ささき まさのり)という。
「えっとなんの用事でしょうか」
「あっ、聞いてるよ」
…?
「聞いているとは?」
「君だね、新しくうちのクラスに転入してくる前橋遼一(まえばし りょういち)君だね」
まえばし りょういち…確かに俺の名前だ。
だけど、その前にいっていた『転入してくる』って…。
「えっと、人違い…だと思いますが…」
「前橋遼一、情報処理科、2年B組、男、年齢17、部活は映像研究部。間違いないよな?」
「はい…」
「それなら大丈夫だ」
なにが、大丈夫なんだ? 頭が混乱してきた。
「初めてのクラスにはなかなか馴染めないと思うけど、頑張ってくれ」
そう言うと先生は、半ば強引に俺の背中をおしながら廊下へ連れ出した。
「えっ、あっ、はい…」
そういうしかなかった。

教室の前の廊下。
女の人が立っている。
既に他のクラスではホームルームが始まったらしく、先生の声が響いている。
そんな中、俺と先生は廊下を歩いている。
先生は立ち止まった。
クラスプレートには「2年B組」とかかれている。
「それじゃあ、後で呼ぶから、その時に入ってきてくれ」
「わかりました」
俺の代わりに女の子が答える。
先生が中に入る。
号令が聞こえた。
「えっと…初めまして」
廊下に立っていた女の人が話しかけてきた。
「初めまして」
簡単に相槌を打つ。
「あなたも、転校生ですか?」
「えっ、そう…みたいです」
「くすっ、おかしい人」
「えっ?」
「だって、そうじゃない。みたいです~なんて、まるで客観的に自分を見てるみたいで」
「そうか?」
いや、正直、そういうしかないんだ。
俺にはわけがわからない。
教室の中がざわめき、先生の呼ぶ声がした。
教室に入る。
クラスの視線が集まる。
俺と、もう1人の女の人に…。
「…初めまして。名前は………」
その後のことは覚えていない。
自分が何を言ったかすらわからない。
先生に席を指名されたので、そこの席に行く。
さっきの人は…隣の席みたいだ。
「改めて、初めまして」
「あぁ、こちらこそよろしく」
「私の名前は…ってもう知ってるよね。さっき自己紹介したし」
「あっ、すまん。もう一回教えてくれる。ぼーっとしてて記憶がない」
「まったくも~」
そういいながらも彼女は俺に名前を教えてくれた。
「私の名前は、時ノ沢夏菜(ときのさわ なつな)。以後よろしくっ♪」
「俺の名前は…」
「私はきちんと聞いてたから。お互い転校生どうしまぁ仲良くしましょう」
「あぁ」
彼女の第1印象は、元気がいい…と俺は思った。
そこまで考えて俺は前に目をやる。
少しでも多くのことが知りたくて。
ここ、教室の中央、一番後ろ、ここからは教室の様子がよく見渡せる。
先生の話している姿。俺達のことを見つめるような視線。
そして、黒板。

……
………!?
ふと見た黒板の日付。
そこには…

はっきりと…

『8月32日 月曜日』
と書かれていた。


俺の不思議な「自分の知っている時間」を越えた物語が今、始まった。


時間が交わるドタバタ恋愛アドベンチャー小説
アクロス・ザ・タイム



~Across the time~

初出: 2002年9月1日
更新: 2005年2月5日
原作: 鈴響 雪冬
著作: 鈴響 雪冬
制作: 鈴響 雪冬
Copyright © 2002-2005 Suzuhibiki Yuki

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