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アクロス・ザ・タイム

【サムネイル】表紙見本 二つの道がある。貴方ならどちらを取るだろうか…。 一緒にいるだろうか…たとえそれが相手を失う結末だとわかっていても…。 離れてしまうだろうか…たとえそれが永遠の別れだとわかっていても………。
 気がついたら好きだった。そしてそれに気がつく事が遅すぎた。お互いの事が好きなのに…選べる道は二つのうち一つしかない。所詮ただの人間…。時間に身を任せることしか出来ない人間…。これが運命だから…。

 目が覚めたらいつもの町にいた。でも、違うことが一つだけあった。何故か俺は転入生になっていた。昨日まで通っていた学校に俺は転入してきた。クラスのメンバーは全く違うのに…学校も、町も、家も…みんな同じ。俺はいったいどこにいるんだ? ここは…どこなんだ?

 鈴響雪冬の書く恋愛小説の第二作、アクロス・ザ・タイム。交わってはいけないものが交わる時、そこには何が起こる。
 原作の半分以上を書き直すという大幅な加筆修正により、生まれ変わった『新編:アクロス・ザ・タイム』。果たしてそれは原作に残された謎を紐解くのであろうか。

(10万5,000文字相当)

本文より

「貴方も、転入生?」
「えっ、そう…みたい…だな。」
「なにそれ。」
 口に手を当て、目を細める。
「おっかしなひと〜♪」
「えっ?」
「だって、そうじゃない。見たいです〜なんて、まるで客観的に自分を見てるみたいでしょ?」
「そうか?」
 …いや、正直、そう言うしかなかった。自分でもよくわからない。なぜ俺が転入生になっているのか。同じ学校、同じ教室に入るはずなのに、先生が違うのか…。
 教室の中がざわめき、先生の呼ぶ声がした。その声を聞き、女の人は教室に足を踏み入れた。
 付き添うように教室に入ると、クラス中の視線が集まった。ネットオークションに掛けられている商品はこんな気分なんだろう。
名前を名乗った後の事は覚えていなかった。何をいっていいのかわからなくて、精一杯だったようにも感じる。気がつけば先生に自分の席を示されていた。
「改めて、初めまして。」
「あっ、うん…。よろしく。」
 隣になった女の人の挨拶に軽く相槌を打つ。
「私の名前は…ってもう知ってるよね。さっき自己紹介したし。」
「あっ、ごめん、もう一回教えてくれる? ぼーっとしてて記憶が無いんだ。」
「まったくも〜」といいつつも、彼女は俺に「私の名前は、時ノ沢夏菜」と教えてくれた。


「密度というのは、物質を形成する微粒子の持つエネルギーで決まる。微粒子同士の引力が強ければ密度は増えていくし、引力が弱ければ、微粒子はそれぞれの方向に動くから密度は減る。つまり、密度が最大になると言う事は、物質を構成する微粒子に対し、引力が一番作用している事になる。現在の通説だと、中性子星やブラックホールが最も密度が高い存在だが、それは最も引力が強いのと等価だ。ブラックホールも中性子星も自分の引力が大きすぎて、星としては極微少な大きさになってしまっている上に、光を含めた他の物質を全て吸い寄せてしまう存在だからな。この研究の一環で、時間が早く進むのは引力が強い時である、と言う仮説があるんだ。さて、今までの話をまとめると、密度が減ることは、物質が持つ引力が減ることを示し、引力が減少することは、時間の速度が遅くなることを示している。ところで、現在の科学で絶対零度と呼ばれる温度はどんな温度だ?」
「…わからないです」
「絶対零度というのは、古典力学…つまり、分子運動を元にして考えた場合の運動エネルギーが最も低い温度のことで、物質の振動が完全に止まった状態の事を指す。この状態だと、物質は運動エネルギーを持っていないから、面白い現象が沢山発生する。超伝導なんかは、電気抵抗値がゼロになる現象だが、これだって、物質が持っている運動エネルギーがゼロになるから、電子の移動を邪魔する存在が無くなったと言えるわけだな。ところで、現代力学では、不確定原理によって微粒子レベルでの物質の位置は求める事が出来ないから、この温度でも微粒子は僅かに振動している…運動している事になっている。それを考慮して、今我々が見る事が出来る絶対零度を『見かけの絶対零度』と定義しよう。さてここで、物質の動きが完全に止まる『真の絶対零度』を作り出すことが出来たとしよう。物質が運動しないと言うことは、引き合う力…すなわち、引力も発生していないことになる。引力が低ければ低いほど時間の流れが遅くなるのだから、引力がゼロならば、時間の流れはゼロになる。つまり、真の絶対零度の世界では………時間は止まる、という仮説が立てられる」
 もはや先生の説明にはついて行けない。○×□の記号が頭に並んでいく。
「…ギブ…アップか………。」


 ドアを開けるとそこは吸い込まれそうな闇。部屋の中は電気がついていなかった。耳を澄ましてみると、微かな音が聞こえる。
 その音に近づく頃には目も慣れ、よく見えるようになっていた。どうして電気をつけなかったんだろう…思ったが、つけなくて正解だった。
 音の中心には夏菜さんが目をつむり横たわっていたのだ。
 カーテンが閉められた部屋。廊下からの明かりだけが夏菜さんを照らし出す。
 短くとも艶のある髪がひかりを反射し、細い腕は大きめの四角いクッションを胸元に抱き寄せている。脚を腰から折り体を丸めて眠っていた。
 華奢な鎖骨を、夏菜さんの特徴である束の長い髪が隠すように覆っている。長く通った鼻。それでいてバランスを崩す事無く存在する諸々の部品。家の中でい つも着ている白いサマードレスは背中が開かれ、肩ひもが後ろでクロスしている。結び目の形…スカートのしわの数…普段は気がつかないそんな小さな事だっ て…今…何故か俺には見えている。なんで…俺の心臓はこんなにも弾んでいる。なぜ…こんなに動揺する…。
 夏菜さんって…こんなに小さかったけ?
 丸められているその体はいつも見る夏菜さんより遥かにに小さく見えた。
 ………って…。
「さて、どうするか」
 気持ちよさそうに眠っている夏菜さんを起こすのも悪い気がする。
「んっ…。」
「!」
 僅かな布ずれの音を残し、俺の驚きをよそに再び寝息を立て始める。静かな場所に慣れていたせいか、音に敏感になっていたのだろう。
「とりあえず…。」
 わざとらしく声を出すと、俺はベッドの上で居場所を無くして丸まってしまっている薄手のシーツを、夏菜さんにそっと掛けた。
「風引いても知らないぞ。」
 …さて、戻るか。俺はドアを出来るだけ音を立てないようにして閉めた。


 校舎脇の木々の隙間から、太陽の光が落ち、窓ガラスを通り抜け、廊下に天使の舞いを届けてくれる。風が吹くとその舞は優雅さを放つものから情熱的なダンスへと変わった。俺達は二人並んで、その道を歩いている。
「ねぇ、前橋君。」
「ん?」
 うわわ…。
 隣を歩く夏奈さんの方を振り返ると、目の前に夏奈さんの顔があった。肩と肩が触れ合い、手の甲が歩くたびに軽く触れ合う。
 まてよまてよ…この状況を整理してみよう。ここは朝の学校の廊下。俺と夏奈さんは一緒に歩いている。二人の間の距離は0に等しく、肩と肩がぶつかっている。オーケイ、何も問題………
「問題ありすぎだ…。夏菜さん、ちょっとくっつきすぎ。」
少しだけ距離を離して抗議。
「いいでしょ、クラスメートなんだし。」
「いや…流石にこれは…その枠を越えてるぞ。」
「…居候としているのは何処の何方ですか?」
「いや、アレは姐貴が悪い。拉致されている俺のみにもなってくれ。どうでもいいから離れろよ。ただでさえ、朝の廊下は人が多いんだからさ。」
「それじゃあ、今日押し倒されたのはどうして?」
「いや、あれもどちらかというと姐貴が悪い。」
「うー。」
「うー、じゃない。勘違いされたくないだろ?」
「にゃー」
「その台詞は『ねこみみ』でもつけてから言え。」
「わかったよ…。」
 そう言って手提げ鞄を探す夏菜さん。
「ちょっと待て、おまえ持ってきてるのか?」
 俺の問いに何も答えず漁り続けている…。その表情が変わり、鞄の中に入っていた右手が出てきそうになると、俺はその腕を握り押さえ込む。
「マテ。」
「ちょ…痛いよ…前橋君…。言う通りにするから乱暴にしないで………」
 夏菜さんは半分涙ぐんだ目で俺を見上げる…。さりげなく自分のせいでますますやばい構図になっている気がするが、ここまで来たら続行するしかない。
「おまえ…本当に持ってきてるのか?」
「…たまに…。」
「えーっ!」
 何事かと廊下を歩いていた人が俺達へ目を向ける。廊下の途中で立ち止まり、見つめ合っている二人。一人は鞄に手を突っ込み、その腕を握りしてめいる俺。しかも片方は涙目と来た。誰がどう見ても怪しい光景。ひそひそと小さな声が聞こえ、みんな笑顔で俺達から視線を外す。
 終わった………。
「そんなに驚かないでくださいよ…。身だしなみですよ、乙女の身だしなみ。」
「誰が乙女だか。」
「助けてくださいっ! この人痴漢ですっ!!」
「ありえねーっ!」
 朝から騒々しい生活が始まった。


 空を見上げると、星達が屋根屋根の隙間で窮屈そうに瞬いていた。大通りから一本入っただけで車の通りはぐっと少なくなる。閑静な住宅街…。ましてや俺が見ている方角は街はずれ。夜の色は深く、星がよく見える。静かな道路の真ん中、俺は、遥か遠くに思いをはせていた。
「星を…見ているのか?」
「あっ、静姉さん。」
「星を見ているのか?」
「はい。こうすると視力が回復するんですよ。」
「あぁ。近いところと遠いところを交互に見るといいというな。…って、妙に現実的なんだな。」
「はい。」
「お前のそういうところが面白くて好きだ。」
「はぁ…。」
 静姉さんも視線を上に持ち上げる。
「星は時間の管理者、か。」
「えっ?」
 空に向けていた目線を映す。静姉さんの横顔が見えた。目の形や鼻のラインが夏菜さんにそっくりだった。
「太古の昔人は星の巡りから季節の流れを知り、毎年それが繰り返される事を知った。人間は星によって時間を決め、そして、農作物を育てていただろ? だから、星は時間の管理者。」
「なるほど…。」
「この問題も星に祈れば解決するかもな、なんてな。そういえば…時間といえば…。」
 空を見上げていた静姉さんが視線を俺に向ける。
「前橋…明日は…最後の日だな。」
「はい…。」
「思いっきり楽しめ。門限は無しだ。」
「わかりました。」
「回りに気を使って適当にその場に合わせる必要なんてない。たまには思いっきり羽目を外してみろ。最後ぐらい…自分の思いを貫いてみろ。」
「最後ぐらい…、自分の想いをつら抜け………。」
 …。
「はいっ!」

作品について

作者
  • 企画: 鈴響雪冬
  • 原作: 鈴響雪冬
  • 著作: 鈴響雪冬
冊子
  • 規格: B5サイズ、110ページ
  • 価格: 450円
  • 印刷: インクジェット
  • 表紙: 総天然色 (マット厚紙用紙)
  • 本文: 白黒・上下二段組み (普通紙)
  • 発行: 2004年9月12日
  • 絶版: 2007年8月18日
  • 重さ: 200グラム
備考
  • EYEマーク
初出: 2004年9月5日
更新: 2007年7月20日
著作: 鈴響雪冬
Copyright © 2004-2007 Suzuhibiki Yuki